テストエンジニアが身につけておきたいスキルの一つ「論理のスキル」。
「論理の言葉」の意味や働きに注意が向くようになったら、文や文章の読み書きで実践していきましょう。
この連載では、「論理スキル“実践編”」と題して、「文章の筋道を把握する、主張を理解する」「文や文章の筋道を組み立てる」ことに役立つ 推論の形 を見ていきます。
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今回は、条件を表す言葉“ならば”と、選言“または”を組み合わせた推論の形を見ていきます。
その前に、前回のクイズの答えです。
前回クイズ解答
問題(再掲)
問1~問3の主張は妥当でしょうか。推論の形に着目して考えてください。
解答
問1。混合仮言三段論法で、①に対する前件否定(②)から、①の後件の否定を結論としています(③)。形式上の誤りで非妥当です。
(実際、テストの期間・工数の超過を招く要因は、設計成果物の欠陥の多さ だけではありません)
問2。純粋仮言三段論法です(①~③までが前提)。仮言判断の連鎖から、①の前件と③の後件をつないだ仮言判断を結論としています。これは妥当な形です。
問3。純粋仮言三段論法+混合仮言三段論法といった形です(③が②を承けた断言判断)。③が②に対する後件肯定であり、④で①の前件の肯定を結論としています。形式上の誤りで非妥当です。
(テスト結果がおかしくなる原因はテストデータの誤り 以外にもあり得ます)
ふたつの“ならば”と、“または”で推論する
両刀論法(ディレンマ, ジレンマ)とは
図5-1のような形の推論を 両刀論法 といいます。
ふたつの仮言判断(条件法を使った文)に対して選言判断を組み合わせて結論を導きます。
両刀論法の形式の例(複雑構成的)
図5-1で示した形は、「複雑構成的」両刀論法 といいます。
①PならばR、かつ、QならばS。
②Pか、またはQ。
従って、③Rか、またはS。
- 前提1で、ふたつの仮言判断A, Bを並べ、
「どちらも、前件が成り立つなら後件は成り立つ」という主張をします。 - 前提2で、ふたつの仮言判断の 前件のどちらかは真だ と主張します
(Aの前件が真であるか、または、Bの前件が真)。 - すると、前件肯定 から結論「ふたつの仮言判断の 後件のどちらかは真だ」が浮かび上がってきます(図5-2)。
(前件肯定は、「“ならば”を使って推論する」参照)
前提1は、条件つきの主張をふたつ提示するのが主眼です。本記事では形を示すのに連言(“かつ”)で表していますが、連言の形を取らない例も多く見られます。
例。
①明日が雨なら、Aさんは自宅にいるでしょう。明日雨が降らないなら、Aさんはサイクリングを楽しむでしょう。
②明日は雨が降るか、降らないか、どちらかです。
従って、③明日Aさんは自宅にいるか、サイクリングをしているか、どちらかです。
ディレンマ, ジレンマ
両刀論法は英語では「ディレンマ, ジレンマ(dilemma)」と呼ばれます。
「ジレンマ」は、古代ギリシャ語の「ディレンマ」(dilemma)が語源である。
ディレンマは、「二つの前提」を意味する「ディ」(di)と、「仮定」を意味する「レンマ」(lemma)が組み合わさった言葉である。
日本語では、“ジレンマ”は「ふたつの選択肢のどちらを選んでも困ったことになる“板挟み”の状態」といった意味で使われることが多いと思われます。
先の複雑構成的の形で、Qを「Pでない(NOT(P))」と置くと、
- ①PならばR、かつ、NOT(P)ならばS。
- ②Pか、または、NOT(P)。
- 従って、③Rか、またはS。
PとNOT(P)のどちらかにならざるを得ず、RもSも好ましくない結果なら、典型的なジレンマが出現します。
例。(笑えません)
①テストを続けるならば、テスト期間が伸びてリリースが遅れることになる。テストを止めるならば、テスト不足のままリリースすることになる。
②テストを続けるか、止めるかのどちらかだ。
従って、③リリースが遅れるか、テスト不足の製品をリリースするかのいずれかだ。
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