はじめまして、QAエンジニアの桜 満開です。

最近よく生成AIという言葉を聞いたり目にしたりすることはありませんか?

生成AIが実用化されてきている要因としましては、「コンピュータ性能の向上」「コロナ禍による労働環境の変化」「少子化による労働人口の減少」など、様々な要因はあるかとは思いますが、人間の稼働削減の必要に迫られ、この数年で飛躍的に進化を遂げてきている技術です。

ソフトウェアテストにおいても、AI活用によるテストの自動化は試みられており、「生成AIによるテストスクリプトの自動生成」といった活用も行われてきています。

ここまで便利に思える生成AIですが、急速に発展する技術にはそれを正しく利用するために留意しておかないといけないことがあります。

そう、タイトルにもある「著作権」です。

去る令和5年6月19日に文化庁による著作権セミナー「AIと著作権」が開催され、文化庁からの生成AIの利用時における著作権の考え方について、一定の指針が発表されました。

  • 生成AIを利用してコンテンツを生成する場合も、状況によっては著作権の対象となりえる場合があります。

ここでは、セミナーでのポイントを抑えながら、生成AIや著作権について一緒に考えていきたいと思います。

※本ブログ内容は令和5年8月時点の内容となります。

セミナー概要

セミナー名:令和5年度 著作権セミナー「AIと著作権」

主催者  :文化庁著作権課

開催日  :令和5年6月19日

著作権法の正しい理解に基づいて生成AIの利活用がされるよう、現行の著作権法の考え方やAIと著作権の関係についての説明が行われました。

第1部では著作権制度の概要についての解説。

第2部ではAIと著作権について、生成AIと著作権の関係についての解説。

という、2部構成で約1時間のセミナーとなっていました。

アーカイブ映像や講義資料は文化庁のWebサイトから確認することができます。

そもそも著作権とは?

まずはセミナーの第1部「著作権制度の概要についての解説」と同じく、著作権について文化庁の著作権テキストの内容を引用しつつ確認・整理していきます。

著作権保護の目的

著作権テキスト 4ページに以下のように記載されています。

適切な権利保護によって「創作の促進」を図り、権利の制限によって「公正な利用」を確保し、もって「文化の発展に寄与」することを目的としています。

文化庁著作権テキスト

要は「文化の発展に寄与」 するためには、新たな創造 「創作の促進」 が不可欠で、「創作の促進」を促すには、権利の保護・権利の制限で著作物の 「公正な利用」を確保し、著作者に不利益にならないように利用できるようにすることで、創作の循環が生まれるようにする。ということのようです。

セミナーでも、

「著作者等の権利・利益を保護すること」と、「著作物を円滑に利用できること」のバランスを取ることが重要と考えられている。

と話されていました。

著作物について

次に著作物についての定義を確認しましょう。著作権テキスト 5ページの記載内容に、

著作権法では、著作物は、

「(a)思想又は感情を (b)創作的に (c)表現したものであつて、(d)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

文化庁著作権テキスト

と定義されています。

つまり、

  • 思想や感情などの含まれないデータや事実といったもの
  • 創作ではなく模倣であったり、ありふれたもの
  • 表現していないアイデアのまま
  • 工業製品

というように、定義から外れるものは著作物と認められない可能性が高いです。

業務に身近な著作物について

それでは、ソフトウェアテストにおける身近な著作物についてはどのようなものがあるでしょうか?

ソフトウェアテストにおける作成物では、

  • 要件定義書
  • 詳細設計書
  • テストスイート
  • テストシナリオ
  • テストスクリプト
  • テストサマリーレポート

など、様々な作成物が存在するかと思います。

これらについて、著作物の定義や種類にあてはめてみると、思想を創作的に表現した言語やプログラムの著作物としてなり得るものは、

  • テストシナリオ
  • テストスクリプト
  • テストサマリーレポート

辺りでしょうか。

ただ、テストの目的としては「誰が操作しても正しい結果が得られること」を目的としているので、そこに対して創作性を見出すことは難しいかもしれません。

そもそも生成AIとは?

