
こんにちは。QAコンサルタントのテストのひろさんです。
本記事では、テスト進捗自体は順調なものの、現場の役割にミスマッチが生じていたプロジェクトの改善事例を紹介します。当時テストPMだった私が、JSTQB AL-TM v3.0Jシラバスなどの知見を活用し、どのように体制再構築と再発防止に取り組んだのかをお伝えします。
現場の運用に課題を感じている方の気づきや、参考になれば幸いです。
対象プロジェクトの概要
当時のテストプロジェクトの基本情報は以下の通りです。
- テストレベル: システムテスト
- 期間: 2か月
- テスト環境: オンサイト
- プロジェクト計画: システムテストの後に、機能追加に対するシステムテストを計画
- チーム構成: PM(私)1名、テストリーダー(TL)1名、ビジネスパートナー(BP)リーダー1名、BPテスター3名
- 役割分担:
- BPリーダー: 日々の進捗報告(TL宛)、QA・タスクリストの更新、ハンズオンでのテスト実施。進捗フォーマットやステータス管理手法はトレーニング済み。
- BPテスター: テスト実行全般。
- TL: 進捗管理、探索的テスト実施、機能追加のテスト設計、QA・タスクリストのチェックや回答。
- PM: 複数テストプロジェクトの統括。
立ち上げ時、TLの業務負荷が潜在的なリスクとして見受けられました。しかし、以下の理由からそのような計画で進行することを決定しました。
- システムテストの一次報告はBPリーダーが実施すること
- 機能追加に伴うテスト設計の規模が限定的であること
- 探索的テストの工数や時期を調整可能であること
具体的には、最初の2週間は進捗管理とQA対応に注力し、3週間目から機能追加のテスト設計および探索的テストを開始するスケジュールを設定しました。
進捗の裏側に生じていた問題
システムテスト開始後、BPリーダーからは予定を前倒しで進めていると報告を受けていました。しかし、詳細を確認していくと以下の状況でした。
テスト進捗は専用のツールで算出するのですが、私が改めて算出し直した進捗数と、実際に報告されている進捗数が異なっていました。また、課題管理表の内容とTLから報告されている内容が一致していなかったり、課題管理表そのものに記載が漏れている等の状況に気づきました。
起きていたことをまとめると以下の状況です。
- 実際の進捗数と報告された進捗数の不一致
- タスク管理表と実際の作業状況のズレ、および記載漏れ
TLはBPリーダーへ是正を何度か依頼しましたが改善されず、事実確認などの対応に追われることになります。結果としてTLの工数が圧迫され、予定していた機能追加のテスト設計や探索的テストに入れない状況が発生しました。
この時、現場では以下のような心理的・運用的課題が生じていたのです。
- TLの心理: テスト設計も探索テストも進まず、進捗もまとまらないという状況から、自身の評価への懸念が生まれ、PMに相談できず一人で抱え込んでいた。
- BPリーダーの心理: 上手く進捗報告ができていないという認識はあるものの、具体的な改善方法が見出せず困惑していた。
双方ともに悩んでいる状態でした。ここで少し私の考えを挟むと、悩むとは問題を認識して試行錯誤しているが出口が見えない状態であり、考えるとはゴールが見えていて、そこに向かっていく状態だと捉えています。当時の現場は、まさに前者の出口が見えない状態に陥っていました。
さらに、この是正がうまくいかない日々が続いたことで、テストリーダーとBPチームの間にも徐々に不穏な空気が流れ始め、コミュニケーションが膠着する二次災害も起き始めていました。
1. 捉え方の転換:個人の問題ではなく構造の問題
この状況に直面した際、私は起きている問題を個人の資質や特性に起因させないことが重要であると考えました。
一見すると報告が不正確なリーダー、抱え込んでしまうTLのスキル問題に見えますが、本質は違います。これは、現場の状況変化に対してプロジェクトの初期枠組みが適合しなくなったことによる構造的な問題であると捉えました。
ここでベースにしたのは、人を責めず、仕組みを改善するという方針です。書籍「スクラム」などにある「プレイヤーを憎むな、ゲームを憎め」という言葉の通り、個人を責めても本質的な解決にはならないと私は考えています。
