JSTQB(ソフトウェアテスト技術者資格認定組織)により、待望のCBTが10月3日(月)より開始されました。この機会に、JSTQB試験の取得を検討されている方も多いのではないでしょうか。こちらの記事では、JSTQB試験情報とCBT化の情報についてご紹介いたします。

JSTQB認定テスト技術者資格とは
JSTQBとは、日本におけるソフトウェアテスト技術者資格認定の運営組織で、 各国のテスト技術者認定組織が参加しているISTQB(International Software Testing Qualifications Board)の加盟組織として2005年4月に認定されています。

CBT化について

CBTとは

CBT:Computer Based Testing (コンピュータ・ベースト・テスティング) とは、紙と鉛筆を用いて試験を行うのではなく、コンピュータ上で試験を行う方法を意味します。CBT による試験配信には、30 年近くの歴史があり、紙で実施する従来の方法に比べ、利便性、スピード、セキュリティ、試験問題の革新性・公平性等の点において優れています。現在では、世界中で数多くの認定団体が CBT による試験配信を選択しています。

CBTへの移行理由

従来の試験形式では、受験者個人が受験状況を確認できる手段がなく、また、受験者数の増加に伴い、受験枠の不足も顕著となっていました。 このような課題解決のため、試験をCBTへ移行することにより、JSTQBの受験利便性と受験機会を増やすことが目的とされています。
ではCBTへの移行により、何が変わるのでしょうか。 主な変更点を以下となります。

<CBTの変更点>

上記表より、主な変更点は、47都道府県にある希望のテストセンターに空き時間があればいつでも受験可能となったこと、また、受験資格審査期間および合格発表日が大幅に短縮されたことが挙げられます。
ただし、受験後3ヵ月は同試験への申込みができないこと、CBT試験でTMを初めて受験する場合は過去PBT試験でAdvanced Level資格を受験したことがあっても業務経歴書の再提出が必要であること(従来のPBT試験の時は、過去Advanced Level資格を受験したことがある場合、業務経歴書の再提出が免除)、という2点については注意が必要です。

CBTのメリット

CBT導入により主催者側のメリットなども多岐に渡りますが、ここでは、受験者側のメリットについてまとめています。

近くの会場で受験できる
CBTは受験日時や試験会場が指定されるのではなく、受験者本人が選択できることから受験機会が増加します。
CBT受験が可能なテストセンターは全国47都道府県にあり、各都市に会場が複数用意されているため地方在住者でも受験しやすくなっています。自身の好きなタイミングと場所で受験可能な点はCBTにおける最大のメリットと言えます。

いつでも受験できる
CBTは、試験日の数日前でもオンライン予約システム上から簡単に受験日時や試験会場の変更およびキャンセルが可能です。
これまで最大年2回までしか受験できなかったJSTQBの資格試験が、自身の予定に合わせて好きなタイミングで受験することができるようになります。

合格発表までの期間が短縮
CBTでは試験終了後、コンピュータが自動で採点するため、受験結果の判定および発表までが短期間で行われます。
実際、JSTQBのCBT試験においては、これまで約3ヵ月を要していた合格発表が約2週間にまで短縮されました。
受験結果が早期に確認できれば、受験者は気持ちの切り替えがしやすくなり、これはCBT化によるメリットといえます。

JSTQBについて

資格の種類

JSTQBの加盟組織であるISTQB(International Software Testing Qualifications Board)の認定テストは、以下のようになっています。

<資格の種類> (出典元:https://www.istqb.org/

JSTQBでは、日本語化されたシラバスが全8資格あります。(赤枠箇所)
そのうち、今回CBT試験が公開されたのは、「Advenced Level-Test Manager」と「Foundation Level-Certified Tester」の2資格です。
なお、今後もCBTで受けられる資格は増やしていくと発表しています。
今回CBT対象なったFLとAL(TM)を以降の記事で取り上げていきます。

資格の必要性

資格取得者情報について

JSTQB試験実施データ受験者合格者合格率
Advanced Level(TM)4,04771717.72%
Advanced Level(TA)2,54054821.57%
Foundation Level36,33420,57956.64%
<取得者データ> (出典元:https://jstqb.jp/attribute.html

上記は、JSTQBの試験実施データ(合計)です。 現在、Foundation Levelの受験者が「36,334名」、合格者は「20,579名」となっています。
こちらは、年2回(FL)または年1回(TM,TA)の開催、また会場の制限などがあった上での受験者数となりますので、ソフトウェアテストの知識・品質における視点がどれほど重要と捉えられているかが分かります。そのため、ソフトウェアテスト業界では、採用の歓迎条件として、JSTQB資格の有無を問われる場合もあります。