続いて、今回のセミナーでは説明として触れられていませんでしたが、「生成AIとは何なのか?」「AIと何が違うのか?」を確認しておきます。

AIと生成AIの定義について

AIについて

厚生労働省から公開されている「AIの定義と開発経緯」には、

人工知能(AI:artificial intelligence)については、明確な定義は存在しないが、「大量の知識データに対して、高度な推論を的確に行うことを目指したもの」(一般社団法人 人工知能学会設立趣意書からの抜粋)とされている。

AIの定義と開発経緯

と記載されています。

その他に総務省から公開されている「人工知能(AI:エーアイ)のしくみ」でも、

「AI」に関する確立した定義はありませんが、人間の思考プロセスと同じような形で動作するプログラム、あるいは人間が知的と感じる情報(じょうほう)処理(しょり)・技術(ぎじゅつ)といった広い概念で理解されされています。

人工知能(AI:エーアイ)のしくみ

という記載があります。

  • AIは明確に確立された定義は無い。 という少し曖昧な技術ですが、大量のデータに対して人間が思考・処理を行うことと同じように、コンピュータが動作を行うことを目的とした技術。

ということで、主に人間の代わりに処理を行うコンピュータを指すことが多い印象です。

生成AIについて

NIKKEI COMPASSの生成AIの解説には、

生成AI(英:Generative AI)は、画像、文章、音声、プログラムコード、構造化データなどさまざまなコンテンツを生成することのできる人工知能のこと。

NIKKEI COMPASSの生成AIの解説

大量のデータを学習した学習モデルが人間が作成するような絵や文章を生成することができる。

NIKKEI COMPASSの生成AIの解説

とあります。

つまり、AIが処理や技術を指していることに対して、生成AIはそのAI技術を使って新たなコンテンツを生成することを目的 としています。

生成AIの学習段階と生成段階

生成AIを利用して新たなコンテンツを生成するためには、まずAIにデータを蓄積して情報を学習させる「学習段階」というものがあります。

この学習段階で蓄積するデータによって、AIの特徴づけが行われたりします。

次に、学習済みのAIに対して新たなコンテンツを生成させるために、利用者がどのようなコンテンツを

生み出したいかといった要求をAIに指示を出してコンテンツを生成する「生成段階」というものがあります。

この指示の出し方でも最終的な生成物の仕上がりが左右されます。

主な生成AIサービス

昨今話題に上がっている主な生成AIの種類では、「画像生成AI」「テキスト生成AI」「動画生成AI」「音声生成AI」など様々なものが展開されています。

例えばテキスト生成AIについては、サポートセンターなどへチャットで問い合わせた際に、質問に応じた生成メッセージが返答される。

という機会が身近に増えているかと思います。

ソフトウェアテストにおいても、テキスト生成AIにてテストケースの自動生成やテストスクリプトの自動生成、テストデータの自動生成など、生成AI活用の場面も増えてきています。

生成AIを利用する上での著作権に関するポイント

では、実際に生成AIを利用する上で著作権に注意するポイントはどこになるのか、著作権セミナーの2部で解説されていた内容を元に確認していきます。

冒頭で触れていた、「生成AIを利用していても、状況によっては著作権の対象となりえる場合」について、また「対象とならない場合」についても具体的に見ていきましょう。

1.学習段階における学習のもととなった著作物

まず1つ目に、AIの開発・学習段階における、AI学習の元となったデータについての著作権に関する問題が説明されています。

結論としては、令和5年6月時点の著作権法第30条の4の解釈では、AI開発のための情報解析は既存の著作物に表現された思想や感情の享受を目的とした利用ではない。 (権利制限規定)と考えられることが多く、原則として著作権者の許諾なくAI学習を行うことができるようです。

セミナーでは、一般的な深層学習におけるAI学習段階の一例を元に説明されていました。

こちらに書かれているように、AI学習段階においてはWeb上のデータを収集して学習していくことが多く、さらに数十億点というような大量データの著作権の有無の判別や、著作者からの許諾を得る。

ということが困難で非現実的という状況から、下記の取り組みが行われてきたようです。

  • 平成21年改正:インターネット情報検索サービスのための複製、電子計算機による情報解析のための複製等について、権利制限規定を整備
  • 平成24年改正:いわゆる「写り込み」、技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用等について、権利制限規定を整備
  • 次世代知財システム検討委員会〔知的財産戦略本部・H27~28〕
  • 新たな情報財検討委員会〔知的財産戦略本部・ H28~29〕

これらの取り組みの結果、著作権法第30条の4が導入され、

AI開発のための情報解析のように、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能です(権利制限規定)。

