ソフトウェア開発の世界では、アジャイル開発やスクラムが一般的になってきました。そのアジャイル開発のコアとも言えるのが、対話や協調です。この連載では、アジャイル開発におけるコミュニケーション・コラボレーションスキルを解説しながら、ファシリテーションスキルのレベルアップを目指します。
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・#イントロダクション:優れたスクラムマスターが絶対に言わないこと【連載初回、全文公開中】
・あなたの提案はなぜ受け入れられないのか?|ファシリテーション技術-1-
・よりよい場を作るための9つのルール[前編]|ファシリテーション技術 -2-
・よりよい場を作るための9つのルール[後編]|ファシリテーション技術 -3-
・コーチング技術 〜 基本技術を学ぼう|コーチング技術 -1-
・コーチング技術 〜 質問力を高めよう|コーチング技術 -2-
・上級者が活用する質問例|コーチング技術 -3-
・実践1on1[1] 〜 簡単だけど難しい1on1
・実践1on1[2] 〜 コミュニケーションの方法を使い分けよう!
・実践1on1[3] 〜 相手に合わせたコミュニケーション方法とは?
・実践1on1[4] 〜 実例をもとに1on1をレベルアップ
・【最終回】さらなる成長のためのコミュニケーショントレーニング
最終回のテーマは「コミュニケーションのトレーニング」です。
前回のおさらい
前回までは、ファシリテーション、コーチング、1on1と、具体的なコミュニケーション技術を解説してきました。この連載の最後は、学んだ技術を磨いていくための技術の解説です。
人見知りでもアジャイルコーチはできる
私は独立して、アジャイルコーチとして仕事をしています。前職などではエンジニアリングマネージャとして、メンバーの育成や採用を通して部署の立ち上げを行っていましたが、もともとコミュニケーションが得意な人間ではありません。
たとえば、もう40歳を超える年齢になりましたが、買い物に行って店員さんに「あの、この服のMサイズありますか?」と聞けません。店員さんが忙しそうなら「買うのやーめた」とすぐ諦めます。イベントの懇親会などにも多く出席しましたが、話かけるのが苦手なので、たいていは会場のすみっこでちびちびビールを飲んでいます。
こういう話をお客さまに話すと「またまた〜」と一蹴されますが、この話は本当です。こんな私でも、仕事で訓練を積むことで、人並みにコミュニケーションスキルを身につけられるようになりました。
コミュニケーションが苦手な人は多いですが、コミュニケーションスキルはあとでどうにでもなると思います。
それでは、どのようにそのスキルを学んでいくかを考えていきます。
国際コーチング連盟の認定資格を学ぶ
国際コーチング連盟(通称ICF)は、国際的なコーチング資格を運営している団体です。日本にも支部があります(一般社団法人国際コーチング連盟 日本支部)。
ICF認定資格は、ACC(アソシエート認定コーチ)、PCC(プロフェッショナル認定コーチ)、MCC(マスター認定コーチ)の3つがあり、毎年多くの人が認定されています。
個人的な感覚になりますが、普段から1on1などに慣れているならACCは簡単だと思います。しかし、PCCになると独学では難しい部分があるため、スクールで様々な人とセッションを持つのがおすすめです。PCCにもとめられるレベルは、PCCマーカーという形で公開されているので、PCCマーカーの内容を眺めてみるといいでしょう(参考: PCCマーカーを使いコーチとしてのスキルや振る舞いを鍛えていく方法)。
MCCレベルは達人です。コミュニケーションの取り方、間、質問内容、ふるまいかた、どれをとっても自然な所作なので、わかるひとにしかわからないスキルに感じています(私自身もPCCの勉強をすることでMCCのすごみに気がつきました)。
ICF認定資格は、国内にも認定スクールがたくさんあるので、自分にあったスクールに通うといいと思います。
期間的にはACCやPCCで1年ずつぐらいかかります。これはスクールで単位(CCUと呼ばれる)を取るのに時間がかかるからです。また、ICF認定資格は最低限必要となるコーチング経験がACCだと100時間以上、PCCだと500時間以上、MCCだと2,500時間以上必要になるため、条件を満たすために時間がかかる人も多いです。
