こんにちは、テストオペレーション部のショウです。

最近「KPT(ケプト)」を使った振り返りに参加したので、「KPT」について私の体験を踏まえてまとめてみました。

まず私から言えることは、”「KPT」は小まめに実施しましょう!”ということです。「KPT」の本領を発揮して成功させるためには、ポイントを押さえて「KPT」を活用する必要があります。そのポイントは3つあります。

  1. 発言しやすい環境づくりをすること
  2. チーム全員で取り組むこと
  3. 定期的に開催すること

まずは「KPT」とはどういう手法か? ということをご説明した後、この3つのポイントについてお話していきたいと思います。

「KPT」とは何か?

「KPT」は、Alistair Cockburn氏の「The Keep/Try Reflection」という手法を元に日本で発展した振り返りフレームワークと言われています。「KEEP:継続すること」「PROBLEM:問題・課題」「TRY:改善すること」の頭文字を取って「KPT」です。

「KPT」は改善のフレームワーク「PDCA(ピーディーシーエー)サイクル」と一緒に語られることが多くあります。「PDCAサイクル」は「PLAN:計画」「DO:実行」「CHECK:確認」「ACT:改善」のサイクルを回すことで改善を行っていく手法で、「KPT」はこの中の「CHECK」「ACT」に相当する取り組みになります。

また、よく比較される手法に「YWT(ワイダブルティー)」というものがあります。「YWT」は日本能率協会コンサルティングが提唱した振り返りのフレームワークです。「Y:やったこと」「W:わかったこと」「T:つぎにやること」の頭文字を取って「YWT」です。

「KPT」と「YWT」は振り返りの目的や対象、プロセスなどが少しずつ異なっています。比較すると面白いのですが、今回は紹介だけに留めたいと思います。機会があればこちらも記事にしますね。

では「KPT」の具体的な進め方を4つのステップでご説明します。各ステップ毎に作業のコツや、よくある落とし穴についても触れていきたいと思います。

「KPT」の進め方

一般的に「KPT」は、複数人が参加する1時間程度のミーティングを開催して実施します。5〜7人程度の少人数で行うのが基本で、”人数が多くなる場合はファシリテーターを設置する”ことで進行をスムーズにできます。用意するものは「ホワイトボード」「付箋」「ペン」です。最近はフリーアドレスの仕事も増えていますので、オンライン上で共同編集可能なツール(Googleスプレッドシートなど)を活用する場合もあるようです。「KPT」は大きく4つのステップで実施できます。

ステップ1.「KEEP」「PROBLEM」を書き出す

まず図のようにホワイトボードを「K」「P」「T」で三分割します。次に全員で「KEEP」「PROBLEM」を付箋に書き出します。この時、書き出す「KEEP」「PROBLEM」の”テーマを絞る”ことで効果的に「KPT」を進めることができます。書き出す時のコツとしては、”実際に作業していた時のことを思い出しながら書き出すこと””些細なことでも気にせず書き出すこと”です。

とは言いつつ、私は”思い出しながら書き出す”のが苦手な人間なので、いつ「KPT」に参加することになってもいいように普段から思いついた時に書き残しておくようにしています。

▼「KEEP」「PROBLEM」の書き出し例

テーマ:コミュニケーション

KEEP:

  • 朝会を開催して1日の予定や進捗を共有しあった
  • 進捗がわかりやすいようにグラフを利用した

PROBLEM

  • 情報伝達が上手くできていなかった
  • 資料更新が滞っていた

ステップ2.「KEEP」「PROBLEM」を掘り下げる

「KEEP」「PROBLEM」を書き出したら、ホワイトボードのそれぞれのエリアに付箋を貼って、1つ1つの意見を全員で一緒に掘り下げます。「KEEP」「PROBLEM」となった要因や原因を様々な視点から協議して本質的な課題を探っていきます。

なお、このステップには落とし穴があります。それは”問題解決と振り返りを混同してしまう”ことです。「KEEP」「PROBLEM」を振り返って本質的な課題を探るステップなので、問題解決を先にしてしまうと対処的な解決策になってしまいます。根本的な改善にならないため、このステップでは課題を振り返って真因を探ることに集中しましょう。

