【第1回】専門性をつなげて、あなたらしいQAエンジニアの像をつくる

開発現場で働く中で、「自分の専門性とは何か?」と自問したことがあるのではないでしょうか。

特に「品質保証」という広大な領域を担うQAエンジニアにとって、その問いはキャリアの節目で繰り返し現れます。

品質保証における技術や、その活動がソフトウェア開発への貢献する形は様々です。

そのため、「QAエンジニア」と一口に言っても、多様な専門性や個性があります。

この連載では、そのような問いと向き合うための一つの考え方として、「多様な専門性を積み上げて、自分だけのQAエンジニア像を作っていく」というアプローチについて、私自身の経験を交えながらお話ししていきます。

筆者はテスターとしての専門性を基盤とするQAエンジニアです。

そのため、テストの話が中心となってしまいますが、実際には多様な専門性の積み上げがあり得ることにご留意いただいた上で、皆様のキャリアを考える際のヒントになれば幸いです。

第一話となる本稿では、様々な専門性を組み合わせて、「自分自身のQAエンジニア像を育てる」という考えについて紹介します。

専門性を身につける

自分自身が「プロである」という意識を持った上で開発組織の中で貢献することは重要です。

ソフトウェア開発はクリエイティブな仕事であり、単に「定められた時間で決められた作業をする」という性質よりも、「自分自身の専門性を発揮して良いソフトウェアを作る」性質を持っています。

こういった状況の中で、きちんと自己を確立するためには、「専門性を身につける」ことが大切だと考えています。

巨人の肩に乗る

「巨人の肩に乗る」という言葉があります。これは「先人たちの知識や成果を土台として、さらにその上に新しい発見や進歩を築き上げる」という意味です。

プロとして専門性を身につけるために、私はこの考えをとても大切にしています。

例えば、「理論や知識よりも、まずは現場での経験がすべてだ」と考え、経験から学ぶこと”だけ”を重視する方に出会うことがあります。

経験から学ぶことはとても重要です。しかしながら、経験”だけ”から学ぶことは専門性を高めるスピードを遅くしてしまうと感じる時があります。

現代で確認できる様々な技術や知識は、先人たちが積み上げてきたものです。これらを「現実では意味のないものだ」「現場では役に立たない」と断じるのではなく、その上に自分自身が何を積み上げられるかを考えることも重要です。

巨人の肩に乗って、良い景色が見れなければ降りればいいのです。

この世界にはたくさんの巨人がいるのですから。

品質保証に関わる様々な専門性

「品質保証」といっても、その活動の中で活かせるスキルや技術は多様です。私はテスターからキャリアをスタートして、今でもテスターとして自認しています。

「テスター」と一言で片付けても、テストの分野にはテスト設計、テストマネジメント、テスト自動化、様々なテストタイプの実践など、多様な専門分野が識別できます。

また、品質保証においてテストは必要不可欠ですが、QAエンジニアは必ずしもテストの専門家である必要はないと私は考えています。実際に私が知っている人の中には、QAエンジニアとしてキャリアを積み上げる中で、SET、プログラマー、EM、スクラムマスター、広報など、さまざまなキャリアのパターンがあります。

T型人材になる

キャリアの考え方として「T型人材」というものがあります。

「T型人材」とは、特定の分野を極め、専門的な知識や経験とスキルを蓄積し、これらを軸にして、その他の幅広いジャンルに対しても知見を持っている人材のことを指します。英語で「T」の文字の縦を「専門性」、横を「視野の広さ」に見立て、「T型人材」と呼ばれています。

kaonavi人事用語集

品質保証の担い手として活動しようと考えたとき、私は「T型人材であること」は必要不可欠だと考えます。品質保証は、特定の専門性、例えばテストへの習熟だけでは不十分だと考えます。

品質保証には、経営課題を理解したり、開発者の思想に寄り添ったり、ユーザーの視点への洞察が求められます。幅広い領域への理解があって、私たちはより効果的な品質保証を行うことができるのです。

QAエンジニアとしてTになる

私自身、T型人材であることを体現するために、ソフトウェア開発だけでなくビジネス側の知識や組織論などを勉強している途中です。

これらの知識は、ソフトウェア開発以外での品質保証への貢献、連携、対応などに役に立ちます。

プロダクトの方向性やスコープを考える際にはビジネス戦略への理解や顧客理解が不可欠ですし、プロダクトと共に成長するチーム運営を考えるには、長期的な人材戦略と連携して考える必要があります。

また、それらを単なる知識として学ぶだけでは不十分だと考えています。知識に偏ってしまうと、これらは先入観となってしまうリスクがあります。先入観は様々な人と連携していく上で、足かせになってしまうことがあります。

ぜひ他の分野についても実際に働いている人とも話して、リアルな知識を身につけてほしいと思っています。

私なりに実践してきたTの形

私自身は、テストの専門性がある「テスター」と名乗っています。一方で、QAエンジニアとして品質保証を考える上では、テストの専門性だけでなく、様々な知識が必要になると考えています。

こうした思いから、QAエンジニアと名乗るべき文脈においては、私はあえて「テストに専門性を持つQAエンジニア」と名乗るようにしています。

テスト以外でも自分自身が「強み」だと思っている分野があります。スクラムマスター・コーチング・プロジェクトマネジメントなどです。これらの専門性を身につけることで、テスターとしての自分がより強固になると感じています。

専門性を緩やかに繋げる

様々な専門性を身につけると、それぞれ単一の独立した専門性だったものが、自分の中で緩やかに繋がりができることがあります。

コラボレーションするように、ある専門性と別の専門性を掛け合わせることで、新たな貢献が生まれることがあります。

他にも、ある技術を学ぶことで、それまで自分の中で培ってきた専門性や経験に、新たな側面を見出したり、知見を得たりすることがあります。新たな専門性を身につけることで、これまでの知見もリフレーミングされるのです。

こうした「緩やかな繋がり」はQAエンジニアとしての自己を確立するための基盤になると考えています。

さいごに

本連載は、私が今まで獲得してきた「専門性」を取り上げ、どのようにそれらを獲得して、緩やかに繋げていったかをお伝えします。

この連載を通して、皆さんの興味関心を伸ばし、ご自身だけのQAエンジニア像をデザインするためのヒントとなれば幸いです。

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SQRIPTER

山下 友輔(やました ゆうすけ)

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ソフトウェアテストに専門性を持つ、大阪在住のバキバキQAエンジニア。なによりDirty Testerでもある。
2018年に第三者検証会社に第二新卒として入社後、派遣テスターとして業務をこなしつつTPIというテストプロセス改善技術について学ぶ。
現在はWeb系SaaS企業のQAエンジニアとして、パーフェクトQAパーフェクトスタイルを模索している。

JSTQB TA/TM/TAE

プロフィール画像は妻が描いてくれた。

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