
QAエンジニアの採用・選考 どう採るどう通る?連載の第5回、今回が最終回となります。
第2回・第3回では求職者側の視点、前回(第4回)からは募集側の視点に切り替えて、QAについて何を理解すべきか、理解を深めるための具体的なアクションについて解説しました。
しかし、QAを理解し、良い募集文面を作ることができたとしても、その募集がQAエンジニアの目に触れなければ応募にはつながりません。連載の最終回となる今回のテーマは「認知」です。
採用における認知の重要性は、さまざまな調査データからも裏付けられています。talentbook社が2024年に実施した調査では、採用施策において「応募者認知」に課題を感じている企業が中堅企業で78.2%、大企業で70.3%にのぼりました。また、markeTrans社の調査では、企業名を事前に認知している人の9割が業務内容の理解まで進んでいるという結果が出ています。年代が上がるにつれて事前認知の比率が高くなる傾向もあり、中途採用においては事前認知がアドバンテージになり得ることが示唆されています。
本記事では、QAコミュニティの中で自社の認知を獲得するための具体的な手段についてご紹介します。前回の「理解する(インプット)」に続く、「知ってもらう(アウトプット)」のフェーズとしてお読みいただければ幸いです。
記事一覧:QAエンジニアの採用・選考[どう採る どう通る]
なぜ「認知」が必要なのか
QAエンジニアは元々の母数が少なく、多くの企業が採用を競い合っている状況です。そうした中で、求人を出して待っているだけでは、QAエンジニアの選択肢にすら入ることが難しくなっています。
ここでいう「認知」とは、単なる企業の知名度のことではありません。QA採用における認知とは、「この会社は品質に対する取り組みをしている」「QAに対する理解がありそうだ」といった、品質への姿勢が伝わっている状態を指しています。
では、どの程度の認知を目指すべきなのでしょうか。いきなり「この会社で働きたい」と思ってもらうことを期待するのは、とくにまだQAエンジニアがいない企業の場合は現実的ではありません。まずは「社名を聞いたことがある」、できれば「あの会社は品質に力を入れているらしい」「QAとしてどんなことが求められそうか、なんとなく想像がつく」くらいのレベルを目指すのが妥当だと考えています。
私自身の体験として、事業会社に転職した後に外部のイベントに参加したり登壇したりしていたところ、「QAがいたんですね!」「募集してたんですね!」「御社の人をあまり外でお見かけしないので」と言われたことがありました。裏を返せば、それまではQAコミュニティの中で社名が認知されていなかったということです。外に出て顔を見せるようになってから、少しずつ「あの会社にはQAがいる」ということが広まっていった実感があります。即効性があるわけではありませんが、じわじわと効いてくるものだと感じています。
QAコミュニティでの認知を獲得する手段
ここからは、QAコミュニティの中で自社の認知を獲得するための具体的な手段をご紹介します。
スカウト・ダイレクトリクルーティング——「攻め」の認知
ビズリーチやFindyなどの媒体を通じてスカウト等を送ることは、応募を獲得するための手段として広く知られています。しかし、スカウトにはもう一つの側面があります。それは「認知を獲得する手段」としての効果です。
いちエンジニアの立場で正直なところを言うと、スカウトに返事をしないことは多いです。(転職するつもりがない場合は特に。)しかし、メールに含まれる文面は読んではいますし、社名も頭に残っています。「あの会社、QA採用してるんだな」という印象が積み重なることで、いざ転職を考えたときに選択肢に入る可能性が生まれます。
ただし、ここには大きな注意点があります。テンプレ感の強いスカウトや、まったく関係のないロールでの「いいね」は逆効果です。一方で、自分のこれまでのアウトプットを見てくれていたり、得意領域を踏まえたうえでの打診であれば、たとえ応募に至らなかったとしても印象は良いです。
面白いのは、経歴について具体的に言及されていてもテンプレ的に感じる文章もあれば、短くてもこちらのことを理解してくれていると感じるスカウトもある、ということです。この違いは言語化が難しい、感覚的な部分ではありますが、候補者側には良くも悪くも伝わっています。
これは前回の記事で述べた「QAを理解すること」と直接つながっています。QAという職種やその人のキャリアに対する理解が浅いままスカウトを送ると、それは候補者に見抜かれてしまいます。理解に裏打ちされたスカウトであればこそ、返事がなくても良い認知につながるのだと思います。
SNS・技術ブログでの発信——「蓄積する」認知
DevRelやHRのSNSアカウントが活発で、タイムラインでよく見かける企業は、それだけで認知につながります。「あの会社、よく発信しているな」という印象は、採用において意外と大きな力を持っています。
「でもうちにはまだQAエンジニアがいないので、QAに関する発信ができない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、QAがいない段階でもできる発信はあります。
