
「深夜に食べるラーメンは、体に悪い」
そんなことは、誰だって知っています。太るし、血圧は上がるし、翌朝の胃もたれも酷い。健康診断の結果を見てからやっと「次こそは……」と思うことでしょう。
でも、仕事が遅くに終わった帰り道、煌々と光る看板を見ると、つい足が向いてしまう。……美味しい。実はこれ、ソフトウェア開発における「シフトレフト」や「技術的負債の返済」が進まないことと大体同じような心理的状況だったりします。
連載第4回となる今回は、さらに踏み込んだ、シニアやスタッフ、プリンシパルといったICキャリアのQAへ進みたいQAエンジニアの皆様に向けてお話ししたいと思います。QAエンジニアとして品質について深く向き合ってきたあなたは、テストだけではなく様々な領域において幅広く活躍してきたステージだと思います。
「テストを前倒し(シフトレフト)した方が、後でバグを直すよりコストが低い」
「今、負債を返却しておかないと、将来の開発速度が落ちる」
論理的には100%正しい。誰もが同意する正論です。でも、目の前のリリース期限や、山積みのタスクを前にすると、私たちはつい美味しい方に手を伸ばしてしまうもので、それは決して間違いではありません。この「わかっちゃいるけど、できない」というジレンマを突破するために必要なのは、論理的な正論ではなく、実は 「情緒的な関わり」 である場合があるのです。
私も現在の会社ではチームリーダーとしてメンバーをマネジメントをしながら、スタッフエンジニアの仕事もしています。それまでのキャリアではいろんな品質改善の取り組みにチャレンジしてきましたが、上手くいかなかったことが8割で、上手くいった2割でなんとか成果を出してきたような気がします。打率はもっと低いかもしれません。今日はそんな経験の中で私自身や周囲から学んできた話をしたいと思います。
記事一覧:AI時代だからこそ「あなたにお願いしたい」と頼まれるQAエンジニアになろう
なぜ「正論」だけでは現場は動かないのか
私たちはプロとして、機能的な会話を得意としています。
- 「この設計だと、後にテストがしにくいです」
- 「不具合修正コストを考えれば、今自動化すべきです」
これらは事実に基づいた正しい指摘です。しかし、人は論理だけでは動きません。特に、疲弊しているチームや、プレッシャーのかかっている現場において、正論は時にただ追い込むだけになってしまうリスクがあります。
雨が降っている時に「傘を持っていけ」と言われるのは正しいアドバイスですが、すでに雨に濡れて凍えている時に欲しいのは、傘よりも先に「雨に濡れて寒かったね」という共感ではないでしょうか。そして、傘を持ち出した後にかけるべきは濡れなかったことへの事実ではなく「雨の音って何だか落ち着くね」という言葉だったりするのです。
「情緒的な関わり」という「心技体の心」の本質
私が考える「情緒的な関わり」とは、情報や事実の伝達(何が起きたか、どう解決するか)を目的とせず、「その時どう感じたか」「心がどう動いたか」という感情や感覚を共有し合うこと です。もっと噛み砕いて言うと、「正解や解決策を出さなくてもいい、心の交流」 です。人を動かすためには、前回私がお話した、「伝達スキル」とは正反対のスキルが必要になってくるのです。
「機能的」と「情緒的」の違い
論理的・機能的な会話との違いを対比させると、よりイメージしやすいかと思います。
| 特徴 | 機能的な会話・関わり (Functional) |
情緒的な会話・関わり (Emotional) |
|---|---|---|
| 目的 | 情報伝達、問題解決、タスクの完遂 | 共感、安心感、親密さ |
| 焦点 | 「事実」や「結果」 | 「感情」や「プロセス」 |
| 反応 | 分析、アドバイス、評価 | 肯定、受容、相槌 |
| 例 | 「雨だから傘を持って行って」 | 「雨の音って、なんだか落ち着くね」 |
情緒的な関わりの正体(3つの要素)
具体的には、以下のような要素が含まれているとき、人は「情緒的な繋がり」を感じます。
- 共鳴
相手の言葉に対して「わかるよ」「私もそう感じる」と、チューニングを合わせる行為です。論理的な正しさよりも、「あなたがそう感じているという事実」を大切にします。 - 自己開示と弱さの共有
自分の完璧ではない部分、迷い、不安、あるいは喜びを素直に見せることです。そうすることで、相手も「ここでは素の自分でいいんだ」という安心感(心理的安全性)を抱きます。 - 「無駄」の共有
生産性や効率とは無縁の、とりとめのない話をすることです。「気遣いが嬉しかった」「なんとなく寂しかった」といった、生きていく上で必須ではないけれど、その人の「人間味」そのものである部分を分かち合う時間です。
なぜ情緒が必要なのか
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