JSTQB取得に役立つ職種

JSTQB認定テスト技術者資格は、ソフトウェアに関係する全ての人に役立つ資格です。

職種

●ソフトウェア開発者
●テストエンジニア
●テストコンサルタント
●テスト担当者
●テクニカルサポート
●品質管理者 など

取得するメリット

<メリット1>ソフトウェアテスト技術を学べる
JSTQB認定テスト技術者資格の勉強をするうちに、自然とソフトウェアテストについての知識・技術を学ぶことができます。ソフトウェアテストに関する知識やスキルを身につけられるのは、テスト技術者を目指している人にとって大きなメリットです。

<メリット2>テスト技術者スキルの証明になる
テスト技術者としての実力を第三者に認めてもらえます。
仕事相手にも「JSTQB資格保有者ということは、テスト知識・経験を積んでいるのだろう」という評価を得られます。

<メリット3>自身を客観的に評価できる
自身のテスト経験や知識を国際基準で評価できます。
ソフウェアテストに関する標準的な知識だけでなく、テスト技術に関することも学べるため、自身の強みと弱みのバランスを知る良い機会になります。

今後の動向

前回FLの東京会場申し込みは、およそ一日で締め切られるほどのものでした。 つまり、試験取得を目指す方が多い、競争率が激しいということになります。
以上のことから、JSTQB(FL及びAL(TM))のCBT化に伴い、受験者及び合格者が大幅に増加すると考えられます。
JSTQB(FL)がソフトウェアテスト技術者にとって、より一般的かつ基礎的な資格となっていく可能性が高いため、今後はソフトウェア業界での資格取得価値がより上がっていくのではないでしょうか。

資格情報

FLとALの各試験において試験方法、試験時間などはどのように異なるのでしょうか。
ここでは、今回CBT移行対象となるFLおよびAL(TM)の各試験についてまとめています。

種別Foundation Level 試験(CTFL)Advanced Level テストマネージャ試験(CTAL-TM)
受験資格制限なし。誰でも受験可能。次の①と②の条件を全て満たす。
①JSTQB Foundation Level資格試験の合格者
又は、JSTQB(日本) 以外の
Foundation Level資格試験の合格者
②業務経験3年以上(業務経歴申請書の提出あり)
試験時間60分180分
問題数40問(4肢択一式)65問(4肢択一式)
得点40点満点115点満点
合格点26点75点
出題範囲1.テストの基礎
2.ソフトウェア開発ライフサイクル
全体を通してのテスト
3.静的テスト
4.テスト技法
5.テストマネジメント
6.テスト支援ツール
1.テストプロセス
2.テストマネジメント
3.レビュー
4.欠陥マネジメント
5.テストプロセスの改善
6.テストツールおよび自動化
7.スタッフのスキル – チーム構成
<CBT対象の資格概要(2022.10時点)> (参照元:https://www.juse.or.jp/sqip/qualification/jstqb/foundation.html

上記表からFLとAL(TM)の資格概要の違いがみてとれますが、大きな違いはなんといってもその難易度です。
JSTQBの資格では、各資格種別毎にシラバス(学習要項)が用意されており、各章に対して学習の目的(LO)と知識レベルが設定されています。

学習の目的と知識レベル

0.3 試験対象の学習の目的と知識レベル
本シラバスでは各章の先頭で以下の分類にて「学習の目的」を示している。
 K1:記憶
 K2:理解
 K3:適用
 K4:分析

学習の目的(LO)は試験問題作成を行うために使用され、資格種別ごとにLO単位で出題数が決められており、試験問題はこの学習の目的(LO)に対応づけられています。
知識レベルは、K1(記憶)、K2(理解)、K3(適用)、K4(分析)の4区分で示されるものです。学習の目的(LO)はこの4つの知識レベルによって分類され、知識レベルごとに配点基準が以下のとおり、決められています。

Kレベル基本配点配点範囲
K11点1点
K21点1点
K32点1~3点
K43点2~3点
(出典元:https://jstqb.jp/dl/AL_Exam_Seminar_Outline.pdf

FLの知識レベルはK1(記憶)、K2(理解)、K3(適用)の3区分となっており、ソフトウェアテスト全般に対する基礎的な知識の確認に重きが置かれています。
AL(TM)の知識レベルはK1(記憶)、K2(理解)、K3(適用)、K4(分析)の4区分となっており、テストマネジメントに特化した専門的な知識の確認だけでなく事例対応など実際のプロジェクト状況を想定した実践面を問う内容が中心となります。

では、FLとAL(TM)の難易度の差はどの程度なのでしょうか。

CBT対象資格の難易度

FL試験データ受験者数合格者数合格率
第27回FL試験1,848名1,162名62.90%
第28回FL試験1,516名789名52.00%
第30回FL試験923名603名65.30%
第31回FL試験929名641名69.00%
第32回FL試験948名490名51.70%
直近5回 計6,164名3,685名59.78%
ALTM試験データ受験者数合格者数合格率
第6回ALTM試験315名19名6.03%
第7回ALTM試験293名61名20.80%
第8回ALTM試験339名91名26.80%
第9回ALTM試験484名78名16.12%
第10回ALTM試験320名107名33.44%
直近5回 計1,751名356名20.33%
(出典元:https://jstqb.jp/attribute.html