JSTQB AL-TM v3.0J には、以下のような記述があります。
「テストチームは、プロジェクト開始時に、必要なスキルをすべて持っているとは限らない。完璧な人材がそろうとは限らないが、強力なチームであれば、個人の長所と短所のバランスを取ることができる。」
最初から完璧な人材がそろうチームは難しいことがあるため、個人のせいにせず、仕組みや役割によってバランスを取るという考え方から、システムテストの進行途中で以下のように役割と環境の再配置を行いました。
役割の再定義
- BPリーダー: 進捗報告・管理業務から一旦離し、ハンズオンテストの割り当てを80%に増加。タスク管理の不備がスキルの問題なのか業務過多によるものなのかを切り分けるとともに、テスト実行の推進に集中するようにしました。残りの20%はPMやメンバーとのコミュニケーションに充てる割合に変更しました。
- テストリーダー(TL): テスト管理やBPチームとのコミュニケーションをタスクから切り離し、本来のミッションである探索的テストの実施と機能追加のテスト設計」に専念できる工数を確保しました。
- PM(私): このシステムテストの進捗管理を巻き取りました。BPリーダーとのコミュニケーションは、時間を固定して1日2回(各10分)の状況確認を実施する運用へ変更しました。
物理環境の変更(座席位置の調整)
また、TLとBPチームの間で関係性の悪化(コミュニケーションの膠着)が見られたため、オフィスの座席配置を変更して物理的な距離を置きました。これにより、TLによるBPチームへの細かな確認や介入を構造的に抑制し、TLもBPチームも自分たちのタスクに集中できる環境を整備しました。
ガバナンスの再構築
正確な情報を把握するため、これまでチャットベースで済ませていた報告を「対面での同期」に切り替えました。これは指示命令を強化するためではなく、事実(ファクト)と報告の同期を目的としたものです。情報の透明性を確保することで、プロジェクトの正確な現状がステークホルダーやチーム全体に共有される仕組みへと変更しました。
2. 心理的安全性と規律の両立:1on1における対話
役割変更と並行して、TLとの1on1を実施しました。目的は、心理的安全性を確保した上で役割変更の背景を納得してもらい、機能追加テスト設計、探索的テストに集中してもらうことです。1on1では、特に以下の3つの軸を意識して対話を行いました。
- 評価の切り分け(安心感の醸成): 今回の介入はあくまで、体制上の判断による役割の変更であり、TL個人の評価を下げるものではないことを明言しました。テスト期間中であり、最終的な品質やゴールに対する結果はまだ出ていないためです。
- ティーチングの選択: 通常であれば自律的な成長を促すコーチングを採用しますが、今回は納期が迫る緊急時であったため、私のやり方を直接伝えるティーチングへと戦略的にシフトしました。山本五十六の「やってみせ、言って聞かせ、させてみせ、ほめてやらねば、人は育たず」の方針のもと、並走しながらサポートしました。
- コミュニケーションの原則(アサーション): 強い言葉で行動を縛るのではなく、仕組みで解決を図る姿勢(アサーションの原則)を大切にしたい旨をTLに伝え、目線を合わせました。
3. 再発防止:根本原因の特定と仕組みのアップデート
プロジェクト完了後、次フェーズである機能追加テストに向けて、今回の問題の根本原因の特定と仕組みのアップデートを行いました。
根本原因:正しいデータが報告に繋がらない集計・出力構造
そもそも、なぜ進捗報告と実態の乖離が起きていたのか。仕組みとしてExcel上で予定と実績が10%以上乖離するとセルが赤字になるというアラートのルール自体は存在しており、Excel内の関数やシステム側の元データも正常でした。
しかし、最終的に算出されたデータを、報告用にアウトプットする(テキスト化する)段階で人為的なミスが発生していたことが根本原因でした。
当時の集計・報告フローは以下の通りです。
- テスト管理システムから正しい実績データをCSVでダウンロードする
- 集計用のExcelへコピー&ペーストする(Excel上の関数・アラート自体は正常に機能)
