
前回までは、アウトプットの意義と、日々の仕事を記事にまとめる実践的な方法についてお話ししてきました。ブログで思考を整理し、仕事と発信を1サイクルとして回すところまでお伝えしました。
今回は少し視点を変えます。ブログを書くことに慣れたら、次におすすめしたいのは「別の形でのアウトプット」です。特にここで取り上げたいのは、外部のコミュニティやイベント、カンファレンスでの「登壇」というアウトプットの形です。
記事一覧:【連載】社内外を往復するアジャイルQAの育ち方
なぜ外部の場に出るのか
ブログのようなアウトプットは、自分の思考を整理し深める点で非常に効果的です。しかし、外部のイベントでは、それとは違う種類の学びが得られます。
外部イベントには、多様な文脈を持つ人々が集まっています。自分の取り組みや学びを発表・共有すると、そこで独特の化学反応が起きます。
一つは、他者との対話から生まれるフィードバックです。異なる現場の経験を持つ参加者から意見をもらったり、自分が考えてきたテーマについてディスカッションしたりする中で、思いもよらない視点に出会います。「うちのチームでは当たり前だと思っていたことが、他社では珍しい取り組みだった」と知ったときの驚き。「自分たちが悩んでいることは、どこのチームも同じだった」と気づいたときの安堵感。こうした「自分や自社の相対化」は、外の人との対話があってこそ得られるものです。
もう一つは、情熱を持つ人からの影響です。あるテーマに真剣に取り組む人と直接話したとき、自分の向き合い方がガラッと変わる瞬間があります。知識を得たというより、何か火がついたような感覚。これは、テキストを読んだり書いたりするだけでは起きにくい種類の変化です。
内と外をつなぐ学びのスパイラル
こうした外部イベントでの化学反応は、単発の刺激で終わるものではありません。ここで起きているのは、もっと構造的なサイクルです。
外でアウトプットし、フィードバックを受け、他の実践者から刺激をもらうことで、自分の中に新たな気づきが生まれます。「もしかしたらこういうアプローチもあるのではないか」という仮説が立ち上がる。「あの人がやっていたことを自分のチームでも試してみたい」という意欲が湧く。これまで見えていなかった角度からの洞察が得られる。
そして、その気づきを持ち帰り、自社の普段の業務で新たな実践を行います。その実践から得られた学びをアウトプットし、再び外部のイベントに出て知見を共有する。そこでまた新たな化学反応が起き、さらなる気づきが生まれる。
つまり、日々の業務での実践 → アウトプットとして言語化 → 外部での共有と化学反応 → 新たな気づき → 実践に還元というスパイラルが回り始めるのです。一方通行の情報収集ではなく、内と外を往復することで学びが積み上がっていく構造です。
前回お話しした「仕事と発信を1サイクルにする」という考え方に、外部イベントという新たなフィードバックループが加わることで、学びの循環がさらに広がっていきます。外に出る意味は、情報収集や人脈形成だけではありません。この学びのスパイラルを動かすエンジンを手に入れることにあるのです。
QAエンジニアにとっての身近なカンファレンス
ブログで思考を整理することに慣れたら、次のステップとしてぜひ外部の場に参加してみましょう。
QAエンジニアにとって身近なカンファレンスといえば、JaSST(ソフトウェアテストシンポジウム)などがあるかと思います。アジャイル開発の文脈では、全国各地で開催されている「スクラムフェス」もおすすめです(私自身はスクラムフェス仙台の運営に携わっています)。中でも「スクラムフェス新潟」はアジャイルテスティングの色が強く、QAの方には特に相性が良いでしょう。
初めての人にとって、外部の人とコミュニケーションをとるのはハードルが高いものです。そこで役に立つのが、すでにブログなどで書いてきた記事です。「こういうことを書いています」「それ読みました!」と話のきっかけにできますし、相手も事前に読んでくれていれば会話が一気に深まります。外部イベントでのコミュニケーションを円滑にするという意味でも、事前のアウトプットは効果的なのです。
もちろん、育児や介護、地理的な事情などで現地参加が難しい場合もあるでしょう。最近は多くのカンファレンスがオンライン参加の選択肢を用意していますので、まずは自分の状況に合った形で参加してみてください。ただ、先に述べた化学反応の強度という意味では、やはり現地での対話が持つ力は大きいと感じています。
登壇への道筋:LTから始める
まずは参加することから始めてみてください。セッションを聞く、他の参加者と話す。外の空気を感じるだけでも、先ほどの化学反応は起きます。そうした場でのアウトプットに興味が湧いてきたなら、次のステップとしてぜひセッションへの登壇を目指してほしいと思います。