たとえば、開発組織のトップ(CTOやVPoEなど)の名前で、品質に対する課題意識や今後の方針を発信するという方法があります。これはQAエンジニアにとって「この会社は品質に対して経営層レベルで意識を持っている」「入社したときに後ろ盾がありそうだ」というメッセージになります。QAとして入社するにあたって、経営層の理解と後押しがあるかどうかは非常に重要なポイントです。
また、開発者がテストに関する取り組みを発信することも効果的です。テスト自動化の導入、品質改善の施策、テスト設計の工夫など、QAエンジニアがいなくても開発者自身が品質に向き合っている姿を見せることができます。QAエンジニアから見て、「品質に対して何もしていない会社」と「QAはまだいないけれど、開発者が自分たちでテストに取り組んでいる会社」では印象が大きく異なります。後者のほうが入社後のイメージも湧きやすいです。
大切なのは、「品質に課題があります」という発信だけでなく、「今、こういうことに取り組んでいます」という部分も含めることです。課題の認識が適切にできていること自体がアピールになりますし、取り組みの内容を伝えることで「この会社は本気で品質に向き合おうとしている」という印象を与えることができます。
このほか、QA系のイベントに参加した後に感想ブログを書くのも有効な方法です。学びの姿勢を示しつつ、発信もできるという一石二鳥のアクションと言えます。
イベントへの参加・スポンサー——「存在感を示す」認知
JaSSTなどQA系イベントのスポンサーになっている企業を見ると、「この会社は品質に力を入れているんだな」という印象を持ちます。スポンサーは認知獲得の有力な手段の一つです。
とはいえ、いきなりスポンサーになるのはハードルが高い場合もあると思います。まずはイベントに参加して、QAコミュニティの空気感を知ることから始めるのも良い方法です。前回の記事でも「学びの姿勢で」と述べましたが、認知獲得においても同じスタンスが大切です。
懇親会への参加も、QAエンジニアとの自然な接点を作る機会になります。ただし、注意すべきなのは「採用目的で懇親会に来ている」「採用目的の声がけをたくさんしている」とならないようにすることです。これらは候補者であるエンジニアの間で印象が悪くなってしまうので、あくまでも交流や、QAコミュニティの空気感を知るためのスタンスを守ることが重要です。
また、開発者やDevRelの方がイベントに参加し、その感想をブログに書くというのも認知獲得につながります。「うちの会社の人がQA系イベントに関心を持っている」ということ自体が、QAコミュニティに対するメッセージになるからです。
合同ミートアップの開催——「双方向」の認知
最近では、複数社(3〜4社程度)が合同でミートアップを開催するケースも見られます。各社からのLTやパネルディスカッションを通じて取り組みを紹介し、参加者に「面白そうだな」「この会社で働いてみたいな」と感じてもらうことを狙ったイベントです。
ただし、この手段には難しさもあると感じています。採用目的を前面に出してしまうと、参加すること自体が転職意思の表明のように見えてしまい、エンジニア側からすると気軽に参加しづらくなります。一方で、あくまでも技術イベントというスタンスで開催すると、エンジニア側は気軽に参加できる反面、採用のためのアピールがしづらくなる可能性があります。このように、開催側の意図と建前と、参加者側の思いとが、噛み合いきらない部分があるように見受けられます。
認知獲得の手段の一つとして選択肢に入れておく価値はありますが、設計の難しさは認識しておいたほうが良いでしょう。
QAがまだいない企業の場合
ここまでご紹介した手段の中には、QAエンジニアがまだ社内にいない企業にとってはハードルが高く感じるものもあるかもしれません。
そうした場合は、前回の記事でご紹介した「副業QA」の活用が、認知獲得の土台を作る手助けになります。副業QAが社内にいることで発信の内容に説得力が増しますし、イベント参加やスカウト文面の作成においても、QAの専門家の視点を取り入れることができます。
まずは小さく始めて、少しずつQAコミュニティの中での認知を広げていくことが大切です。
連載のまとめ
本記事では、QAコミュニティの中で自社の認知を獲得するための手段として、スカウト・ダイレクトリクルーティング、SNS・技術ブログでの発信、イベントへの参加・スポンサーなどをご紹介しました。それぞれの手段にはそれぞれの特性がありますが、共通して重要なのは、前回お伝えした「QAを理解すること」が前提になっているという点です。理解が浅いままの発信やスカウトは、候補者には伝わってしまいます。
また本連載では、全5回にわたってQAエンジニアの採用について、求職者側・募集側の双方の課題を取り上げてきました。連載を通じて一貫してお伝えしたかったのは、採用活動を「なんとなく」や「他職種と同じように」進めてしまうと、うまくいかないことが多い、ということです。
求職者であれば、募集側がどんな背景でどんなQA像を求めているのかを理解し、それを踏まえてアピールすること。募集側であれば、QAという職種の幅広さや文化を理解し、その理解をもとに認知を獲得していくこと。どちらの立場であっても、相手の行動原理や思いを理解し、汲み取ったうえで行動することが大切です。
この「理解」こそが、QA採用を成功に近づける鍵ではないかと考えています。本連載が、QAエンジニアの採用に関わるすべての方にとって、何かしらのヒントになれば幸いです。

