"テスト会社"の内外で言われていること

今回から新連載「テスト会社に勤めるって実際どうなの?~事業会社QA・ツールベンダー”も”経験して見えたこと~」をスタートします。

私はこれまで、いわゆる「テスト会社」と「事業会社」、そして現在の「テスト自動化ツールの会社」という、大きく3種類の会社に勤めてきました。その間はずっと、テストエンジニアやQAエンジニアとして、ソフトウェアテストや品質に関わる業務に従事しています。

本連載では、この中でもとくに「テスト会社」で働くことについて、3つの業態を経験してきた私自身の視点から語ってみたいと思います。

テスト会社に勤めていたころも含め、「テスト会社ってこうだよね」という話を、いろいろなところでよく耳にしました。しかしその中には、合っている部分と、そうではない部分の両方があります。テスト会社に勤めたからこそわかることもあれば、逆にテスト会社に勤めている方(特に若手)が陥りやすい思考もあるな、と今振り返ってみるとわかることもあります。

本連載の話が唯一の正解、というわけではありませんが、いろいろな業態を経験したQAエンジニアの視点として実際に感じたことを共有できればと思います。

これまでのキャリア

これからの話の前提として、まずは私自身の経歴を改めてご紹介しておきます。

2012年から10年ほど、テスト会社に勤めていました。この間はいくつか客先常駐のプロジェクトと社内での勤務も経験し、

  • テストの実行や設計
  • テスト自動化
  • 現場リーダーとしてのメンバーやパートナーの管理・マネジメント
  • 新規提案や営業同行
  • 中途採用の募集・面接、エンジニア評価
  • 組織立ち上げ

など、「テスト会社らしい」業務を含めていろいろな経験をさせてもらいました。

2023年からは3年弱、事業会社でQAエンジニアとして働いていました。部署では1人目のQA(社内の別プロダクトにはすでにQAがいました)として、QA組織の立ち上げを目指していました。会社の事情もあり、結果的に大きな体制を作るところまでは至りませんでしたが、QAチームを立ち上げて始動するところまでを行いました。この間は、E2Eテスト自動化の推進や、開発者に向けたQA・テストのイネイブリングなど、特定のチームやプロダクトに入り込んで実務を担うのではなく、組織横断的な活動が中心でした。

そして2025年から本記事執筆時点までの1年強は、テスト自動化ツールを提供している会社に勤めています。ここでは自分自身がプロダクトの品質保証を行うのではなく、テスト自動化に関連する技術検証や、普及推進活動が中心となっています。

それぞれの業態で同じくらいの期間在籍していればほんとうに公平な意見が言えるかもしれませんが、期間としてはテスト会社が特に長いです。この前提で読んでいただければと思います。

また、私がテスト会社から事業会社に移った直後のタイミングで生成AIが急速に普及・拡大したため、その後のテスト会社内部の変化については直接経験をしたわけではない、という点もご了承ください。

テスト会社の中で言われること

ここからは、本連載全体を通じて考えていく「テスト会社の内外で言われていること」をいくつかみてみましょう。具体的な話や「実際どうなの?」は次回以降の記事で主に語るとして、本記事では「こんなこと言われているよね」という共通認識をまずは持っていきたいと思います。

「やりたいことができない」という声

新卒でテスト会社に入ってしばらくすると、「テスト会社ではやりたいことができない」「事業会社のQAのほうがいいのでは」といった声を耳にするようになりました。実は私自身も、若い頃は同じように感じていました。上司、しかも直属よりも上の上司に飲みに連れて行ってもらって愚痴を聞いてもらっていたこともあります。

この不満の要因のひとつとして、個人と会社の間にある利害のズレがあるように思います。個人、特にやる気があってキャリアを考えている若手には、市場で求められるスキルが身につく業務に関わりたいという気持ちがあります。一方で会社としては、単価の高い案件や、待機期間なしで入れる案件にエンジニアをアサインしたいという事情があります。当然ながら、所属するエンジニア全員の希望を全て叶えるわけにもいきません。この、希望する案件に関われる・関われないという点で、個人の側に「やりたいことができない」という不満がつのっていく場合があります。

たとえば、かつて「テスト自動化はこれから必須スキルになる」と言われていた時期がありました。現場で自動化を提案しても、顧客に求められていなかったり、契約のスコープ外だったりすると、機会そのものが得られません。また自社の都合で自動化に関わる案件そのものにアサインしてもらえないなど、不満を抱えてしまうパターンもあります。

「テストの仕事しかできなくなる」という不安

もうひとつ、テスト会社に勤めていたころによく耳にしたのが、「このままではテストの仕事しかできなくなるのでは」という不安です。特に新卒でテスト会社に入ると、開発の経験が無い状態です。2、3年のうちはよいかもしれませんが、5年10年と勤めた先で「やっぱり開発者になろう!」というのは難しそうだ、将来の選択肢が狭まってしまう、と考えるわけです。

このあたりは、ここ10年くらいでずいぶん状況が変化してきた部分でもあります。たとえば待遇面。かつてはテストの仕事よりも開発の仕事のほうが給料が良いと思われていたので、「いつまでもテストをしていたくない」とキャリアチェンジを狙う方もいました。しかし昨今の採用市場ではエンジニア全体として待遇がよくなっており、QAエンジニアの募集を見ても、その待遇は開発者と同等のものがたくさん見られるようになりました。

