【第5回】QAチームにおけるキャリアの作り方

この連載では、1人目QAとしてのチームの立ち上げや組織づくりに関して、私が実践したことや試行錯誤中のことも含めてお伝えします。

前回の記事では、開発者とQAとのコミュニケーションに関する問題やその対応について解説しました。

今回は、QAチームを立ち上げていく過程でメンバーのキャリアをどう作っていくかを考えます。

チーム立ち上げにおけるメンバーのキャリアパス

QAチームを立ち上げ成長させていく上で、メンバーのキャリアパスは重要なテーマです。とくに、立ち上げ初期のメンバーや若手エンジニアにとっては、チームでの活動を通じて将来どのようなキャリアを描けるのかが重要です。明るい未来が見通せるかどうかは、日々のモチベーションや成長に大きく影響します。

そこで、今回はQAチームにおけるキャリアパスを

  • 社内でのキャリア
  • 社外でのキャリア

という2つの側面から掘り下げてみたいと思います。

社内でのキャリアパス

QAエンジニアとして自社で働く過程で、どのような経験を積みどのような道に進めるのか、具体的なキャリアビジョンを示すことが不可欠です。

ビジョンを示すことの重要性

中堅・ベテランにもなれば「キャリアは自分で考えて築くもので、会社がすべて考えるわけではない」と言えるのですが、キャリア形成の初期段階にある若手エンジニアに対してはそうはいきません。QAチームを組成して数年が経ち、社内での役割・位置づけ・評価の仕方などが固まっている場合は、キャリアの見通しがつきやすいでしょう。しかし、本記事が対象としている「QAチームの立ち上げ」の段階においては、QAエンジニアとして働いた先のイメージが持ちづらくなります。

もちろん暫定ではあると思いますが、QA組織を将来どうしたいかのビジョンとともに

  • ジュニアなQAエンジニアも含めて、QAチームのマネジメントを担えるようになる
  • SETとしてテスト自動化等に強みを発揮する

など複数の選択肢を提示できると良いでしょう。

このとき、第1回でも触れたQMファンネルを参考に、テストエンジニア・パイプラインエンジニア(SET)・QAエンジニアといった軸で検討をするとわかりやすいです。さらに、各ロールにおけるスプリット・インプロセス・コーチ・コンサルタント・プロモーターといった役割を組み合わせることで、より多様なキャリアパスを描くことができます。

社外でのキャリアパス

QAチームを立ち上げる際、社外でのキャリアパスを考慮することは、一見するとチームの安定を損なうように思えるかもしれません。「せっかく育てたのに、転職してしまうのではないか?」という懸念を抱く方もいるでしょう。しかし、個人的にはむしろ積極的に社外キャリアを一緒に考える方が、長期的に良い関係を築けると信じています。

QAエンジニアが抱える不安

私は他社でQAエンジニアをされている方から相談をいただく機会があるのですが、その中で「今の自分の仕事は、本当にQAとして正しいのか?」「他の会社ではどうしているのか?」といった不安を感じている方が少なからずいらっしゃいます。自社だけでQAエンジニアの基準や業務を考えると、どうしても視野が狭くなりがちです。このときにやるべきことは、世の中全体のQAの動向を把握し、その中で自分たちがどのような立ち位置にあるのかを理解することだと考えます。

  • 他社では開発チームとQAチームが完全に分かれているところもあるらしい
  • ウチでは開発者がE2Eテストを書いているけれど、QAエンジニアが書いているところもあるらしい

など、いろいろなパターンのQA組織・QAエンジニアの業務スコープがあると知ることも、とくにジュニアなメンバーにとっての安心感につながります。世の中のQAのトレンドや、最先端の技術、他の企業での取り組みを知ることで、自社の活動を相対的に把握できます。これは優劣をつけるのではなく、あくまでも「状況に応じて正解がいろいろある」と知ることが大事、という意味です。

その結果「自社ではスコープ外になっているけれど、どうしても挑戦したい領域がある」というメンバーがいて、残念ながらチームや会社を離れてしまうこともあるかもしれません。チームを立ち上げている身としてはつらいところですが、これは受け入れるしかありません。自社のQAエンジニアとしての未来に不安を抱えたまま退職をされるよりは、前向きなチャレンジのためにと巣立ってもらうほうがよい、と捉えましょう。

チームを立ち上げる側の役割

世の中のQA組織の形やQAエンジニアの仕事の動向≒「全体感」をメンバーに持ってもらうためには、チームを立ち上げる側の努力が必要です。

組織を立ち上げるQAエンジニア本人が世の中の動向を把握し、最新の知識をアップデートしておく必要があります。ただし、すべてを把握した上でメンバーに教えようと考えると大変です。QAチームを立ち上げる側がざっくりと掴んだ情報を伝えつつ、一緒に解像度を高めていくというイメージで、メンバーのキャリアを支援することが望ましいでしょう。JaSSTなどのイベントに一緒に参加して他社と情報交換しつつ全体感を捉えるのもよいですね。

社内・社外両面でキャリアパスをフォローする

QAチームを立ち上げる際には、メンバーの社内外でのキャリアパスをともに考え、長期的な成長を支援することが重要です。

  • 社内のキャリア:チームのビジョンを定め、進むべき方向の選択肢を提示する
  • 社外のキャリア:業界全体の動向を共有し、自分たちの位置づけを把握してもらう

という両面でフォローすることで、メンバーの成長にも繋がり、結果としてQAチームが強化されるでしょう。

【連載】QA組織の立ち上げ方-1人目QAが語る実践と工夫- 記事一覧

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SQRIPTER

伊藤 由貴(いとう よしき)

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テスト自動化エヴァンジェリストとして、エンジニア育成・テスト自動化コンサルテーション・部署の立ち上げ・マネジメントなどを経験。
現在は複数Webサービスを運営する会社の横断部門にて、QAエンジニアとして活動中。

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