1人目QAとしての立ち回り

前回の記事では、1人目QAとは何かや1人目QAに求められているもの、そして1人目QAとしてJoinした後の立ち回りなどについて説明しました。

今回は1人目QAが実際に組織の中で「品質保証」を浸透させる際のアプローチについて説明します。

<1人目QAとしての立ち回り 連載一覧>※クリックで開きます

【第1回】1人目QAの位置づけと、開発組織へのアプローチの仕方
【第2回】組織に品質保証を浸透させるアプローチ
【第3回】品質保証やQAエンジニアを知ってもらうための取り組み
【第4回】1人目QAのスタートは開発組織の現状把握から。やるべきこと・把握すべきこと。
【第5回】1人目QAアンチパターン

1人目QAの役割である「品質文化の浸透」

一般に「QAエンジニア」と言った場合、求められるスキルや現場での役割などは組織によってさまざまです。この点を整理し、QA関連の各種スペシャリティをわかりやすくするために、ソフトウェア技術者協会の分科会の一つ、ソフトウェア品質保証分科会(SigSQA)が考案したのがQMファンネルです。

参考:品質を加速させるために、テスターを増やす前から考えるべきQMファンネルの話(3D版) | PPT

QMファンネルでは、3つのスペシャリティ

– TE:テストエンジニア

– PE:パイプラインエンジニア

– QA:QAエンジニア

が表現されているほか、それぞれのスペシャリティについて5つのロール

– スプリット

– インプロセス

– コーチ

– コンサルタント

– プロモーター

が定義されています。

今回、このQMファンネルの中で注目していただきたいのは、QAのスペシャリティにおける各ロールの説明にある「品質文化の浸透」です。

私は、1人目QAに求められる役割の多くは、この「品質文化の浸透」であると考えています。

なお、”品質文化とは何か”についても議論の対象になる点です。本記事においては「品質保証の重要性や手法等について、開発組織で考える習慣があり、品質保証のやり方を仕組み化できている状態」を指して「品質文化が浸透している」と考えることにします。その一部分である、品質保証の重要性や手法およびその仕組みをどうやって開発組織に浸透させるのかが本記事のテーマです。

品質文化について考えたい、という方は西康晴氏のプレゼン資料What is quality culture? Is it something tasty? | PPTおよび講演動画JaSST nano vol.12 #5「品質文化って何なの?」 – YouTubeも参考にしてみてください。

本題に戻ります。1人目QAを募集している各社の求人や、1人目QAの方の業務内容を見ると

– QA組織づくり(採用、QA組織のMVV策定など)

– 開発者へのナレッジ共有

– 品質目標・標準やテストプロセスの整備

などが業務内容に含まれていることが多くあります。つまり、1人目QAは特定プロダクトのテストやQA業務だけを求められているのではありません。QA組織を作り、開発組織での品質保証のやり方や方向性を定める役割を期待されていることになります。

この役割が、まさに「品質保証を開発組織に浸透させること」を表している、と考えます。

品質保証を浸透させるための2つのアプローチ

では、1人目QAが品質保証を開発組織に浸透させるために、どのような方法があるでしょうか。

ここでは2つのアプローチについて考えてみましょう。

1. トップダウン型のアプローチ

1つ目はトップダウン型のアプローチです。

こちらは、品質保証のやり方やプロセス、品質標準などをQAエンジニアや開発組織のトップがともに策定し、それを現場で実践してもらうやり方です。

このやり方のメリットとして、

– 決まった方法を取り入れてもらうので、実践までが早い

– 複数の開発チームに対して共通のやり方や仕組みを導入できる

– QAエンジニアが少人数でもある程度進められる

などがあります。

一方デメリットとしては、

– 現場の納得を得づらくなる可能性がある

– 現場の実態に合わないことがある

などが考えられます。

2. ボトムアップ型のアプローチ

2つ目はボトムアップ型のアプローチです。

こちらは、個々の開発チームや部門において、その現場での課題を解決しながら改善を重ねていく方法です。複数の現場で同じような課題が出てきた場合に、共有の仕組み化やルール化を進めていきます。

このやり方のメリットとしては、

– 取り組みの意義や期待するメリットを現場が理解しやすく、納得を得やすい

– 個々の開発チームに合った施策を行える

などがあります。

一方デメリットとしては、

– 開発チームや部門ごとに取り組みの進度に差がでる

– 局所最適な改善に陥りやすい

– 組織全体で見たときに、品質保証のやり方の浸透が遅くなりやすい

などが考えられます。

どちらのアプローチで行くのかを検討して取り組みましょう

上記2つのアプローチのうち、開発組織に品質保証を浸透させるにはどちらが適しているのでしょうか。

私個人の経験からは、上記2つのアプローチは「並行して両方やる」が正解だと考えています。

私も現在1人目QAとして、開発組織への品質保証の浸透をまさに行っているところです。その過程では、トップダウン型とボトムアップ型、どちらもやりながら試行錯誤をしています。いろいろと試した結果、ボトムアップとトップダウンの両輪を回すことで、双方のデメリットを補いつつ着実に進んでいる実感があります。

ただ、あえて順番を設定するのであれば、1人目QAとしてはボトムアップ型→トップダウン型→両方が良いでしょう。

理由は、1人目として開発組織にJoinしたQAエンジニアは、その時点では周囲からの信頼が貯まっていないからです。

よほどの業界の有名人でもなければ、外からやってきた1人目QAは謎の多い存在です。

そのような状態でいきなり「これからの品質保証はこのやり方でいきます」とか「標準を決めたのでこれを守ってください!」と言ったとしても、周りには響きません。

それよりは、まずは1つでも良いので開発チームの困りごとを解決し、信頼を得つつ他のチームへも横展開を行いましょう。そして、開発組織全体から少しずつ信頼してもらえたところで、いよいよトップダウンのアプローチに移る、という順番がスムーズです。

1人目QAとして活動する方や、1人目QAをこれから採用して品質向上に取り組んでいこうという組織の方は、これら2つのアプローチをぜひ意識してみてください。

連載一覧

【第1回】1人目QAの位置づけと、開発組織へのアプローチの仕方
【第2回】組織に品質保証を浸透させるアプローチ
【第3回】品質保証やQAエンジニアを知ってもらうための取り組み
【第4回】1人目QAのスタートは開発組織の現状把握から。やるべきこと・把握すべきこと。
【第5回】1人目QAアンチパターン

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SQRIPTER

伊藤 由貴(いとう よしき)

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テスト自動化エヴァンジェリストとして、エンジニア育成・テスト自動化コンサルテーション・部署の立ち上げ・マネジメントなどを経験。
現在は複数Webサービスを運営する会社の横断部門にて、QAエンジニアとして活動中。

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