また、生成AIの登場も大きなポイントです。職種間の隔たりが少なくなり、軽微なバグであればQAエンジニアが自分たちで直してしまう、という組織もあるようです。そのため、「テストの仕事しかできなくなる」という不安は、以前に比べれば軽減されているのではないでしょうか。 一方で、開発者の中での品質意識やテストの技術も高まってきており、テストだけに特化したスキルセットでは今後の市場価値を保ちにくくなるかもしれない、という声も聞かれるようになってきました。

「事業会社に行きたい」という声

これらの不安や不満によって、テスト会社の若手が事業会社に行きたがる傾向が当時はあったように思います。テスト会社から事業会社に移ることへの”憧れ”のようなものの存在を感じることもありました。ところが今では、事業会社で活躍していたQAが、むしろテスト会社に移ってくるという動きも出てきています。

不安の種類は変わってきているものの、何らかの形でモヤモヤが残り続けている、という点は当時とあまり変わっていないのかもしれません。今回の連載で思い浮かべている読者層、つまり今の環境にモヤモヤを抱えている若手のテスト・QAエンジニアの感覚そのものは、当時とさほど変わっていないのではないか、というのが私の仮説です。

テスト会社の外から言われること

「主体性がない」という決めつけ

逆に、テスト会社の外からもステレオタイプを感じることがあります。代表的なのが、「テスト会社のエンジニアは主体性がない」といった声です。

先ほどの「やりたいことができない」という内部の声と、一見矛盾しているように見えるかもしれません。しかし、これには構造的な背景があるように思います。

それは、「テスト会社のテストエンジニア=作業員」というイメージです。おそらく、昔の実態に由来する部分もあるのでしょう。上位のテストエンジニアが設計したテストケースを、手順書に沿って実行するだけの存在だと見なされると、それは受動的な存在、つまり主体性がない存在、という印象につながりやすくなります。

加えて、ビジネス構造上の事情もあります。テスト会社のエンジニアは客先の社員ではないため、どうしても「社外の人間」として扱われる場面が出てきます。これはテスト会社に限った話ではなく、派遣社員や業務委託など、外部人材全般に共通する構造的な問題ではないかと感じています。

私個人が経験してきた範囲では、客先の正社員の方は「あの人は他社から来ている人だから」といった線引をせずに接してくれる人がほとんどで、その点で疎外感を感じることはありませんでした。

しかし、例えば情報ガバナンスの観点からアクセスできる情報に制限があったり、業務内容に一部制限があったりと、どうしても正社員に依頼をしたり、指示を仰ぐ必要がある場面もあります。実際、テスト会社から事業会社への転職を考えている方に話を聞くと、「ユーザーに価値を届けるために何をすべきかを考えるにあたって、必要な材料が集めにくい、アクションを起こしにくい」という意見も聞きます。

加えて、当然ながら企業にとっては自社の社員のほうが大事なので、育成や業務の機会という点では正社員が優先されます。それでいて、テスト会社の社員が常駐先の若手の教育を手伝う場面を見ることもあり、優先度の置き方と、実際に頼られる場面とが必ずしも一致しないこともあるようです。

つまり、発注する側にとって都合のよい、相反する考え方が共存してしまっているのではないでしょうか。一方では、内部の人間と同じような主体性や積極的なコミットメントを求めます。もう一方では、外部の人間だからという理由で、情報や権限は渡さず、正社員の活躍を優先して、派遣や業務委託のメンバーは後回しにする。この2つが、同時に成り立ってしまっているように思います。

契約等の都合でどうしても制限がかかる部分のせいで、個々のエンジニアは行動を起こしたいにもかかわらず「主体性がない」と見えてしまう場合もあるのではないか、という説です。

まとめと、今後の連載について

ここまで、テスト会社の内外でよく言われていることを振り返ってきました。「やりたいことができない」「テストの仕事しかできなくなるのでは」という内部の声は、いずれも個人と会社の間にあるアサインの利害のズレに起因するものでした。もっとも後者については、待遇の変化や生成AIの影響で、以前より和らいできている面もあります。こうした不安から、当時は事業会社への”憧れ”が生まれていましたが、今はむしろ逆方向の動きも見られます。

一方、「主体性がない」という外部からの決めつけは、ビジネス構造そのものに根ざした、一見矛盾するような要求の共存から生まれているように見えます。

いずれも、単純な決めつけで片付けられるものではなく、その背景にある構造まで見ていく必要があるのではないかと思います。

そこでこの先の連載では、今回触れたテーマをより掘り下げていきます。

次回は、「事業会社のQAに”自由”はあるのか。テスト会社は”不自由”なのか」について考えます。結論を少し先に言うと、自由の対象が違うだけで、どちらを選ぶかという話なのではないか、と考えています。

その後は、テスト会社に勤めることで得られるもの、たとえば教育機会や経験の幅、コミュニティとの関わりなどについて取り上げます。公平性も意識して、事業会社QAならではの良さについても1回を使って書く予定です。そして最終回では、自分の志向性やキャリアの段階によってどちらがよりマッチするのか、について私見を述べて終わりたいと思います。

連載全体を通じて、十数年前の若い頃の、狭い視野しか見えておらず不安やモヤモヤを抱えている自分に対して、視野を広げてあげられるような、そんな話をするつもりです。結果としてそれがどなたかの役に立てば嬉しいです。

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SQRIPTER

伊藤 由貴(いとう よしき)

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テスト自動化エヴァンジェリストとして、エンジニア育成・テスト自動化コンサルテーション・部署の立ち上げ・マネジメントなどを経験。
現在は複数Webサービスを運営する会社の横断部門にて、QAエンジニアとして活動中。

Sqriptsはシステム開発における品質(Quality)を中心に、エンジニアが”理解しやすい”Scriptに変換して情報発信するメディアです

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