【第10回】注意はしながら、恐れずに|実務三年目からの発見力と仮説力

帰納的な推論発見的な推論(アブダクション) は、私たちがソフトウェア開発の現場/実務で(知らず知らずにでも)駆使している思考の形です(それどころか日々の暮らしでも使っています)。

それほど“自然な”思考の形ですが、どんな考え方で、どんなところに注意すると質の高い思考ができるのか、基本知識を押さえておくと実務のレベルアップにつながります。

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今回はアブダクションをする時の注意点です。
各回で触れてきたことのおさらいも含めて確認しておきましょう。

おさらい・「よい仮説」の4つの条件

4つの条件(再掲)

第6回で触れた「「よい仮説」が持つべき性質」と、第7回で述べた「パースによる「よい仮説」の判定基準」の表を再掲します(図10-1)。
(説明は当該回の記事を参照してください)

品質探偵コニャン
図10-1 「よい仮説」の判定基準と、「よい仮説」が持つべき性質 (図7-3再掲)

もっともらしさと検証可能性

4つの条件はそれぞれに重要ですが、「もっともらしさ」と「検証可能性」は欠かせません。問題の事象を説明できないものは論外ですし、飛躍や矛盾を含む説明は納得度が(著しく)低いでしょう。

正しいかどうか確かめる方法がないのなら、いくらもっともらしくても空論の域を出ません。故障の原因説明に地縛霊とかを出されても困るわけです。

(この業界では不可解な現象や「なぜかできていた」作業などが「小人さんのしわざ」とされることがまれにしばしばありますが……筆者も小人さんにはずいぶんお世話になりましたが……)

もっとも、検証可能性の点では弱くても(実際に確かめるのが難しくても)、もっともらしい原因や過程はあり得ます。
(ソフトウェア故障で言えば、たとえば「実行や同期のタイミングに起因する故障」や「コンパイラの吐くコードに起因する故障」「外部からの割込みに起因する故障」など)

調べ尽くし考え尽くした末に、「こう考えれば説明はつく」(そのような原因しか考えられず、他の点で飛躍や矛盾がない)場合は、検証可能性はいったん措いておくことになります。

もっともらしい説明であるには:

  • 根拠や前提が確かなものか、事実に基づいて説明できるか。
  • 因果関係の説明が合理的筋が通っている(飛躍や矛盾を含まない)か。

が重要となります。

事実を大事に

事実を集める

「その時目の前に見えている材料」だけで仮説を作ろうとしない

「何が原因か」「どのようにしてこの結果が生じたか」を考え始める時は、得てして「その時見えている事実」だけで仮説を考えがちです。(図10-2)。

しかし、問題の事象に附随して起こっている事象のうち、何が関係していて何が関係しないかは、特に仮説検討の初期には判らないことも多い筈です。

問題の事象とかけ離れているように見えるからといって、うっかり切り捨てないように気をつけましょう(次節「先入観と向き合う」も参照)。

  • 目の前に見えているものは、原因を考えるのに必要な全てと言えるか
  • 「取るに足りない」と思い込んでいるものはないか
図10-2 事実を集める
図10-2 事実を集める

先入観と向き合う

先入観(や、各種の認知バイアス)は、

  • 仮説案を“裏づける/強化する”事実にばかり注意が向いてしまう
  • 仮説案と合わない(邪魔になる)事実に目が曇る

といったことを引き起こし、因果関係の誤謬(図10-4)につながるおそれがあります。

先入観からフリーでいるのは誰にとってもたやすいことではありませんが、自分にバイアスがかかっていることに気づければ、対処はしやすくなります。

考え始めには

  • 「自分は今どんな前提で考えようとしているか?」
  • 「最初に思いついた仮説案は、何を前提としているか?」
  • 「その前提は妥当なものと言えるだろうか?」

など、
また、仮説案と整合しないような事実を見た時には

  • 仮説の方が間違っているのでは?
  • この事実と両立するように仮説を修正できるのでは?

などと、自分に問いかけてみる習慣をつけられるとよいでしょう(図10-3)。

図10-3 先入観と向き合う
図10-3 先入観と向き合う

因果関係の説明だから

因果関係推定の落とし穴

原因から結果に至る過程の説明を考える際には、因果関係の推定に関わる落とし穴(誤謬)に気をつけましょう(図10-4)。

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SQRIPTER

望月信昭(もちづき のぶあき)

gst lab.

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gst lab.所属

前世紀は主にソフトウェアエンジニア/プログラマーとして活動。
今世紀はソフトウェアテストのコンサルティング、実務の支援、テスト関連技術トレーニングの企画・開発・講師/ファシリテーターといった領域で活動。近年は若年層ソフトウェアテスト技術者の育成に関わることが多い。
ISTQB-FL、テスト技法、論理スキルなど、ワーク盛りだくさんのトレーニングやワークショップを提供中。

note⇒ https://note.com/nob_mottie/

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