みなさんは、知的生産や知的生活ということばを聞いたことはありますか?

初めて聞いた、という方はもしかしたら「堅そう」とか「えらそう」といった印象を持つかもしれません。

ところが、私はこの知的生産・知的生活は「ITエンジニア皆に知っておいてほしい」と考えています。もちろん、好き・嫌い、合う・合わないはあるでしょう。
そのため「全員に身につけておいてほしい」ではなく「そういった考え方があると知ってほしい」と、一段階トーンを下げた言い方をしています。

この連載では、ITエンジニアにとって親和性が高く「スキルアップしたい」と思う方にとっては役に立つであろう知的生活について、いろいろなアクティビティやツール、仕事での活用方法などについてご紹介します。知的生産・知的生活の考え方や、「そもそも知的生活とはどうあるべきか」等の話ではなく、できるだけエンジニアの普段の生活や仕事に役立てられるテクニックよりの話をするつもりです。

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知的生産・知的生活とは

テクニックの話をします、とは言ったものの、知的生産・知的生活について事前情報なしに話を進めてもわかりづらくなってしまいます。

まずは知的生産・生活をこの連載においてどのような意味で扱うかや、それがエンジニアにとってどう関係するのかからスタートしましょう。

知的生産界隈における有名な書籍のひとつに、『知的生産の技術』があります。
この本によると、知的生産は

知的生産というのは、頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら――情報――を、ひとにわかるかたちで提出すること

「知的生産の技術」(岩波新書)

くらいに考えておけばよい、とされています。

これを元に、私は知的生産というものを、

  • インプット
  • 処理
  • アウトプット

の3要素で考えています。

つまり、アウトプットである「なにかあたらしい情報や価値」を出すために、いろいろなインプット=情報をあつめて、自分の頭やいろいろな道具を使って処理=思考をする。これが知的生産です。

そして、知的生産を日常生活の中に組み込み、ひとつの楽しみとして行うことが「知的生活」であると考えています。

ちなみにこの『知的生産の技術』は1969年に初版が発行されたもので、知的生産という概念はこれだけ昔から存在していました。

ITエンジニアと知的生活

前述の知的生産の要素に照らすと、多くのITエンジニアが行っているような

  • 技術書を読む
  • 技術的な情報を集める、調べる
  • 勉強する
  • テックブログを書く
  • 勉強会などで発表する
  • 技術書や技術系同人誌を書く

なども、ひろく知的生活の一部と言っていいでしょう。
一部、というのは、たとえば技術書について「読みっぱなし」では知的生産とは言えません。そこからアウトプットまで行って初めて知的生産といえます。もちろんこれは感想ブログを書く等に限らず、本で得た知識を普段の仕事に活かすことも立派なアウトプットでしょう。

我々ITエンジニアは知識労働者(ナレッジワーカー)と表現されることがあります。知識や経験を使って価値を生み出すことが求められます。これは、まさに知的生産といえます。

ITエンジニアの周辺では、たびたび「自己研鑽」が話題になります。気合いを入れて毎日勉強するのも良いですが、そうではなく日々の知的生活を楽しんでいたらいつのまにかスキルアップしていた、そういった形もアリだと考えています。皆さんの周りにもそのようなタイプのエンジニアが居るのではないでしょうか。もしくは、あなた自身がそうかもしれません。

楽しみながらスキルアップしたいという方にとって、知的生活をより楽しく実りあるものにするためのテクニックや考え方を学ぶことは、エンジニアとしての成長に直結するのです。

知的生活をよりよくするためのツールや考え方

先に、ITエンジニアにとっての知的生活の要素として

  • インプット
  • 処理
  • アウトプット
    の3つが考えられる、と述べました。

それぞれの要素について、よりやりやすくしたり、効果的に行うためのツールや考え方があります。

本連載では次回以降これらのツールや考え方、実際の活用方法などをご紹介します。本記事でも、それぞれ簡単に触れておきましょう。

インプット

知的生活では日常的なインプットが大切です。我々ITエンジニアは日ごろからさまざまな情報が勝手に流れてくる環境にあるため、あえて「大切です」という必要はないかもしれません。

SNSではソフトウェア開発にまつわるプラクティスや言語・フレームワークなどの情報も日々流れてきます。もちろん、読書や日々の業務中の調べ物もインプットにあたります。

「どうやって情報を集めるか」に苦労する方も居るかもしれませんし、一部には「大量に流れてくる情報をどう拾いあげ、自分のものにするか」で困っている方もいるかもしれません。

個人のナレッジを蓄積・管理する概念として「PKM:Personal Knowledge Management」があります。主にデジタルなツールを用いて、インプットした情報を管理しその後の処理→アウトプットにつなげる方法論で、蓄積した複数のメモやノートの類似性やつながりから新たに着想を得たりします。

こうしたデジタルツールを用いた情報蓄積は、ふだんからPCやデジタルデバイスに向かって仕事をしているITエンジニアにとって好相性です。皆さんの中にも、言葉自体は初めて聞いたけれども前からやっていたことに近いな、と感じる方がいらっしゃるでしょう。

処理

前段のインプットにて得た情報を蓄積することで、先のアウトプットに至るためのさまざまな処理を行います。処理といっても、ここでは機械的にできることだけではありません。

会社のテックブログの執筆当番が回ってきて、「何を書こうかな・・・」と過去のメモを見返してうんうんとうなるようなことも、この処理に該当しています。

ここでは主に、蓄積した情報をもとにどう発想するかや、発想を得るための道具について扱います。

ソフトウェアテストを仕事にしている方は、「マインドマップでソフトウェアテスト」という手法を聞いたことがあるかもしれません。この例ではマインドマップはまさに発想を得るための道具ですし、テストのためにマインドマップを使う際の考え方・使い方が発想法に該当します。

アウトプット

アウトプットに関しては、ツールというよりも習慣化・仕組み化や、どのような場にアウトプットするかが重要になるでしょう。

現在はSNSやブログサービスなど無料でアウトプットを公開できる場がいくつもあります。また、エンジニアのアウトプットという点では、勉強会で登壇したり同人誌や一般書籍としてまとめることもできます。

ただ、いきなり「アウトプットしましょう」と言われても難しいという方も多いと思います。今後の連載の中では、小さいアウトプットから大きなアウトプットにつなげていく流れについても解説します。

効率だけでなく、楽しく知的生活を送ろう

本記事では知的生産や知的生活について、そしてそれらがエンジニアにとってどう関係するのか、またエンジニアの知的生活の要素についても簡単に触れました。

エンジニアにとっての知的生活は、もちろん成長につながることを目指して行う面もあります。ただ、成長速度や効率ばかりを追い求めてしまうと、苦しくなってしまいます。

この連載では効率もですが、より「楽しく継続できる」ことを大事にしたいと考えています。
仕事のためにとプログラミング言語を習得するよりも、便利ツールや作りたいアプリケーションのために身につけるほうがいい、という考え方と似ています。

知的生活やその要素自体を楽しんでいった先で、気がついたらエンジニアとして成長・スキルアップしていた、という状態を目指していきましょう。

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SQRIPTER

伊藤 由貴(いとう よしき)

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テスト自動化エヴァンジェリストとして、エンジニア育成・テスト自動化コンサルテーション・部署の立ち上げ・マネジメントなどを経験。
現在は複数Webサービスを運営する会社の横断部門にて、QAエンジニアとして活動中。

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