ITエンジニアの仕事を楽しくする知的生活

この連載では、ITエンジニアにとって親和性が高く「スキルアップしたい」と思う方にとっては役に立つであろう知的生活について、いろいろなアクティビティやツール、仕事での活用方法などについてご紹介します。知的生産・知的生活の考え方や、「そもそも知的生活とはどうあるべきか」等の話ではなく、できるだけエンジニアの普段の生活や仕事に役立てられるテクニックよりの話をするつもりです。

前回の記事では、技術書以外の本も積極的に読み、そこから得られた情報を知的生活の母艦に蓄積して活用すること等について解説しました。

今回は、仕事の中で得られる情報や作業の記録についてご説明します。

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仕事においても知的生活はできる

本連載のこれまでの記事は、どちらかといえばプライベートな時間における、読書やアイデアの蓄積などが中心でした。
しかし、知的生活はプライベートな時間だけのものではありません。平日日中の仕事をしている時間にも、知的生活は可能です。
むしろ第一回でご説明した知的生産、

アウトプットである「なにかあたらしい情報や価値」を出すために、いろいろなインプット=情報をあつめて、自分の頭やいろいろな道具を使って処理=思考をする

これを生活の中に組み込むのが知的生活であるという考えに基づけば、生活の多くの割合を占める仕事中も知的生活の範囲に含まれるのは自然なことです。

仕事中に集める情報

とくにITエンジニアの皆さんは、プライベートな時間よりも仕事中のほうがたくさんの情報をインプットし、そして頭の中で処理をしているのではないでしょうか。

大量に流れてくる情報は何もしなければ失われてしまいますが、意識的に収集・整理することで自分の資産として活用できます。

私も昔自分用の「仕事の教科書」をつくりながらはたらこう – テストウフというブログ記事を書きましたが、ナレッジを残してあとから使えるようにする、というのはさまざまなことに共通する基本の考え方です。

こうした、情報の残し方に関してもいくつかのテクニックがあります。

たとえば、Today I Learned、略してTILと呼ばれる方法です。
Today I Learnedとは、その名の通り「今日学んだこと」を記録していくものです。

媒体は自由ですが、たとえばGitHubに「TIL」というリポジトリを作り、その中に「Python」や「Docker」「Git」など技術要素ごとのフォルダーを作ります。
そして、フォルダーの中に学んだことをMarkdown形式でメモしていく、という手法です。

単純に調べ物をして終わりではなく自分用にアウトプットすることで、記憶を定着されたり、また次以降「TILに書いていた」ということさえ覚えておけば検索をかけて素早く情報を引き出すこともできます。

TILは基本的に「自分用」で、かつ複雑な管理ルールもないため、気軽に始めるにはよいでしょう。

ただ、今回はこのTILのようなナレッジの蓄積とは少し異なる、日々を記録してふりかえりを行う「デイリーページによる作業ログ」についてもご紹介したいと思います。

デイリーページによる作業ログ

TILなどにナレッジを残す場合には「残すべきものがあれば残す」という考え方になるでしょう。
一方ここでオススメしたいのは、「何を残すか」を考えるのではなく、とにかく記録を書きつけるという方法です。

大まかな流れは以下です。

  1. 朝仕事を始める際に、エディター等でその日の日付をタイトルにしたページ=デイリーページを作成する
  2. デイリーページに、今日やることをリストアップする
  3. 仕事をしながら、デイリーページの中に行ったことや考えたこと、わからないことなどを時系列で書いていく

基本的にはこれだけ、です。もし職場のタスク管理ツールなどで「今日やること」を管理している場合は、デイリーページに転記してもいいですし、デイリーページには書かずにツール側で管理してもいいでしょう。とくに大事なのは「やったことや考えたことを時系列で記録する」という部分です。

なお、このやり方は知的生産に関連する「ユビキタス・キャプチャー」というもののエッセンスを取り入れたものです。

参考:「全てを手帳に記録する」、ユビキタス・キャプチャーの実践 | Lifehacking.jp

デイリーページのサンプル

このあとデイリーページのメリットや作業ログの書き方を説明しますが、先にどのようなものかサンプルをお見せします。

Image from Gyazo

普段使っているエディター(ここではvscode)で、日付を名前にもつファイルを作成します。私はMarkdownが好きなのですが、.txtや他の形式でも、慣れたものがあればそれでかまいません。
また、過去に所属していたチームの朝会で直近あった良いことを紹介しあうGood&Newというコーナーがあったので、そのメモや今日やるタスクを列挙しています。このあたりのフォーマットや項目も、デイリーページを運用しながら少しずつカスタマイズしていくのが良いでしょう。

メインとなるのは、下部の「作業ログ」の項目です。

ここに、時刻とともにタスクのおおまかな見出し(例では「自動テストエラー対応」)を書き、そのしたにタスクを行う過程で考えたことや調べたこと、メモなどを並べていきます。

