お客様とサービスの間には有形、無形の連続する接点が存在します。この接点の一つ一つを「ユーザーインタフェース(UI)」といい、連続する接点がお客様やお客様に関わる方々にもたらす記憶や感情、想いといったものを「ユーザーエクスペリエンス(UX)」あるいは「顧客体験」と呼びます。

ここ近年、IT技術の発展によってUIは高度に進化し、お客様のUXも大変リッチになってきました。

一度、素晴らしい体験をしたお客様の満足度レベルが上がると、これまで不満なく使ってきたシステムやサービスに満足できなくなります。特にWebサービスなどは、お客様が同じデバイスから各種のサービスを既にご体験なさっていることも多く、ご提供したいサービスそのものではなく入口のメンバー登録など多くのサービスと共通のUI部分で競合以外のサービスと比較されてしまいサイトを離れてしまうといった残念なことが起こってしまいます。

また反対に慣れ親しんだサービスのUIが急に、或いは一方的に変更されてしまったことに不満が募りそのサービスから離れてしまうといったことも起きてしまいます。

本記事では、お客様に不満を抱かせない、更には満足いただけるシステムやサービスを提供し続けるために私たちは何をすればよいのかということをご一緒に考えたいと思います。

ユーザビリティ改善で品質改善スキルが上がる 3 つの理由

 皆さんがシステムやサービスを提供する側でいらっしゃる場合、ユーザビリティを具体的に意識するのはいつごろでしょうか?

サイトの直帰率や平均滞在時間の指標が思わしくない時?

UAT※1でユーザビリティに関する問題が山のように指摘された時? 

いえ、このコラムを読んでくださっている読者の方ならば「いつも意識している」とおっしゃる方が大半に違いありません。

では具体的に改善を図るのはいつごろでしょうか?

実は、ユーザビリティの改善は企画や要件定義工程から始めると手戻りも少なく、組織としての品質改善スキルもどんどん向上していく優れものの取り組みなのです。

「えっ?ユーザビリティとか可用性って非機能要件の一つだから、ユーザビリティ向上って品質改善そのものでは?」

鋭い読者の方はそのようにご指摘くださるかもしれません。ですが、わざわざユーザビリティ改善を取り上げるのは次の3つの理由があるからです。

  • 理由① 改善された、良くなったことが分かりやすい
  • 理由② 組織全体で取り組むことが出来る
  • 理由③ 1/0(イチゼロ)ではなく段階的に改善していける

※1 参照 JUAS「非機能要求仕様ガイドライン」

工夫や努力を分かってもらえると一層やる気が出ませんか

一つずつ説明していきましょう。

まず、「理由① 良くなったことが分かりやすい」ですが、この理由だけでユーザビリティ改善に取り組むべき価値がある理由です。品質の中には改善しても効果が分かりづらい、どこがどのように良くなったのか説明しづらいものもあります。

例えば「保守性-構成管理効率※2が0.5から0.6にあがりました」と言われたら上がったのが良いか悪いかさえ門外漢には判断しづらいですが、「エンドユーザー5人中3名が当惑して先に進めなかった箇所が5人全員先に進めるようになりました」と聞くと良くなったことが分かりやすいですよね。

改善をアピールしやすいと言い換えても良いでしょう。人間、褒められるとやる気が出るのは自然なこと。改善をさりげなくアピールして組織内で認められたり、何よりもエンドユーザーに喜ばれたりと改善のモチベーションが向上します。そして更に良くしようという原動力となり好循環が働くようになれば自主的に改善に励むようになります。

※2 保守性-構成管理効率:保守作業における各種資源(プログラムやドキュメント、使用データ(DBを含む))のバージョン管理における機械管理の実現割合:JUAS「非機能要求仕様ガイドライン」より

組織のみんながお客様の方を見ることで連帯感が強まります

次に「理由② 組織全体で取り組むことが出来る」ですがこれはユーザビリティの定義をお伝えすると分かりやすいかもしれません。

ユーザビリティ※3とはJIS Z 8520によりますと「特定のユーザが特定の利用状況において,システム,製品又はサービスを利用する際に,効果,効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い。」と定義されています。

つまり改善を図る前に「どういったユーザー」が「どういった状況で」「何を目標・目的に」使った場合使いやすいのかを明確に定義する必要があります。そして一般的に組織の中でターゲットユーザーやメインユーザーの情報を多く持っているのは企画や営業、ユーザー対応部門といった方々です。

となれば、ユーザビリティの効果的な改善には、通常開発と品証部門のしかも機能によっては限られたチームのみが人知れず頑張っているところ、多くの部門を巻き込んで取り組むことが出来ます。

あなたが提供しようとしているシステムやサービスが基幹システムの場合、経理や総務といった部門の方がユーザーの代わりに問題点を見つけてくださるかもしれません。

特許関係でしかやり取りの無かった法務部門の方が、ターゲットユーザーのペルソナにピッタリかもしれません。

すると、関わった方たちも改善項目の進捗を気にかけてくださるようになります。自分からも色々と直接伺うことが増えたり各部署へ情報発信をしたりすることが自然と行われていきます。

多様な方が関わってくださればくださるほど気づきの機会も増えますし、カバーできる範囲も広くなっていくと思いませんか?

その他の品質項目も改善には色々な部門からの協力を仰ぐ必要がありますが、そういった協力を仰ぐ前に、大きな負担を相手に掛けず気軽なお願いでネットワークを築いていけるチャンスを作ってくれる点はユーザビリティ改善活動の得難い利点です。

※3 参照 JIS Z 8521:2020 人間工学−人とシステムとのインタラクション− ユーザビリティの定義及び概念

スモールサクセスが品質改善活動への肯定感をどんどん高めます

最後の理由は「段階的に改善していける」点です。

個人的な挑戦において「初めから大きな成功を目標に掲げず、小さな目標を掲げて成功体験を積み重ねていった方が、目標達成率が高い」と聞いたことはありませんか?これは組織での改善でも言える事です。

そしてユーザビリティは「効果,効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い」なので「達成した、できなかった」の1/0(イチゼロ)ではなく、改善のステップを段階的に設定することが可能です。

短い期間で小さな改善を示すことによってあなたやあなたのチーム、システムやサービスが確実に「変わっていく」「良くなっていく」という印象と信頼を周りに感じていただくことが出来ます。

すると信じられないかもしれませんが、その他の改善活動を行う際も「あの人は、あのチームは、有言実行の実績があれもある、これもある」と思って快く協力してくれることが増えてくるのです。

お客様に不満を抱かせない、更には満足いただけるシステムやサービスを提供し続けるにはお客様への深い理解と不断の品質向上が必要です。これらを充実感と共に実施できるのが「ユーザビリティ改善」という取り組みです。

是非皆さんも「ユーザビリティ改善」から品質改善を始めてみませんか?

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