こんにちは。チュンです。

オンラインで開催されたソフトウェア品質シンポジウム2023の本会議に参加してきました。

複数の講演や発表を聴講しましたが、基調講演と当社社員が登壇した発表についてご紹介します。

参考までに、昨年の参加レポートです。※参加レポート内のソフトウェア品質シンポジウム2022の公式サイトは、こちらに変更されています

ソフトウェア品質シンポジウムとは

ソフトウェア品質シンポジウムとは、1981年から開催されている日本科学技術連盟主催の歴史あるシンポジウムです。

今年で42回目を迎え、本会議前日の9/6に(今回は9/2(土)も)併設チュートリアルが開催され、本会議が9/7〜9/8の2日間で行われました。本会議1日目の終了後には、本会議Special Talk Session (STS)も行われました。

本会議レポート

基調講演について

今回の基調講演は 狩野 紀昭先生の「Kano Modelから品質について学ぶ!」でした。

狩野先生の講演を直接聴講できる貴重な機会です。

品質の概念として学習したことはありましたが、聴講前におさらいをと思い、ChatGPTで「狩野モデル」で確認してみたところ、ほしい回答が得られず…。

「Kano Model」で確認してみると難なく回答が得られました。まさに世界的な「Kano Model」であることを実感した次第です。

「Kano Model」の誕生

「Kano Model」の誕生について、狩野先生のこどもの頃の品質の思い出から始まり、「魅力的品質と当り前品質」の論文が学会誌に掲載されたところまでを語ってくださいました。

研究のきっかけとなったのは、

  • こども時代からの期待である「すぐに壊れる玩具を作らない」(よい品質とは壊れにくいものという期待をもって育った)
  • 「品質不良の低減」

これらが、学生時代に学んだ「消費者を満足させるという品質」と同じであるということにギャップがあった、というところからだそうです。

「消費者を満足させるという品質」は、品質不良を低減するなどというだけでは十分ではなく、『「不満をもたらす品質」と「満足を与える品質」は異なる』という漠然とした考えから始まったとのことでした。

その後、ハーズバーグの動機付け・衛生理論に出会い、疑問を解明できるかもしれない、ということから研究を進めて論文を提出したそうです。

…が、品質管理分野以外の文献調査が不足しているとの理由で却下されたことがあるとのこと。

他の分野には明るくなかったようですが、研究室でアルバイトをしていた方から哲学者のアリストテレスにたどりつき、最終的に論文が認められるに至ったとのことでした。

そのアリストテレスが「形而上学」で主張していた質についての内容から、「品質とは、ある事物に関して2つの品種が存在する時、それらの種差を指す」ということを、アリストテレスの品質論として説明してくださいました。

魅力品質のライフサイクル

Kano Modelの特徴として、品質要素を二次元で図式化していることがあげられます。

各品質要素を図解すると以下のようになります。

  • 一元品質:ないと不満、あれば満足なもの
  • 当り前品質:ないと不満、あっても満足とならないもの
  • 魅力品質:なくても不満にはならないが、あると満足なもの
  • 無関心品質:あってもなくても不満にも満足にもならない。関心がないもの
魅力品質理論図解

この魅力品質理論ですが、多くは「無関心品質」として生まれてそのまま終わってしまうことが多いようです。

ただ、その「無関心品質」の一部は「魅力品質」となり、さらにその「魅力品質」が「一元品質」に、いずれはそれが「当り前品質」になる、というようなライフサイクルがあります。

この魅力品質のライフサイクルについて、狩野先生が大学で講義していた時代に、他の品質関連に関する内容と比較すると学生の理解力に問題があったそうです。

狩野先生は学生が理解できないのは教える側が悪い、として、どうやったら理解が深まるのかについて、「MaryとJohnの恋の物語」として二人の恋の変化に例えて解説するようにしたところ、学生の理解力が大幅に上がったとのことでした。

それまでとは異なる雰囲気の資料で驚きましたが、確かにこれならわかりやすい、と感じました。

余談ですが、自分も教える側になることがあります。

なかなか理解してもらえない、と思うこともありますが、教える側が悪い!と断言された狩野先生のことばにグサッときました。

教える側として改善しなければいけないですね。

競合優位としての品質の歴史的変化

競合優位としての品質は歴史的に変化しているという、品質の3レベルについてのお話もありました。

  • 第1レベル:品質統制(顧客苦情解消、製品の基本的要件への適合)
  • 第2レベル:品質管理(顧客満足、顧客の明示要求の実現)
  • 第3レベル:魅力品質創造(顧客歓喜、顧客の潜在要求の実現)

第2レベルが出てくると第1レベルは当たり前になる、というように、品質競争は変化するというお話でした。

品質は第1レベルから第2レベルへ発展し、さらには第3レベルとなるように発展してきたとのことです。

これらの話の中で、突如「BFの3レベル論」という資料が提示されたのですが、BFって?と思っていたら、「BoyFriend」のことでした。

品質3レベル論をいろいろな3レベルに例えるようにレポートを書かせた際、学生が考えた場合の例として提示されていたものです。

このようにくすっと笑ってしまうような内容が講演中のところどころに含まれており、狩野先生の人柄が垣間見えたようでした。

まとめ(業務における「品質」を考えてみた)