▼「KEEP」「PROBLEM」の掘り下げ例

  • 朝会を開催して1日の予定や進捗を共有しあった
    ⇒ 各自のスケジュールを把握できたことでスムーズな連携ができた
    ⇒ 口頭だけのやりとりだったので後から見返したい
  • 進捗がわかりやすいようにグラフを利用した
    ⇒ 進捗が直感的に把握しやすくなった
    ⇒ 他者が見ても状況が把握しやすい
  • 情報伝達が上手くできていなかった
    ⇒ 口頭のみで情報伝達されていた
    ⇒ 伝達した情報が、当事者の記憶の中だけに存在していた
    ⇒ 正しく伝達できたかの確認が行われていなかった
  • 資料更新が滞っていた
    ⇒ 担当者が決定した仕様変更の反映を忘れていた
    ⇒ 資料が更新されているかを確認するステップがない

ステップ3.「TRY」を具体化する

「KEEP」「PROBLEM」について十分に掘り下げたら、今度は「TRY」を付箋に書き出します。「TRY」を書き出すコツは、「KEEP」「PROBLEM」と同じく”些細なことでも気にせず書き出すこと”です。書き出した「TRY」をホワイトボードに貼り、ステップ2.と同様に1つ1つを全員で一緒に検討して具体化していきます。「TRY」を具体化するコツは、”実行可能かを考えること”です。

このステップには落とし穴が2つあります。1つは”「KEEP」の「TRY」がおろそかになる”という点です。「KEEP」は現状上手くいっている事なので「TRY」を検討する必要がないと思われがちです。ですが「KEEP」に対して「TRY」することは長所を伸ばすということです。「KEEP」をより良くするための「TRY」もしっかり検討しましょう。

もう1つは”課題を1度で解決しようとしてしまう”という点です。課題には改善に時間や労力のかかるものがあります。完全に解決するための全工程を「TRY」にしてしまうと、負担が大きくなり頓挫する原因となります。そうならないためにも、まずは短期間で結果を出せるところまで「TRY」を小さくして実行可能な規模に落とし込みましょう。

▼「TRY」の具体化例

  • 朝会を開催して1日の予定や進捗を共有しあった
    ⇒ 朝会で共有した情報をホワイトボードにまとめていつでも確認できるようにする
  • 進捗がわかりやすいようにグラフを利用した
    ⇒ 情報の把握をよりスムーズにできるようにフォーマットを統一する
  • 情報伝達が上手くできていなかった
    ⇒ 伝達された者は、当日中に所定の場所にログを残す <まずはこれの習慣化が「TRY」
    ⇒ 伝達者は、翌日にログの内容に誤りがないかを確認する
    ⇒ ログの内容に誤りがあれば、認識が統一されるまでこれを繰り返す
  • 資料更新が滞っていた
    ⇒ 次回ミーティングで資料更新の状況を確認する時間を設ける

ステップ4.「TRY」を実行する

「KPT」を使った振り返りは、ステップ3.で終了しました。ですが「KPT」の目的は課題改善なので、そこで終わりではありません。振り返りミーティングで決定した「TRY」を実行しなければ改善も成長も有り得ないからです。「TRY」を決定したことに満足せず必ず実行するようにしましょう。

「KPT」を成功させるポイント

ここまで「KPT」という手法について説明しました。ここからは冒頭で提示した「KPT」を成功させるための3つのポイントについて、私の実体験も交えてお話していきます。

ポイント1.発言しやすい環境づくりをすること

1つ目は”発言しやすい環境づくりをすること”です。たとえば、自分が良かれと思って出した意見を否定されたりすると、意見を出す意欲も失くしてしまいますよね。発言しやすい環境づくりができていれば、自然と数多くの意見が集まります。その結果、多様な視点での課題発見やその解決策の考案に繋がります。

この”発言しやすい環境づくり”をするためには、チームメンバー同士の信頼関係が重要です。信頼関係はコミュニケーションによって構築していきます。コミュニケーションは質も大事ですが、それ以上に頻度が重要とされていますので、小まめにチームメンバーとコミュニケーションを取りましょう。

ポイント2.チーム全員で取り組むこと

2つ目は”チーム全員で取り組むこと”です。チーム全員で同じ課題に取り組むことで、よりチームとして団結できます。また他者の意見や提案を聞くことは、自身の視野を広げることにもなり成長の機会となります。

