
今回から新連載をスタートします。本連載では、QAエンジニアやテストエンジニアの中途採用において生じているミスマッチを解消し、求職者・募集側双方の「解像度」を高めるための具体的なニーズ、課題、対策について解説します。
私は仕事・プライベート両面で(自分自身の転職を含め)、QA・テストエンジニアの採用に関連して色々な活動をしてきました。そのなかでわかったのは、募集する側も、求職者側も、それぞれに困っているということです。
採用したいという会社・仕事を探しているという個人がいずれもたくさんいるのであれば、多くの人・会社がハッピーになれるような気がします。しかし実際には、両者のマッチングはそううまくいっていないようです。中にはうまくいっているように見える会社さんもありますが、全体の割合で考えると決して多くはないでしょう。
このような、募集側・求職者側が双方困っている状態に対して、個人として微力ではありますが、なにかしらお役に立てれば・・・と思って今回の連載を書こうと決めました。
連載の全体像については本記事後半で触れることとし、まずはQA・テストエンジニアの採用で感じることからお話していきます。
求職者側・募集側になって、そして両者を支援してみて見えたこと
私は過去の所属企業においてQAエンジニア/テストエンジニア/テスト自動化エンジニアの採用に関わっており、募集内容の作成や書類選考・面接などを行ってきました。本職の人事の方には及びませんが、エンジニアとしては採用活動に関与したほうかなと思っています。
また、個人活動として「QAのことならなんでも話せるカジュアル面談」の窓口を設けて、本記事執筆時点で丸2年ほど色々な方とお話する機会をいただきました。この活動でさまざまなお悩みに対して相談に乗っていたりもしたのですが、そのなかのトピックとして「転職活動がうまくいかない」等採用に関するものもありました。実際に職務経歴書についてレビューしたり、気になる会社さんのカジュアル面談にお繋ぎしたり、といったことも行っています。
この実体験から、いくつか重要な点が見えてきました。
スキル・経験値部分でのミスマッチがある
転職サイトなどの募集を見ると、QAエンジニアの募集は昔と比べてかなり数が多いように見えます。募集がたくさんあるということは、良い条件で容易に転職が可能・・・と思いますよね。
しかし、そこで求められているのはQAのリーダーができる人など、いわゆるハイクラス人材、スペシャルな人である場合が多いです。
背景にはさまざまな要因が考えられますが、全体の傾向としては「とにかく人が欲しい」という企業は少なくなっており、「優秀な人だけが欲しい」「ベテラン相当の即戦力が欲しい」というのが本音のようです。
では求職者側はどうでしょうか。身の回りのQAコミュニティでの人の移動などを見ていると、企業側が欲している優秀な人は、リファラル等で転職していく傾向があるようです。一方、若手だけれども伸びしろがある人や、強い意欲があるけれども現職でなかなかスキルアップの機会に恵まれないため転職を考えている人、も世の中にはたくさんいます。しかし、経験年数や経験した業務の内容などが企業の求める「ハイクラス」の要件に満たず、なかなか転職活動がうまくいかない状況が見られます。
まとめると、
- 企業側:ハイクラス人材が欲しいがリファラルなどで転職する場合も多く、採用市場にはでてきづらい、母数が少ない
- 求職者側:やる気とポテンシャルをもつ層が、ハイクラス相当の実績や経歴を得る機会を求めている
という、若干のミスマッチが起きているというのが現状ではないか、と私は見ています。
アピール不足による機会損失
採用市場におけるミスマッチがあるとして、企業側も「ハイクラスでなければ絶対にダメ」というところばかりではありません。ポテンシャルに期待しての採用や、*年後にはこのくらいに成長してくれそうだから、といったように未来を見通した採用をしている会社ももちろんあります。
ここで求職者側が、自身のポテンシャルや今後の成長についての見通しを適切にアピールできれば、双方にとって良い形でマッチングすると思うのですが・・・募集する側の立場から見て非常に「もったいない」と感じる場面も多々あります。
採用面接や書類選考を担当し、担当のステップで合格判断をして次のステップに進んでもらう場合は、「なぜこの候補者を通過させるのか」を説明できなければいけません。これは社内でより上位の選考官に共有するためという側面もありますし、「迷ったら不合格」が採用のセオリーとも言われています。
つまり、合格にするには合格にするなりの理由が必要なんですね。
落とす理由は無いけれど、通すための理由にも欠ける。
そういった判断になる方が一定数いる、というのが私の実感です。おそらくスキルや経験があるのに、適切にアピールされていない。これが、もったいなさを感じるポイントでした。
