こんにちは。Q4Aと申します。

私はテストエンジニアとして、長らくお客様常駐で業務した後、ここ数年は現場を離れて部門管理を担当しています。現場時代でも担当案件の状況説明やリリース判定時に、品質の良し悪しについて説明したり考えたりするシチュエーションは多々ありましたが、今も商談の場でお客様と話をしていると、やはり品質の良し悪しについては凄く気にされています。

言葉としてはポピュラーですが、ひとくちに品質と言ってもいろいろな視点があります。今回はそんな話をしたいと思います。

品質が良いってどういうこと?

「皆さん品質が良いってどういうことだとお考えですか?」

私は部門内の新人研修でよくこの質問をするのですが、一般的なECサイトを例に考えてみましょう。

面白いことに回答は多岐にわたります。

「機能が充実している」

「レスポンスが早い」

「使い勝手がよい」

いろいろな意見が挙がりますが、

はい、全部正解です。

所謂ひとつのワインバーグ的な有名な決め言葉ですが、

「品質とは誰かにとっての価値である」

ワインバーグ

と言われるように、品質にはいろいろな視点があるのです。

そのため我々テストエンジニアは、様々な視点でお客様やユーザーの求める品質を考えてテストする必要があります。機能テストや性能テスト、セキュリティ診断等、お客様から直接指定のご依頼がある場合はよいですが、大規模プロジェクトや社会性の高い製品の場合は、あらゆる視点の品質を考慮しなくてはいけません。規模の小さい製品でも、機能テスト要求の中にユーザーの操作性や他ソフトとの共存動作など見えないニーズも隠れていたりします。

ただ、このように様々な視点を一から全部考えるのは大変ですよね。そんなあなたのために先人の知恵があります。それらは品質モデルというもので体系的にまとめられているのです。

ISO/IEC 25000 シリーズ(SQuaREシリーズ)

品質モデルとは、ソフトウェアの品質を確保するのに必要な特性をモデルとして定義したものです。国際規格であるISO/IEC 9126が長らく重用されてきましたので、9126の数字を聞いたことがある人は多いと思います。その後、ソフトウェア技術の進化や利用形態の多様化など様々な要因を経て再編され、現在はISO/IEC 25000 シリーズとして整備されています。

ISO/IEC 25000 シリーズは、システムおよびソフトウェア製品の品質要求と評価に関して規定している国際規格「Systems and Software Engineering – Systems and Software Quality Requirements and Evaluation」の頭文字を取って、SQuaREシリーズとも呼ばれています。SQuaREシリーズでは「製品品質モデル」「利用時の品質モデル」「データ品質モデル」と3つのモデルを定義しています。私たちに馴染み深い製品品質モデルで説明すると(図1参照)、8つの品質特性と31の品質副特性で構成されています。

これらの特性が、冒頭で述べたいろいろな視点で品質を考える時の着眼であり観点となるのです。

例えば「機能適合性」の副特性「機能正確性」では、機能が期待どおりの処理をしているかやデータ出力しているかが確認の観点になります。そのため機能テストを実施して動作を確認します。

「性能効率性」の副特性「資源効率性」では、システムが利用する資源の量が要求を満たしているかが確認の観点になります。そのため性能テストを実施してメモリ使用量やCPU使用率などを確認します。

このようにSQuaREシリーズを利用すれば、品質を考えるときの視点が品質特性や品質副特性として網羅されているので、様々な視点/切り口で漏れなく品質やテストを考えていくことが出来ます。この点が品質モデルを利用する一番のメリットだと私は考えています。

もう1つのメリットとしては、SQuaREシリーズは国際規格なのでステークホルダーと共通の認識のもと話をすることができる点にあります。文化や立場の違い、異なる基準で品質を評価しようとすると混乱が生じるので、合意形成するにも便利だと思います。

いともたやすく使える?品質モデル・品質特性の利用方法

ここからは私の経験事例も交えて、品質モデル・品質特性の利用方法をご紹介します。

品質モデル・品質特性は、対象システムやサービスに対して、各品質特性・品質副特性ごとに品質目標や評価基準を定めて、要求を満たしているかリリース前までに評価するといった使われ方が最もポピュラーかと思います。特に非機能要件はおざなりにされがちなので、きちんと定めておくことが重要です。

品質特性ごとにテスト観点を定義

私が以前参画していたあるプロジェクトでは、そこからさらに一歩踏み込んで、各品質特性・品質副特性ごとにテスト観点を定義して共有していました。かなり大規模なプロジェクトで、多人数でテストしていたのですが、担当者や担当チームによるテスト品質のバラつきが課題になっていました。品質特性ごとにテスト観点を定義することで、一定水準で網羅的なテスト品質を確保することが出来ました。

ただ注意点としては、共有したテスト観点はあくまで基準であり、きっかけであり、製品や機能によってはそこからさらにテスト観点を追加する必要があることです。「定義した観点だけテストしていればいい訳ではない」と考え続けることが重要だと思います。

探索的テストのチャーター検討に利用

もう1つ身近な事例を挙げますと、探索的テストのテストチャーターを考える際に、品質特性をベースに考えたことがありました。

例えば「性能効率性」の副特性「容量満足性」の観点で、各機能のデータ保存時における出力先容量不足時のエラー挙動を確認したり・・・

「使用性」の副特性「ユーザーエラー防止性」の観点で、各入力フォームに誤った入力のまま登録エラーになった際に、入力済の正しいデータを保持しているか各登録画面で確認したり・・・

このように品質特性は、ちょっとしたテスト観点の検討のきっかけとしても利用することが出来ます。

そうはいっても、JSTQBの試験などで言葉は知ってるけど、品質モデルや品質特性の中身を詳しくはよく知らない。文献見ても小難しいことが書いてあるし、という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

そんなあなたに「つながる世界のソフトウェア品質ガイド」ー!

SQuaREシリーズについては、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が発行している「つながる世界のソフトウェア品質ガイド」を参照することをお勧めします。

1つ1つの品質特性、品質副特性に対し、比較的分かりやすく説明してあります。例えば「使用性」の副特性「適切度認識性」と言われてもよく分かりませんが「製品又はシステムが利用者のニーズに適切であるかどうかを利用者が認識できる度合い。」と説明があると理解できます(図2参照)。

ただしこの要求を満たしているか確認するためにどのようにテストするかはまた別問題で難しいです。同ガイドには、各品質副特性の品質測定量も記載されていますので、興味のある方は参考にしてください。

最後に同ガイドの特徴をお伝えしておくと、PDF216ページで読み応え十分というところです。もう京極夏彦先生の小説くらい長いです。ですので私は必要な時に必要な箇所だけ確認する使い方をしています。

また、冒頭の「第1章 あらためて品質を考える背景」などは、読み物としても非常に面白いです。発行は2015年と古いものの、IoT時代におけるテストの重要性を改めて再確認させられ、テストエンジニアとしてのモチベーションを高めるのにも最適です。

まとめ

さて、ここまで品質モデル・品質特性について経験事例も交えてお話してきました。品質にはいろいろな視点が求められるため、ソフトウェアの品質モデル・品質特性を下敷きに考えるとよいと思います。

  • いろいろな視点の品質を網羅的に確認することができる
  • 国際規格なのでステークホルダーと共通の認識のもと話をすることができる

学ぶにも使うにもよい体系的にまとめられたガイドもあるので、ぜひ使ってみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

>「ありがとう」それしか言う言葉がみつからない・・・

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