“チーム全員で取り組む”ためには心理的安全性の確立が最も重要です。心理的安全性とは「誰に何を言っても、人間関係が壊れず、罰を受ける心配がない状況」が担保されていることです。この心理的安全性は、言葉で「安全ですよ」と言ったからといって確立できるものではありません。自分の発言が受け入れられる感覚、自分の挑戦をチームが支援してくれる感覚などの積み重ねにより確立されていきます。

このポイント1と2については、記事を書くきっかけになった「KPT」で良い例がありました。そのプロジェクトの「KPT」では、ファシリテーターを順番に担当することになっていたのですが、中でも私が「上手いな」と思ったファシリテーターがいました。そのファシリテーターはチーム全員が参加できるように2つの工夫をしていました。

1つは「全員に順番に意見を聞くこと」です。全員が順番に意見を求められますので、自分から発言するのが苦手な人も漏れなく意見を出していました。さらに順番も経験の浅い順に意見を求められており、経験豊富なメンバーに遠慮したり萎縮したりせずにすみました。

もう1つは「ポジティブな意見を引き出す問いかけ」です。具体的には意見を聞き終わった後に「良いですね!」と同調して「この意見をさらに良くするアイデアはありますか?」のように全員に向けて問いかけていました。この問いかけによって、自然と元の意見を発展させるためのアイデアを考える方向に思考が向き、ポジティブな意見が出やすくなっていました。

とはいえ、このファシリテーターの工夫でも、たった1回では本当の意味で心理的安全性は得られません。様々な工夫を凝らして小まめに信頼関係を積み重ねていくことが、“チーム全員で取り組む”という形をつくり、”発言しやすい環境”を育んでいくのだと思いました。

ポイント3.定期的に開催すること

3つ目は”定期的に開催すること”です。状況は日々変化していきますので、定期的に開催することで課題を早期発見することができます。また前回の「KPT」で決定した「TRY」の実行結果を振り返ることで継続的な改善サイクルを生み出せます。

私が参画したとあるプロジェクトは、納期の都合でテスト設計と実行をほとんど並走させるスケジュールでした。その為、テスト実行が滞らないように短い間隔でのテスト設計⇒リリースが求められました。ご存知の通り納期のプレッシャーはミスを引き起こす要因です。当時のマネージャは「課題の早期発見と対策」がプロジェクトの成否を分けると判断し、その施策として週2回の定期的な「KPT」の実施を決定しました。お察しの通り、メンバーからは「時間がない」と反対の意見がでました。その解決策として、初回は時間をかけて「KPT」を実施し、2回目以降は時間を15~30分と決めて「TRY」の効果確認と、新たな「KEEP」「PROBLEM」があれば共有して「TRY」を決める「省略版KPT」での実施としました。結果として課題の早期発見と対策を行えたことで、大きな進捗遅れやミスもなくプロジェクトを終了することができました。

この経験から、私は型通りの「KPT」を1回行うよりも、小まめに”定期的に開催すること”が「KPT」成功のポイントだと学びました。

「KPT」は小まめに実施しましょう!

ここまで「KPT」という手法とその進め方、成功させるポイントについて、私の実体験も交えながらお話してきました。「KPT」は、良い点をより良くして、悪い点を改善するための実行可能な方法を導き出す効果的で効率的な振り返りのフレームワークです。「KPT」を成功させるためにはコミュニケーションを通じてチームの信頼関係を築き、心理的安全性を確立していく必要があります。また課題を早期発見して、継続的な改善サイクルを生み出すために、定期的な「KPT」の開催が必要です。

コミュニケーションで信頼関係の構築や心理的安全性を確立するためには”小まめなコミュニケーション”が必要で、課題の早期発見や継続的な改善サイクルを生み出すためには”小まめな振り返り”が重要です。つまり「KPT」を成功させるには、知識や技術だけでなく”ポイントを押さえて「KPT」を小まめに実施すること”が一番の近道だということです。だから皆さん”「KPT」は小まめに実施しましょう!”

最後に、ここまで読んでいただきありがとうございます。今回は私が「KPT」について調べて学んだ視点から「KPT」をご紹介しました。「KPT」はフレームワークなので、プロジェクトやチームの性質に合わせてアレンジする必要があります。その中でも「KPT」を成功させるための普遍的なポイントはないかという点で考えて記事にしました。この記事が皆さんのプロジェクトやチームに「KPT」を取り入れるための参考になれば幸いです。

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