募集側も訴求に困っている
求職者側だけでなく、募集側もアピールに困っているという話をよく聞きます。
- どのような場所・インフラで募集をかけるとQAエンジニアにリーチできるのかがわからない
- どのような文面・内容で募集すれば応募してもらえるかがわからない、本職のQAに「刺さる」募集がだせていない
が、個人的にいただくご相談トップ2です。「QAの方ってどこにいるんですか!?」は本当に鉄板の質問ですね。現職QAからすると「そこらにいっぱいいますよ」なのですが、募集側にとってはそこに適切にリーチできていないという問題があるようです。
とくに一人目のQAエンジニアを採用する場合はこれらの問題は切実です。QAエンジニアが社内にいれば募集文面のレビューや面接担当など任せられますが、一人目を募集している状態ではそれはかないません。QAエンジニアに対する知見やコネクションが無い状態でQAエンジニアを募集・採用しなければならないというのは、ハードルが高いです。
本連載の概要
QA・テストエンジニアの採用に関して、私が体験した・見聞きした情報をもとに現状をお話してきました。
本連載では、先に述べたような課題をクリアして、募集側・求職者側のチャンスが増えるためにはどうすればいいのかについてそれぞれの立場について解説していきます。前半である第2回・第3回は求職者側について、第4回・第5回は募集側についての内容となります。
第2回では、まずどのようなQAエンジニアが求められているのか、募集する側の声や実際に私が事業会社でQAエンジニアを募集していた際に「このような人を求めていた」という内容について説明します。全ての会社が同じような人材を求めている、というわけではありませんが、大まかな傾向とともに、パターンの一つとして参考にしていただければと思います。
第3回では、職務経歴書や面接でどうやって相手に「採用したい」と思わせるのか、考え方について解説します。これまでQAエンジニア個人に対して行ってきた職務経歴書のレビューの中で、よくコメントするポイントについてまとめます。書類・面接で落ちてしまう場合は単純にスキルが足りていないというケースもありますが、相手に合わせた見せ方・アピールができていないことが原因となっている場合もあります。こういった問題への対策を説明します。
第4回では、募集する企業側がどのように「求めるQA像」を表現するか、について解説します。とくに一人目QAを募集する場合、何を書けば訴求できるのか、逆に何を書くと避けられてしまうのかの勘所が無くて困ることも多いと思われます。QAが居ないから採用したいけど、QAが居ないから知見・勘所がない。このようなデッドロック状態の解消に役立てていただきたいです。
そして最後の第5回では、QAエンジニアに対する認知獲得について触れていきます。いくら募集が魅力的でも、実際にエンジニアから知られていないことには応募が集まりません。もちろん、「これをやればQAエンジニアの中での認知が獲得できます」というような銀の弾丸はありません。しかしやれることをコツコツやらなければ、いつまでも認知はされません。このあたりの、手の打ち方のバリエーションをご紹介できればと思っています。
最後のおことわり:採用・転職することがすべてではありません
連載の初回記事の最後で水を差すようなことを書いてしまいますが、なにもQAを採用することがすべて、転職をすることがすべて、ではありません。
冒頭で書いたように、採用したい、転職したいという思いを持った方同士がうまくマッチして双方が幸せになればそれは嬉しいことです。しかし、QAを採用すれば万事うまくいくわけでもなければ、個人が転職をすれば万事うまくいくわけでもありません。これらは言わずもがな、ですね。
しかしそれでもこのような記事を書くのは、QAを採用するための努力やQAとして採用されるための努力を適切に行うことが、企業・個人双方がQAに関する解像度を高めたり、自分たちのやろうとしていることを深堀りするよい機会になると考えているためです。
ひとことで言うと、さまざまなことを考え、言語化する強制力が働くというメリットがあります。
募集側であれば、自分たちが品質という視点でどのような困りごとがあって、QAエンジニアに何を求めたいのか。あるいは自分たちが何をわかっていて何をわかっていないのか。
こうしたポイントを言語化する必要に迫られますし、言語化できていないと結果的にふわっとした募集になり、誰も応募してこない・・・という結果になります。これは求職者にとっても同様です。
繰り返しになりますが、本連載を通じて絶対にQAを採用したり転職したりしろ!というつもりはありません。ただ、実際に募集・応募するかどうかは別として、考えるきっかけ・材料にしていただけるといいかと思います。

