
様々な専門性を掛け合わせて「自分だけのQAエンジニアの土台を作る」という趣旨で続けてきた本連載も、とうとう最終回を迎えました。
今回はまとめとして、「それぞれのQAエンジニア像」を作ることについて総括したいと思います。
私は最近、ポジティブな意味でもネガティブな意味でも「あなたはQAエンジニアっぽくないね」と言われることが増えました。一方、自分としては「QAエンジニアのど真ん中」を歩んでいるという気持ちでいます。
正直、この言葉には少し複雑な気持ちを抱くこともあります。
この問いに対する私なりの答えについては、本稿の終わりでお話しするとして、まずは私が土台にしていきたい技術について、今後の展望についてお伝えしたいと思います。
記事一覧:技術を土台にして自分なりのQAエンジニアを組み立てる -あるQAの場合
これから土台にしていきたい技術
私はこれからもソフトウェアテストについて深く学んでいきたいですし、もちろんソフトウェアエンジニアリングについても学び続けるつもりです。
ただ、それ以外にも習得したいと思っている技術や領域があります。
そちらをいくつか紹介いたします。
関係や組織に働きかける技術
今、私は「システムコーチング®」を学んでいます。
これは、個人ではなく、チームや組織全体を一つの「システム」として捉え、その関係性にアプローチするコーチング手法です。
実は、私が個人向けのコーチングを学び始めたのも、最終的にこのシステムコーチング®に繋げたいという思いがあったからです。
以前より言及していますが、私は「プロセス品質」を非常に重要だと考えています。
そしてそこには「関係性の質」や「対立をどう扱うか」などが重要になってくると考えています。
これらを生産的なエネルギーに変え、うまく扱うためのための再現可能な技術として実践するにあたり、システムコーチング®をはじめとしたさまざまな介入の手法を学んでいる最中です。
システム思考
関係性や情緒といったウェットなものだけでなく、もう少しハードなものの見方も鍛えたいと思っています。
そこで見つけた技術のひとつが「システム思考」です。
ソフトウェア開発の現場を見ていると、今まで特定の因果関係で成り立っていると思っていたものが、実は「外部」あるいは「見えていなかったもの」にあるより大きな要因から影響を受けていることに気づかされます。そうした現実において、対象を「システム」「境界」「外部」として捉え、より俯瞰して物事を見るアプローチもできるようになりたいと思っています。
倫理観・哲学的思考
本連載のテーマでも何度か触れたように、私自身は物事の本質を考える哲学的な思考や、倫理観を持つことがとても重要だと考えています。
まさに今で言えば、生成AIの登場により哲学や倫理が注目されているとよく聞きますよね。
今後、私たちには、生成AIを超えるような、さらに人間性を揺さぶるテクノロジーや問いが投げかけられるでしょう。
だからこそ、私は今後も倫理的な視点や哲学的な思考力をしっかりと育て、自分自身の確たる土台(自己基盤)として育てていきたいと思っています。
技術の組み合わせ
これら新しく学ぶ領域が、今後どのように組み合わさっていくのか、これには見立てがあります。
ただ、私自身は、私の想像を超えるような何かが生まれるとも思っています。そしてそれにワクワクしています。
なぜなら、本連載で扱った技術の組み合わせのほとんどは、私の当初の見立てを超えたものだったからです。
かつて何かを学び始めた私は、様々な先輩や周囲の人から「そんなことを勉強しても無駄だよ」と言われることがありました。もしかしたら、私自身も過去、誰かに対してそう言ってしまったことがあったかもしれません。
しかし今では、「その経験や技術、学んだことが無駄になるかどうか」は、「学ぶ対象」や「自分が何をしているか」によって決まるものではないと考えています。
点と点を繋ぐ(Connecting the dots)
「Connecting the dots」という考え方があります。これはスティーブ・ジョブズの有名なスピーチに登場する言葉で、バラバラに学んだ「点」が、後になって思いがけず「線」として繋がるという考え方です。
私の知っているQAエンジニアには、さまざまな背景を持っている人がいます。傍からみて、一貫性がなくパッチワークのように見えることがあるでしょう。
私はそこにこそ「私らしさ」「あなたらしさ」「あの人らしさ」が宿るのだと考えています。
私はそこに、自分の人生に起こるすべてのことを必然として肯定する、ニーチェの「運命愛」のようなものを感じずにはいられません。
ブリコラージュ
「ブリコラージュ」という考え方があります。一見無関係に見える複数の分野の知識や概念を寄せ集め、自分の中で新しい価値や意味を作り出すことです。
第一話では「T型人材」という言葉を紹介しました。今でもその大切さは感じています。
一方で、ブリコラージュのように、むしろ様々な専門性を繋げ、自分なりに意味づけして捉えることが、執筆当初に私自身が本当に「大切だ」と伝えたかったことなのだと、今になって気がつきました。
あなたなりのQAエンジニア像を組み立てよう
ジュニアの方を支援する中で、「これを学ぶべきでしょうか?」と質問をもらうことがあります。そんな時、私は照れや恐れの気持ちから少しはぐらかして答えることもあるのですが、この記事でははっきりと伝えたいと思います。
「あなたが学びたいと思ったことを、全力で学べば良い。そして、それらをあなたの中で繋げていけば良い」と。
この連載は、「QAエンジニアの土台」というテーマで進めてきました。
連載を始めた当初、私は「QAエンジニア」という言葉に強い誇りを持っていましたし、その気持ちは今も変わりません。
ですが、冒頭の「あなたはQAエンジニアではない」という言葉に対する答えとして、「QAエンジニアという肩書きを無理に使う必要はない」とも考えるようになりました。
私が「営業」から「テストエンジニア」「QAエンジニア」、そして「コーチ」になったように。
実は今の私は自分の専門性を上記のどれでもない言葉で表現しています。
「System Fixer」です。
これを聞いて「さすがだ」という人もいれば、「いい歳してイタい奴だ」という人もいます。正直、他者からの評価や冷笑を気にしている自分も否定できません。
一方で、パッチワークのように紡がれた土台を通じて、「自分らしさ」がどこにあるのかを探求し、見つけることの尊さも深く感じるようになりました。
これは、コーチングを通して他者と深く関わることで気づくことができた、「人生の美しさ」だと考えています。
私は、自分自身の中に強くこびりつく「既存のどのような属性・ラベルを持っているか」というこだわりを一度横に置いて、新たなチャレンジを進めている最中にいます。
他者からの評価、そして冷笑。
これは私が、私自身に向けているものでもありました。
これを自覚したときに感じた重要な学びがあります。
「自分が抱いている問題意識や興味・チャレンジしたい気持ちから目を背けないことの価値」
そして、「自分らしさを発揮して何かを学び、そして繋げていくことの価値」です。
この連載を最後まで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
もし、この先「自分なりのQAエンジニア像」が生まれたなら、ぜひどこかで私に教えてください。
あなたのQAエンジニア像を見られる日を、私は心から楽しみにしています。
※「システムコーチング®」は、CRR GlobalおよびCRR Global Japanが所有する登録商標です