と法改正になっているようです。

ただし、あくまで著作権者への経済的利益を害するものではない。ということが前提の思想としてはある為、

「著作権者の利益を不当に害することとなる場合※」は、本条の規定の対象とはなりません。

※例えば、情報解析用に販売されているデータベースの著作物をAI学習目的で複製する場合など。

という但し書きの条件や、

著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、最終的には司法の場で個別具体的に判断されます。

とも説明されていました。

ソフトウェアテストにおいてもAI開発・学習が行われていますが、多くの企業では自社の過去のナレッジからAI学習を行っていることが多いようです。

私の所属会社(AGEST)につきましても、先日7月11日にAI技術の研究開発を行う「AGEST AI Lab.」の設立を発表いたしております。

こちらのホームページに情報公開しておりますので、ご参照いただければと思います。

2.生成段階における入力情報の著作物

2つ目に、生成AIを利用してデータを生成する段階における、入力情報となるものの著作権に関する問題が説明されています。

結論としては、生成AI利用の有無に関わらず、既存の著作権同様の考え方が適用される。 ということのようです。

セミナーで説明されていた内容としましては、

AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害となるか否かは、人がAIを利用せず絵を描いた場合などの、通常の場合と同様に判断されます。

AI生成物に、既存の著作物との「類似性」又は「依拠性」が認められない場合、既存の著作物の著作権侵害とはならず、著作権法上は著作権者の許諾なく利用することが可能です。

これに対して、既存の著作物との「類似性」及び「依拠性」が認められる場合、そのようなAI生成物を利用する行為は、

① 権利者から利用許諾を得ている

② 許諾が不要な権利制限規定が適用される

……のいずれかに該当しない限り、著作権侵害となります。

ということでした。

上記内容のとおり、特にAIだからということではなく、既存の著作権同様の考え方が適用されている。

ということでした。

ただ、生成AI利用という点でいうと、特に生成物を作成するためのテキストの入力情報についても、「類似性」「依拠性」を問われる。という点は気をつける必要がありそうです。

3.生成AIの生成物自体の著作権の有無

3つ目に、生成AIで生成した生成物自体に「著作権は認められるのか?」「著作者は誰になるのか?」という問題が説明されています。

結論としては、 AIが独自で創出したものは著作物にならず、利用者の創作意図が介入している場合は著作物になる。 ということのようです。

セミナーで説明されていた内容としましては、

AIが自律的に生成したものは、 「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しないと考えられます。

(例)人が何ら指示※を与えず(又は簡単な指示を与えるにとどまり) 「生成」のボタンを押すだけでAIが生成したもの ※プロンプト等

これに対して、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。

というように、あくまで著作物は人の「思想や感情などを創作的に表現したもの」である ので、それに当てはまらない利用方法をしている場合は著作物には該当せず、当てはまる場合は利用者の著作物として考えられるようです。

この考え方は中々に興味深く、人の思想や感情が入っていなければAIが生み出す生成物について、たとえ創造性が高いものであったとしても著作物になり得ず、著作者もいない。というケースが出てくる可能性があります。

たとえ同じような生成物だとしても、「AI独自で創り出したもの」と「人の創作意図が介入して創り出したもの」とでは著作物の有無が異なる。ということになります。

何と言いますか、新しい時代に入っているのだ。と改めて認識する感覚ですね。

さいごに

生成AIを業務利用する際にはどのようなことに注意すべきか

ここまで著作権セミナーの解説内容を振り返りながら、著作権や生成AIについて確認してきましたが、結局のところ生成AIを活用して業務利用を行っていくに当たって、注意しておくポイントをまとめておきましょう。

ポイント1つ目:著作物となり得るのかどうか
生成AIの開発・学習段階、生成段階、生成物について、著作物の定義

  • 「(a)思想又は感情を (b)創作的に (c)表現したものであつて、(d)文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

と照らし合わせて著作物と見なされるかを確認しておくことが重要です。

・ ポイント2つ目:著作者の権利を侵害していないか

1つ目の確認で著作物であった場合、生成AIを利用してコンテンツを生成する上で、著作権の侵害に該当しないかどうかの確認が必要となります。

基本的に「権利制限規定」以外での利用は著作者に許諾が必要となります。生成AIの利用で著作者の利益を不当に侵害していないことが考え方の基本となります。

今後の著作権法の改正についてもチェックが大切

生成AIに限らず、技術の進歩に応じて著作権法も日々時代に合わせて改正されています。

先日に文化庁で行われた著作権セミナーのように、技術の進歩に応じて考え方を整理・検討して提示したり、法改正や施行が行われています。

文化庁で公開されている著作権テキストも現在は令和5年度版が公開されていて、前年度から記載内容の変更箇所もあります。

先端技術については法改正の整備頻度も早いので、文化庁などの発信情報を注視していくことが大切だと改めて感じました。

<参考サイト・記事>

画像生成AIに対する各ストックフォトサービスの対応

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