上記グラフは直近5回の試験実施データFLとAL(TM)の合格率を表したものです。
直近5回のグラフを見てもわかるとおり、FLの合格率が「59.78%」であるのに対して、AL(TM)の合格率は「20.33%」と大幅に合格率が低下します。
また、ALの受験には「業務経験3年以上」が必要になります。

学習方法

公式テキスト

●教材
  シラバス、サンプル問題、用語集
●参照先
  シラバス:https://jstqb.jp/syllabus.html
  用語集:https://glossary.istqb.org/jp/search
  サンプル問題(FL):https://www.istqb.org/certifications/certified-tester-foundation-level
  サンプル問題(TM):https://www.istqb.org/certifications/test-manager
-備考
  学習コスト:無料
  メリット:学習要項、試験範囲を知ることができる
  デメリット:知見が足りない場合、他の学習手段を併用する必要がある

書籍購入

●JSTQB公認解説本
  ソフトウェアテスト教科書 JSTQB Foundation 第4版 シラバス2018対応
●Rex Black書籍 ※ISTQB創設者の一人
  ソフトウェアテスト12の必勝プロセス-テストの計画・準備・実行・改善を究めるために
  基本から学ぶテストプロセス管理―コンピュータシステムのテストを成功させるために
  ソフトウェアテストの基礎:ISTQBシラバス準拠
●国際標準テキスト
  【Amazon.co.jp 限定】ISO/IEC/IEEE 29119 ソフトウェアテスト規格の教科書
  ISO/IEC 25010 SQuaRE (JIS X 25010)
  ISO/IEC 20246 (JIS X 20246)
-備考
  学習コスト:高い
  メリット:細部まで学習ができる / 専門家の意見を踏まえながら知見を広げられる
  デメリット:学習時間がかかる

その他

●ブログ
  AGESTでは、engineers-blog活動もしています。
  JSTQBに関する情報を掲載しておりますので、この機会にご一読いただけましたら幸いです。
  JSTQB学習のススメ #1 〜JSTQBとは〜 – AGEST Engineers Blog
  JSTQB学習のススメ #2 〜Foundation〜 – AGEST Engineers Blog
  JSTQB学習のススメ #3 〜Foundation〜 – AGEST Engineers Blog
  帰ってきた JSTQB学習のススメ #4 〜Foundation〜 – AGEST Engineers Blog
●オンラインセミナー
  オンラインセミナーやトレーニングを利用することも可能です。
  youtube動画やe-Learningなどを利用して学習される方も多いのではないでしょうか。
  また、JSTQBでは、FLのみ公認研修コースを設けています。
  JSTQB認定テスト技術者資格-書籍の認定および研修コースの認証-
-備考
  学習コスト:専門性が高いものほどコストがかかる
  メリット:他者の意見や視点を取り入れることができる/公式テキストで理解できなかった箇所をピンポイントに学習できる
  デメリット:情報の正確性は自身で確認しなければならない(一個人のブログなど)

学習方法のまとめ

種別公式テキスト書籍購入その他
種類・シラバス
・サンプル問題
・用語集
・JSTQB公認解説本
・Rex Black書籍
・国際標準テキスト
・ブログ
・オンラインセミナー
学習コスト・無料・高い・専門性が高いものほどコストがかかる
メリット・学習要項、試験範囲を知ることができる・細部まで学習ができる
・専門家の意見を踏まえながら知見を広げられる
・他者の意見や視点を取り入れることができる
・ピンポイント学習できる
デメリット・知見が足りない場合、他の学習手段を併用する必要がある・学習時間がかかる・情報の正確性は自身で確認しなければならない(一個人のブログなど)

最後に

JSTQB資格情報についてお伝えしてきましたが、資格取得の目的やゴールは、多種多様です。資格の価値は、資格を受ける人、環境によっても変動すると言われています。
取得までの道のりや取得後のメリットだけでなく、取得半ばや取得後に何を行うかでも、意味は大きく変わります。
そのため、資格取得を目指す前に「何を目的とするか」を予め考えておきましょう。

取得の目的には、例えば「就職活動に向けた取り組みの一環」「自身の客観的な評価」「コミュニケーションの一環」などが含まれます。
資格取得の過程で築き上げた技術・知識は、エンジニア同士のコミュニケーションや、自己評価に役立てることが可能です。

「ソフトウェアテスト293の鉄則[著]Cem Kaner,James Bach,Bret Pettichord」では、築き上げた経験・知識をもとに以下のようなコミュニケーションができると述べています。

少数の「鉄則(題材)」を選び出し、コーヒーや、ランチ、良いワインなどを用意して、皆と一緒に話をするために集まったら良い。そして、一つずつ読んで熟考し、その教訓をじっくりと楽しもう。乾杯!

JSTQB資格の学習を通して、ソフトウェアテストや品質への関心や興味を持つ方が少しでも増えていただけたら幸いです。

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