とくにエラー対応やトラブルシュートなどを行っている際には、独り言をつぶやくように書いていくと、頭の中を整理しながら思考することができるため便利です。

他にも、仕事中になにかを調べた場合はそこでヒントになったWebページのURLを記載したり、誰かからSlackやTeamsで質問された場合の内容や回答なども記録しておきます。

このように、仕事中の脳内をできるだけ余さず書きつけておくようなイメージで作業ログを書いていけるとベストです。

作業ログを書くメリット

上記の説明の中で、頭の中を整理できる、というメリットを挙げました。他にもいくつか考えられます。

たとえば、将来似たようなタスクや同じような問題に取り組む際のヒントになること、です。皆さんは仕事中に「あー、前似たような問題あって対処したなぁ・・・どうやったんだっけ・・・」と困ったことはないですか?私も数え切れないほどあります。

だいたいこのような場合は当時の記録が残っていなかったりして、記憶を頼りにGoogleや社内のファイルを検索して時間を溶かしていくことになります。
しかし、デイリーページに記録したということを覚えていれば、デイリーページの入ったフォルダーを検索すれば良いので目当ての情報にたどり着く手間が少なく済みます。

また、作業ログの形式で書くことによって、ナレッジの整理と実タスクの進行とを分離することができます。
仕事中の知見を社内のWikiやナレッジベースにまとめている方も多いでしょう。しかし、目の前のタスクを進めながらナレッジベースに情報を整理する、というのはなかなか大変です。私も経験があるのですが、なにかのタスクをしながら整理したナレッジというのは情報の順番が前後したり整理されていなかったりして、読みづらい状態になりがちです。

一方「あとでナレッジをまとめよう」と思って仕事に集中していると「あとで」が永遠に来なかったり、運良く時間が作れたとしても書くべき内容を忘れてしまっていたりと、こちらも効果的ではありません。

そこで作業ログの出番です。タスクをやっている最中は、構成や見栄えなどは考慮せずとにかく「記録・メモ」をする。そして、あとから記録・メモをもとにナレッジベースに整理する。

こうした二段構えで行うことで、業務効率と情報の内容を両立させることが可能です。

他にも細かなメリットとしては、日報や週報、ふりかえりの材料としても使える点などがあります。

作業ログを書く際のコツ

これらのメリットを享受するためには、まずはとにかく作業ログを書くことが大事です。書き方やフォーマットなどは人によって好みがありますし、基本的にはどのような内容をどのように書くかは自由です。

しかし、自由な中でも一つだけ心がけるべき点があります。それは、メモ・記録の手間をできるだけ少なくすることです。

ここで言う手間とは、操作手順などのことだけではありません。頭で考えたり意思決定することも、手間に含まれます。たとえば、メモのルールや書く場所が複雑になって「ええと、この内容はどこに書こうかな・・・」とつど考える必要があるようではメモやログは続きません。

デイリーページに時系列で作業ログをとる一番のメリットは、この思考の手間を減らせることです。

今日日付のファイルの末尾に作業中のメモを追加していく、というシンプルなルールなので迷わずに済みます。

また、作業ログをとることを始めると必ずぶつかる壁が「何も書かない/書けない日がある」こと、です。会議が多い日であったり、作業に集中してログをとるのを忘れてしまった、などは起こり得ます。
この問題に対しては、気にしないのが一番です。作業ログは毎日書くのが理想ですが、逆に毎日書かなければ意味がないもの、でもありません。

本記事冒頭の繰り返しになりますが、大切なのは

アウトプットである「なにかあたらしい情報や価値」を出すために、いろいろなインプット=情報をあつめて、自分の頭やいろいろな道具を使って処理=思考をする

という知的生産を、日常の中に組み込んでいくことです。

最初のうちは頻度が少なくても仕方がないですし、もし難しければ「エラー対応だけは作業ログをとる」や「朝9時から10時の集中タイムはログをとる」など、対象や時間を絞って始めるのも良いかもしれません。

少しずつでもよいので、インプット=情報を集める習慣付けをしていくと、後々のアプトプットにつながっていきます。

まとめ

今回は主に仕事中の作業の記録についてご紹介しました。

学んだことや知見をトピックごとにまとめるのも良いですが、個人的にはデイリーページに作業中の考えや行ったことなどをメモすること=作業ログをつけることがオススメです。情報を整理しながら蓄積するのは大変なので、作業ログとして蓄積することと、あとから作業ログを整理して情報として残すこととに分けて行うのが良いでしょう。

次回は蓄積した記録をもとにどのようにアウトプットし、仕事に活かしていくのかについて解説します。

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SQRIPTER

伊藤 由貴(いとう よしき)

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テスト自動化エヴァンジェリストとして、エンジニア育成・テスト自動化コンサルテーション・部署の立ち上げ・マネジメントなどを経験。
現在は複数Webサービスを運営する会社の横断部門にて、QAエンジニアとして活動中。

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