
この連載では、ソフトウェア開発のQAエンジニアとして働き始めた皆様に向けて、私の実体験をもとに「こんなことを知っておけばよかった」という、ちょっとした気づきを共有します。
一緒にソフトウェア開発のQAエンジニアとしての充実したエンジニアライフを築くためのヒントを探っていきましょう。
<QAエンジニアのスタートガイド 記事一覧>※クリックで開きます
QAエンジニアやテストエンジニアとしてキャリアをスタートしたばかりの頃、多くの人は「与えられたタスクをこなす」ことに集中してしまいがちです。
しかし、それだけでは充実した社会人生活を送っているとは言えない、と私は考えます。
ここでは、充実したQAエンジニアとして過ごすために大切なことをお伝えします。
それは「目的意識」です。
本記事では、充実したQAエンジニアとして過ごすために欠かせない「目的意識」についてお伝えします。特に、「顧客志向」の重要性を中心に、これがQAエンジニアとしての働き方にどのように影響するかを解説していきます。
筆者の背景
私は最初からエンジニアだったわけではなく、営業職からキャリアをスタートしました。
エンジニアのような「何かをつくる」ではなく、営業職として「サービスを顧客に売る」という、顧客と直接関わるような働き方をしていました。
その後、第二新卒でテストエンジニアとして転職しました。転職後の最初の現場ではテストに限らず、リリース後の保守チームでの仕事にも携わったことがありました。
その中で特に重要だったことは「お客様の声をきちんと聞いて、不満を解消する」ということでした。
これらの経験を通じて、「サービスやプロダクトを使ってくれるお客様が実在する」というリアルな実感を、心に刻んだのでした。
営業と保守の経験から学んだ顧客の存在
営業経験からの学び
営業の働き方は多岐に渡りますが、私が経験した営業は「売り上げノルマに責任を持ち顧客が”注文する”と言ってくれるまでなんでもする人」という働き方でした。
営業を通じて、「どんなに優れた製品やサービスでも売れなければ使われない」という現実を痛感しました。
実際に営業を経験することで、営業職に対する印象も変わりました。これまで私は営業職とは単に「コミュニケーションが得意な人」というフワッとしたイメージしか持っていませんでしたが、実際はそうではないことに気がつきました。
製品や顧客のことをしっかりと理解して、課題に心から共感し、顧客をハッピーにするために全力を注ぐ。その結果として売れるーーそれが重要なのだと感じました。
課題解決を待っている顧客がいて、彼らを満足させることが何よりも重要だったのです。
保守経験からの学び
エンジニアになったあと、私はテスト業務だけでなく、保守運用の業務にも携わっていました。ここでの保守運用とは「製品が実際の現場で使われている中でのお客様の困り事を解決する」という業務でした。
テストを十分にしていても、製品が使用されている現場では新たな問題が発生するということがありえます。
実際の現場でしか起こりえない問題もありますし、テストから漏れてしまった問題もあります。そういった問題を解決して、「顧客が求めている価値を取り戻す」という経験をしました。
ここでも私は「実際に製品を使用してくれている顧客がいる」ということを実感するのでした。
製品というものの本質
製品とは、単なる成果物ではなく、「顧客に対して価値を提供するもの」だと私は考えます。
ここで重要なことは、製品を単なる機能やサービスの集まりとして捉えるのではなく、現実の顧客に対して、価値を提供したり、問題解決するものであるということです。価値というものは提供側だけで完結するものではなく、「顧客」がいて成り立つものなのです。
たとえば、ネットワーク機器であれば、「IPv4のプロトコルが使えること」が機能としてあったとしても、実際の価値は「エンドユーザーの利用者が安心してインターネットにつながる」ことだったりします。「ネットワークのプロトコルで正しく通信できる」といった作り手から見た仕様にすぎません。
「正しく動作する」ことだけでなく、あくまで顧客のニーズを満たすことが必要なのです。
QAエンジニアとその使命
QAエンジニアのQAとはQuality Assuaranceつまり、品質保証を担う人だというのが共通理解として成り立つと考えます。本記事では「品質」とは「製品の価値」、保証とは”請け負うこと”ですが、ここでは「最終的に説明と確約ができること」とします。
本記事での品質保証とは「製品の価値が損なわれていないことをきちんと確認して、顧客やステークホルダに対する説明と確約ができる状態」を目指します。
QAエンジニアの使命として、「製品の価値を守り、顧客が期待する、あるいはそれ以上の体験を保証する」というものがあるというのが私の理解です。
品質保証のあり方やロールの定義については様々な考え、文化、規約があることは承知していますが、本記事では上記の位置付けであるとご承知いただければと思います。
