テストエンジニアが身につけておきたいスキルの一つ「論理のスキル」。
「論理の言葉」の意味や働きに注意が向くようになったら、文や文章の読み書きで実践していきましょう。
この連載では、「論理スキル“実践編”」と題して、「文章の筋道を把握する、主張を理解する」「文や文章の筋道を組み立てる」ことに役立つ推論の形を見ていきます。
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ここまで、基本的な推論の形を取り上げて、その考え方を解説してきました。
今回と次回は、推論を読んだり組み立てたりする際に「気をつけたい落とし穴(誤謬)」に焦点を当てます。
今回は、各回でも説明した「形式面で気をつけたい落とし穴」のおさらいです。
まず前回クイズの解答から。
前回クイズ解答
問題(再掲)
ISTQB Foundaton Level V4.0シラバスの記述を元にした主張があります(()内は章節番号)。
それぞれについて、形に着目して、妥当な(よい形の)主張かどうか、前回の説明を元に考えてください。
解答
問1。
- 媒介項「人間」は大前提①(全称肯定の主語)で周延されており、周延の規則①を守っています。
- 大名辞「エラーを犯す」は大前提①、結論③とも不周延。小名辞「開発者」は小前提②で全称の主語、③で特称の主語で、どちらも周延の規則②を守っています。
- ①②③いずれも肯定であり、肯定と否定の規則③を守っています。
- 以上から、妥当な形です。ちなみに第1格のAAIという式です。
問2。
- 媒介項「欠陥」が①(特称の主語)、②(肯定の述語)ともに不周延であり、周延の規則①に反しています。
また、①②とも特称文ですから、全称と特称の規則①に反しています。
この2点から、非妥当な形です。 - 一見、意味内容は正しそうに見えるかも知れませんが、媒介項が①と②で同じ概念(の範囲)を指しているかどうか不明です。
- 媒介項には別の問題もあります。
①では「欠陥」と言っているのに対し、②では「欠陥の原因」と言っています。両者は同じ概念と言えるでしょうか? - ちなみに第1格です。式の形はIIIになります(前述の理由から、すべての格で非妥当)。
問3。
- 媒介項「テスト」は①で周延されており(全称の主語)、周延の規則①を守っています。
- 大名辞「デバッグ」は①③で周延されています(否定の述語)。
- 小名辞「ホワイトボックステスト」は②③ともに「ホワイトボックステストの全体」(全称)と解釈できます。
- 大前提①が否定、結論③が否定で、肯定と否定の規則②を守っています。
- 以上から、妥当な形です。ちなみに第1格のEAEという式です。
問4。
- 媒介項「コミュニケーションの問題」は②で周延されており(全称の主語)、周延の規則①を守っています。
- 大名辞「リスク」は①③ともに不周延、小名辞「人の問題」は②③ともに不周延で、どちらも周延の規則②を守っています。
- ①②③いずれも肯定であり、肯定と否定の規則③を守っています。
- 以上から、妥当な形です。ちなみに第3格のIAIという式です。
推論の形式で気をつけたい落とし穴
各回で説明してきた推論形式には、形式面で気をつけたい落とし穴(誤謬:ごびゅう)があります。
今回、復習を兼ねて一覧できるようにしました。
これらは、その推論形式の性質から意味内容の真偽とは関係なく「これは間違った推論」と言えてしまう誤りです。
いくら内容面では正しいと思えるとしても、形の上で問題があるものは筋道を損ねてしまっており、よい主張とは言えません。
“または”で気をつけたい落とし穴
“または”は包含的
論理の言葉としての“または”(選言。“入門編”では論理和(OR)として紹介)は、「PとQがともに真でも成り立つ」という性質を持っています。
参照
・論理スキル[再]入門 [第3回] プログラムレベルのロジック(2)解説編・基本の論理演算
・論理スキル[実践編]“または”を使って推論する
この特徴から 包含的選言 などとも呼ばれます。
選言三段論法での誤謬
この性質から、選言肢の一方が真だからといって、他方が偽であるとは言えません。図8-2は誤りです(PとQを入れ換えても同じ)。
(選言三段論法の回では“タイプB”という本連載独自の呼称を使っています)
(排他的な“または”なら誤りではないが)
日本語だと同じ“または”という語になりますが、
「P, Qどちらかが真だが、ともに真ということはない」「Pが真であるか(その場合Qは偽)、または、Qが真(その場合Pは偽)」
という場合を表す“または”があります。
これは“排他的選言”や“排他的論理和(Exclusive OR, XOR)”などと呼ばれます(図8-3)。
この意味の“または”である場合は、図8-2の形は正しくなります。
(どちらでも正しいのはこちらの形)
選言三段論法で、包含的選言でも排他的選言でも正しいのは、選言肢の一方を否定し、残る選言肢を結論とする形です(図8-4。PとQを入れ換えても同じ)。
(選言三段論法の回では“タイプA”という本連載独自の呼称を使っています)
どちらの意味で使われているか、どちらに該当するのか、に気をつける
残念ながら、私たちが日ごろ使う言語では、どちらの選言かによって異なる言葉を使い分けるようにはなっていません。
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