大きなカンファレンスで登壇している人は華々しく見えますが、彼らも突然その舞台に現れたわけではありません。日々のアウトプットの積み重ねがあってこそ、その場に立っています。小さなアウトプットを継続する中で「アウトプットの筋力」が少しずつ鍛えられ、やがてより大きな聴衆に自分の知見を届けられるようになっていく。ブログもLTもカンファレンス登壇も、すべて地続きの活動です。
こうした舞台に立つことは、キャリアにおいて大きな意味を持ちますし、自信にもつながります。ですが、いきなり大きな場での登壇を目指すのは現実的ではありません。
そこでおすすめなのが、5分程度の「ライトニングトーク(LT)」から始めてみることです。コミュニティイベントやカンファレンスでLT枠があれば、積極的に応募してみましょう。
登壇のネタは、日々のブログの延長線上にあります。ブログがタスクレベルや日々の業務での「小さな気づき」を書くものだとすれば、登壇テーマはもう少し長い時間軸での学びをまとめるものです。プロジェクト単位や、半期・1年といった期間をかけて取り組んだことと、そこでの学びを共有する。私自身は、半年ほどの業務で得た学びを棚卸しする形でプロポーザルを書き、年に2〜3回登壇するというサイクルで活動していました。ブログで蓄積してきた小さな気づきが、こうした振り返りのときに線としてつながります。
いきなり外部のイベントで登壇するのが難しければ、社内勉強会や朝会でのミニLTなど、身近な場から始めてみるのも良いでしょう。「壇上に立って話す」という経験を、小さな場で少しずつ積み上げていきましょう。
外部イベントは「業務」か「プライベートな活動」か
外部イベントへの参加をめぐって、「これは業務なのか、プライベートな活動なのか」という点で多くの人が悩んでいます。業務と認められるかどうかによって、勤務時間内に参加できるか、費用を会社が負担するかが変わってくるからです。事実として、私がカンファレンスで会った参加者の多くは、有給休暇を取り、自費で参加していました。
私の考えはシンプルで、これは「業務」だと捉えています。前回・前々回でお伝えしたように、アウトプットは学びと成長のための営みであり、仕事と地続きのものです。外部イベントへの参加や登壇もその延長線上にある活動です。確かに短期的には通常の業務が止まるためコストに見えますが、変化の速い時代において継続的に学び続けることは、私たちの仕事の本質そのものではないでしょうか。
もちろん、現時点ではそのように位置づけられていない組織の方が多いのが現実です。だからこそ、組織としてこうした場への参加や登壇を後押しする仕組みが必要になります。具体的にどのような制度や文化があれば「個人の根性論」にならずに済むのかについては、次回の最終回で詳しくお話しします。ここでは、外部イベントへの関わり方のグラデーションを整理しておきましょう。
関わり方のグラデーション
外部イベントへの関わり方には、コミットメントの深さに応じたさまざまな形があります。どの関わり方が優れているということではなく、自分の状況や目的に合ったものを選べるのが理想です。
- 参加者として聴く:チケットを購入してセッションを聴く、インプットに徹する形です。
- 積極的に交流する:他の参加者と話をしたり、ライトニングトーク(LT)をしたりする関わり方です。
- 登壇者として知見を共有する:しっかりと準備をしてセッションのプロポーザルを出し、登壇します。参加者たちに知見を共有することで貢献する形です。
- 協賛(スポンサー)として支援する:少し経路は違いますが、協賛を通じて間接的に学びを支援することも良い方法です。協賛することでブースの出展やスポンサーチケットが得られるため、複数人のメンバーを参加させることができます。
- 運営スタッフとして貢献する:通常参加や登壇とはまた異なる種類の学びが得られます。コミュニティや組織の運営を通じて得た知見は、社内でのチーム運営や組織づくりにも活きてくるため、個人的には非常におすすめです。本連載の本筋からは外れるため詳しくは触れませんが、興味のある方はぜひ一度試してみてください。(参考:スクラムマスター往復書簡 第6回:スクラムマスターにとってなぜコミュニティ活動は重要なのか)
私自身のマネージャー時代の経験として特におすすめなのは、協賛して数枚の参加枠を確保した上で、「アウトプットに興味はあるけれどイベントにあまり参加したことがない」というメンバーを誘い、2、3人で一緒に参加するという方法です。一人では踏み出しにくいハードルを下げられるというだけでなく、同じ体験を共有することで、イベント後に「あのセッション良かったね」「自分たちでもやってみよう」という会話がチーム内に生まれやすくなります。外の刺激を、そのままチームの中に持ち込めるのです。
この学びのスパイラルが組織全体に広がっていくためには、個人の意欲だけに頼らない仕組みが必要です。次回の最終回では、内と外を往復するこの学びの循環を「個人の根性論」にせず、組織としてどう支えていくかについて考えます。

