
帰納的な推論 と 発見的な推論(アブダクション) は、私たちがソフトウェア開発の現場/実務で(知らず知らずにでも)駆使している思考の形です(それどころか日々の暮らしでも使っています)。
それほど“自然な”思考の形ですが、どんな考え方で、どんなところに注意すると質の高い思考ができるのか、基本知識を押さえておくと実務のレベルアップにつながります。
<実務三年目からの発見力と仮説力 記事一覧>※クリックで開きます
発想法というと、第8回で取り上げた親和図法(KJ法)がありますし、ブレーンストーミングの4つの原則やオズボーンのチェックリストなども有名ですが、説明仮説の発案には「発想を広げる」以外の切り口もあるとよいでしょう。
今回は、仮説の発想を促す「考えるためのヒント」を、2冊の書籍から紹介します。
糸口をつかむヒント
『いかにして問題をとくか』は、数学分野の教育者と学生向けに、数学の問題に立ち向かうためのヒントが書かれた本です。

■ いかにして問題をとくか
G.ポリア 著・柿内 賢信 訳/丸善出版
B6判・262頁 ISBN:978-4-621-04593-0
※令和4年3月25日 第11版59刷発行分より紙面がリニューアルされています。
ソフトウェア設計者やテスト担当者、デバッグ担当者に向けた内容ではないのですが、挙げられている中にはソフトウェア故障/不具合の原因究明時にも役立つと思えるものがあります。
その中からいくつか紹介します(ページ番号は同書のもの)。
類似の事例を探す
ソフトウェアの現場では、“初めて目にする”ような奇妙な(と思える)事象、不可解な(と思える)事象にしばしば遭遇しますが、
そのような時はすかさず:
■過去に類似した事例がないか、然るべき相手に質問/相談する。
(然るべき相手には、自分自身を含む)
具体的には:
- 「前にこれと同じ事例に遭遇したことはないか」 (pp. 138 – 139)
- 「これと似た事例、細部は違うが同様の事例を知っているか」 (pp. 163 – 164)
- 「これと似た事例で、解決されているものはないか」 (p. 162)

過去の類似事例が現在直面している問題にそっくりそのまま当てはまるとは限りませんし、記録や記憶が間違っている場合もあり得ますが、似た点があれば問題の切り分け(次節参照)など考えを進める手がかりになり得ます。
また、 原因探求の過程 自体も手がかりになり得るでしょう。(何から調べたか、どんな点に着目して原因を突き止めることができたか、etc.)
「似た事例」の場合、どの点で似ていてどの点で似ていないのか、 共通点と差異 の識別に十分注意を払いましょう。
これには第3回で取り上げたミルの帰納法の考え方、また第5回で取り上げた類比的推論(類推)の考え方が参考になるでしょう。
事象や条件を切り分ける
問題の糸口をつかむには、以下のような“発想の転換”が有効なこともあります。
■細部に目を向けることで重要点が見えてこないか。 (pp. 44 – 51)
問題の事象が小さな事象の組合せである可能性はないか。
既知のこと・未知のことを切り分けて、把握しやすい大きさの“小問題”に分解できないか。
小さな事象を引き起こす条件(原因)を考えられないか。
個々の小問題を調べてから全体を組み合わせることはできないか。
■小問題を別の問題に置き換えて考えることはできないか。 (pp. 69 – 75)
問題の事象自体や分解した“小問題”を、既に解明されている“類似の問題(事象)”に置き換えて、仮説を考えることはできないか。
■複雑な条件の各部分を“分離”できないか。 (pp. 96 – 97)
原因となる条件の粒度が大きい場合、もっと小さい個別の条件の複合として捉えることはできないか。
個別の条件ひとつひとつを試す(実験してみる)ことはできないか。
他の条件を変えずにひとつだけ条件を変えて試すことはできないか。

“バックグラウンドの自分”が味方
アイデアを生み出す5つの段階
『アイデアのつくり方』は、アメリカの広告業界で活躍した著者が、広告の核となる優れたアイデアを生み出す方法について解説している本です。

■ アイデアのつくり方
ジェームス・W・ヤング 著・今井茂雄 訳・竹内 均 解説/CEメディアハウス
※本書日本語訳は、1988年に(株)TBSブリタニカから出版されました。その後阪急コミュニケーションズでの発行を経て現在はCEメディアハウスより発行されています。
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