製品の価値を守る
QAエンジニアの使命には「製品の価値を守る」があります。
まず第一に、「顧客が製品を使うことで被害を被ってしまう状態から守る」ということがあります。これは、製品に問題があった場合に、人の命に関わることや財産を失ってしまうことに繋がってしまう場合があります。あるいはそういった損失に繋がらなくても、個人情報の流出なども挙げられると思います。QAエンジニアはこれらのリスクから顧客を守る必要があります。
次に、「顧客が期待することを達成できない状態から守る」というものもあります。例えば、「せっかくお金を払ってインターネットを使うためにパソコンを買ったのにブラウザが開かないじゃないか」といった、元々顧客が欲していたニーズを満たさない場合があります。「顧客がどう使いたいのか」をきちんと把握して、そうした状況を回避することもQAエンジニアの責務だと考えます。
最後に、「顧客が期待すること”以上”の感動を届ける」という考え方もあります。例えば、全く新しい予約体験を提供するアプリの場合、それらの体験に対しても自信を持って製品を送り出す必要があります。ここでも、ただ単に製品を送り出すだけではなく、「顧客にとってどういった価値があるか」ということを明確にしてリリースする必要があります。
価値を保証する
「価値を保証する」の使命についても言及します。
「QAエンジニアとして自信を持って送り出す」ということは重要ですが、顧客に製品の価値が守られていることをしっかりと説明して、請け負える状態にすることも同じく重要です。
単に自分で確認してそれで終わりではなく、顧客やステークホルダといったQAエンジニア以外の人に対しても理解できるうように、守られた価値についてきちんと報告する、あるいはできるようにしておくことで、QAエンジニアはその役割を十分に果たせたと言えると考えます。
QAエンジニアの仕事を充実させる顧客志向
もし、この記事を読んでいる方がQAエンジニアになりたてで、普段の仕事に対して「こんな作業は退屈だな」といったことを感じている場合、「誰のために仕事をしているのか」を意識してみて欲しいです。
「誰か」があなたの仕事を待っていることに気づいてみてください。そうすることで普段の仕事や業務に意味を見出せるのではないでしょうか。
こうした考え方により実際の仕事の進め方も変わってきます。
たとえばテスト実行の場合、「バグの起票」では「誰にとって困るか」を言語化できます。「顧客にとってどうなるか」をきちんと言語化することで、「バグです」「仕様です」といった不毛な押し問答を防ぐことができます。
また、テスト実行が単なる作業の消化ではなくなります。実際のリアルなユーザーに思いを馳せながらテスト実行ができるということがあります。
さらには、プロダクトのテスト以外の活動にも目を向けることができるようになります。製品が顧客に価値を届けるにあたって必要なものはプロダクトだけでしょうか?ユーザーサポートやマーケティングなどが関わるようなプロダクトに携わる方が多いのではないでしょうか。

「顧客が何を求めているか」をリアルに捉えることで、QAエンジニアとしての仕事にやりがいを感じられるようになると私は考えます。
日本における品質管理での”顧客志向”について
日本における品質管理のあり方として、「TQC(Total Quality Control)」という手法があります。
TQCでは、「顧客志向」が重要な原則とされていますので、もし気になった方はぜひ調べてほしいです。ソフトウェア開発におけるQAの業務に全てが結びつくわけではありませんが、QAにとって大切な原則やマインドセットについて学べます。
参考文献として以下を挙げます
- 現代品質管理総論(朝倉書店)
「品質は誰かにとっての価値である」という言葉を聞いたことのある方はいらっしゃると思います。ただ、この文章で「誰か」を「エンドユーザー」と捉えることには誤解があります。
ここで大事なことは「製品へのニーズを持っている人は多様である」ということです。顧客の多様性というのは上記の「現代品質管理総論」でも語られています。
また、「品質は誰かにとっての価値である」の原著を知りたい方は以下の書籍を参考にしてください。
また、「価値にフォーカスする」という考え方はプロダクトマネジメントの原則でもあります。品質保証だけでなく、プロダクト作り全般について気になった方は以下の書籍を参考にしてください。
- プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける(O’Reilly Japan)
おわりに
日々の仕事の中で、「自分は何のためにこの作業をしているのだろう?」と考えることがあるかもしれません。
そんな時は、「誰がこの製品やサービスを待っているのだろうか」と顧客を思い浮かべてみてください。目的意識はQA業務の充実のみならず、自分自身のQAエンジニアライフの充実につながるのではないでしょうか。