ご紹介しきれていない内容もありますが、基調講演では全体的にハードウェアを前提としてお話しされていました。

基調講演後には「ソフトウェア、サービスにおける魅力的品質とは?」というパネルディスカッションもあったのですが(こちらはSNS禁止のため割愛)、ソフトウェアやサービスにも大きく関連する内容です。

別の一般発表や講演で、狩野先生のお話を引き合いに出されている方も複数いらっしゃいました。

論文発表当初から時間は経過していますが、現時点でも色褪せずマーケティングの場でも活用されていることなどを考えると、狩野先生から直接お話を聴けたことは本当に貴重でした。

自分自身は、テスト業務を担当しています。

お客様が開発した製品に対するテストの依頼を受け、テストを担当することが多いです。

品質管理として「品質不良の低減」のための業務であり、「不満をもたらす品質」にあたるものだと考えます。

そのため、今回のお話のメインである「魅力品質」を意識して業務することはほとんどありませんでした。

今回のお話を聴いて、少し視点を変えてみました。

そもそも、お客様から依頼されている「ソフトウェアテスト業務」そのものの品質を考えてみると、お客様からの期待や要望という意味では、この「魅力品質」に関連するのではないかと。

お客様から依頼されたテスト業務そのものに対して、最低限の成果を出すということは「当り前品質」であり、期待に対して成果を出すことが「一元品質」にあたるのかなと思いました。

お客様との会話の中から潜在的な要求を読み解くことができ、それらに対応することができれば、それは「魅力品質」になるのではないのかと。

長期間担当する場合には、ライフサイクルとして変化することもありそうです。

業務に対する姿勢として、「当り前品質」をこなすことはもちろんですが、一元品質や魅力品質にも対応できるようになるため、日々精進していく必要があると感じました。

※注:本文内の表記について、論文名やパネルディスカッションの名称は「魅力的品質」、その他は講演中の資料に提示されていた「魅力品質」としています。

林 尚平さんの発表について

本会議2日目には、当社社員の林 尚平さんによる経験発表がありました。

発表のテーマは、IoT技術を用いた組込み系製品のラズベリーパイを使用した自動化の問題点と解決方法です。

林さんは本Sqriptsにおいてスクリプターとしても記事を執筆しており、テスト自動化エンジニアとして活躍しています。

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【連載】自動テストはなぜ失敗するのか。失敗事例からひも解く成功への道筋
Sqripter:林 尚平

問題点

IoT組込み系製品のテストを自動化するためには、自動化ツールを製品やサーバ、シミュレータといった機器と連携させる必要がありますが、ラズベリーパイを用いて自動テスト環境を構築したとのことでした。

テスト自動化の導入にあたって選定した自動化ツールでは、前提条件の設定やテスト実行結果の確認ができないことが判明したようですが、他の自動化ツールでは代用できないことを自動化できるといったメリットがあったことから、その自動化ツールを用いた環境構築ができないかを検討し、「AutoIt」と連携させることで不足する機能追加の対策をしたそうです。

これにより、自動テストの導入としては成功できたようなのですが、その後の運用フェーズでエラーが多発してしまったとのこと。

エラーの要因としては、テスト対象が数十機種にもおよんでいたこと、ツールを2つ連携させたことにより環境構築が複雑になってしまい、ヒューマンエラーが発生してしまったことなどが挙げられていました。

解決方法

解決のために着目したこととして、できるだけシンプルなテスト自動化環境を構築することが望ましいとのことで、自動化ツールの選定について検討し、AGESTのプロダクトであるTestArchitectを利用する方法を紹介しています。

TestArchitectであれば、ハーネス機能によりラズベリーパイを制御する機能を取り込んで使用することができるため、環境構築をシンプルにすることが可能となります。

まとめ

自動化ツールの選定については、プロジェクトの状況などにもよると思いますが、導入だけではなく、運用まで見据えることも重要な要素であると改めて感じました。

TestArchitectは、デスクトップやWebアプリケーションをはじめ、モバイルにも対応しており、幅広いシステムの自動化が可能なツールです。

現在はこれらのシステムに利用されているケースが大半ですが、林さんの発表のとおり、ハーネス機能を用いることで組込み系製品の制御が技術的に可能であることが判明しました。

TestArchitectが組込み系製品の自動化ツールとして利用できることは、まだまだ知られておりません。

本記事をご覧いただいた方で気になった方がいらっしゃいましたら、ぜひお問い合わせください。

お問い合わせ先

さいごに

ご紹介した内容以外にもたくさんの講演や発表がありました。

基調講演や特別講演はもちろんですが、一般発表として多くの品質に対する考え方などを聴講することで、「基本の本質を学び、 見つめなおす場をご提供します」という開催概要にもあるように、日々の業務を見つめなおす学びの場となりました。

同時間帯に聴講したい内容が重なっていたこともあり、悩ましくもありましたが、アンケートに回答してアーカイブ視聴特典をいただいたので、アーカイブでさらに学びたいと思います。

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