- Excelで算出された数値を、手作業で報告用のテキストに書き起こす(ここで転記ミスが発生)
最終的な報告テキストを作成するまでに手作業のプロセスが多く、結果としてExcel上ではアラート(赤字)が出ていても、報告段階でそれが消えてしまうという、人為的ミスを誘発しやすい構造になっていました。BPリーダー個人を責めるのではなく、ミスが起きる構造を変える必要がありました。
対策:集計・出力の自動化
手作業によるリスクを排除するため、CSVダウンロード後のデータ集約から、Excelでの集計、そして最終的な「報告用テキストの出力」までをワンクリックで行うVBAマクロを導入しました。
これにより、データの信頼性を担保した上で、PMやステークホルダーが日々のモニタリングで客観的な事実(定量データ)をそのまま受け取り、早期に異常(アラート)を検知できる仕組みへとアップデートしました。
4. 再発防止の効果:定量的・定性的アプローチ
アップデートした仕組みの効果を現場の感覚で終わらせないために、JSTQB AL-TM v3.0Jのシラバスに記されている以下の格言を指針としました。
「マネジメントには『測定できるものは達成できる』という格言がある。同様に、測定されないものは、無視されやすいので、達成されることはないだろう。したがって、テストを含め、どのような取り組みに対しても、適切なメトリクスを確立することが重要である。」
この考えに基づき、定量的なメトリクス評価と定性的なアプローチ(心理的安全性の確保)の両面から効果を測定しました。
① 定量的なアプローチ
- プロジェクトメトリクス: テスト実行数、実行率、ステータス(OK/NG/Block)の推移。自動集計化により、10%の乖離アラートが正しく機能するようになり、進捗の透明性が確保された。
- プロダクトメトリクス: BPリーダーのテスト比率を上げたことによる進捗の加速、TLの探索的テストによる、欠陥検出数と修正数の推移。想定していた計画値と実績を比較することで、品質リスクの低減に繋がった。
- プロセスメトリクス: 集計作業工数そのものが削減されたことによる相乗効果で、チーム全体の生産性が向上した。
② 定性的なアプローチ(1on1による内面サポート)
一方で、数字には表すことが出来ないメンバーの悩みや心理的状況は、定性的にしか捉えることができません。ここでは1on1などの直接的な対話によるサポートが不可欠です。
ちなみに、JSTQB AL-TM v3.0Jのシラバスには「方法論的、社会的、個人の能力はテストに特化したものではないため、専門的能力の開発に重点を置く」といった旨も述べられています。つまり、1on1やアサーティブなコミュニケーションといったスキルもまた、マネジメント知識として意識的な習得やトレーニングが必要な領域です。トレーニングや考え方などについては「ヤフーの1on1」「成長マインドセット」などの書籍を参考にしています。
1on1を継続した結果、TLが問題を一人で抱え込まずに早めのアラートを出せる関係性が構築され、BPリーダーも何に困っているかを素直に共有してくれる環境へと変化しました。
おわりに
今回の取り組みを通じて、データの信頼性とアラートの定量化、心理的安全性の確保によって、仕事の側面と人の側面をマネジメントすることの重要さを実感しました。
人が間違えるのは、仕組みに問題があると捉えて、変化の激しいテストプロジェクトを計画したゴールへ導くことが、マネジメントの本質ではないでしょうか。
この記事が、現場の体制構築や運用に悩むエンジニア・マネージャーの皆さまにとって、少しでも新しい視点や気づきのきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
(参考文献)
- JSTQB JSTQB-Syllabus.Advanced_TM_VersionV3.0.J02
- スクラム 仕事が4倍速くなる世界標準のチーム戦術(ジェフサザーランド 著、石垣 賀子 訳)
- ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法(本間 浩輔 著)
- 成長マインドセット 心のブレーキの外し方(吉田 行宏 著)