アジャイルコーチやスクラムマスターの仕事をしているなら、ICFは基礎的なコーチングスキルを学ぶのにぴったりです。最近だと、海外企業で専任コーチを雇う傾向が強く、今後、国内でも専任コーチが求められてくると思います。実際に、専任コーチをやとっているIT企業もあります。ICFのコーチングはとても純粋で、独自路線を嫌い、王道を歩み続けている印象があるため、基礎を学ぶにはピッタリと言えます。
コミュニティで学ぶ
コーチングなどは地元にコミュニティがあったりします。私の場合、お世話になったメンターコーチにおすすめされた日本コーチ協会神奈川チャプターに所属しており、イベントなどにたまに参加して腕を磨いています。
スクールは比較的高い金額を身銭を切って参加している方が多い影響か、比較的意識高く学ぼうとする人が多いため、企業向けのビジネスコーチを目指す方が多い印象があります。
一方、ローカルのコミュニティだと、料金は抑えめです。その影響か、主婦や定年を迎えた方など、一般の方々が多い印象です。一般的なパーソナルコーチを目指すのであれば、お互いいい練習相手になると思います。
ファシリテーションであれば、FAJ:特定非営利活動法人 日本ファシリテーション協会があります。基礎講座が定期的に開催されており、とっかかりとして学ぶには最適でしょう。コーチングを学んだ方であれば、ファシリテーションの基礎講座に共通点が多いことに気が付きます。傾聴や質問は、両者に共通するスキルなのです。
1on1で学ぶ
私は一人で働いているため、客観的に自分を見てくれる人がお客さましかいません。たとえお客さまでも、厳しいフィードバックを伝えにくいと思う方も多いです。
そこで、私の場合は、信頼できるパートナーを選んで、定期的に1on1をしてもらっています。パートナーも似たような仕事をしているので、お互いに悩みを持ち寄ったり、共通のテーマで意見を交換したりしています。
現在1on1をしているパートナーとは付き合いも長く、家族ぐるみの付き合いなので、定期的な1on1が近況報告にもなっています。
コロナ全盛期では、外部とのやりとりが途絶えてしまいましたが、こういったつながりによって、切磋琢磨することができました。
自分たちで学ぶ
先生役がひとりいればとてもよいですが、もしいなければあなた自身が先生になればよいでしょう。認定資格やコミュニティで学んだことを現場で実践すれば、わかっていること、わかっていないことが明確になり、どんどんスキルが付いてくるでしょう。
1on1やふりかえりのあとに、ふりかえりのふりかえりをするのも有効な手です。
- 今回良かったところはどこか?
- 今回いまいちだったところはどこか?
- 次にどう活かすか?
を簡単にふりかえり、改善サイクルを回していきます。
1on1だと上司部下の関係が多いので、部下に聞くのをためらう人も多いはずです。しかし、1on1は相手の場です。いいところやいまいちなところを正直に話してもらえる関係性を築けば、1on1は成功したも同然でしょう。
*
この連載では、「スクラムマスターのためのコミュニケーション講座」と題して、スクラムマスターに求められるコミュニケーションについて解説してきました。コミュニケーションスキルは、スクラムマスターだけでなく、アジャイルコーチやエンジニアリングマネージャ、ソフトウェア開発に関わる方であれば、必ず役立つスキルだと思います。
エンジニアに限らず、人として生きる限り、一番良く使うスキルかもしれません。
それなのにコミュニケーション技術は、なかなか教えてもらえません。なんとなくMTGを仕切ったり、ファシリテーションをやったりする機会は多いのに、具体的なスキルアップ方法が学びにくいのはとてももったいないことだと思います。
そんな思いからできたのが「チームが自走するためのコミュニケーション入門」というトレーニングでした。毎回やるたびに改善を重ね、バージョンはv2.1になっています。この記事はこのトレーニングをベースにしています。
今回は、コミュニケーショントレーニングについて解説しました。
これまでにコミュニケーション技術を解説してきたので、具体的な手段を手に入れることができたはずです。さらに今回、腕の磨き方も解説したので、やる気さえあればどんどん上達できる場が整いました。
次はみなさんが、その成果を発揮する番です!
みなさまの現場において、すばらしいコミュニケーションが行われ、素晴らしいプロダクトが生まれることを祈っています。
連載一覧
・#イントロダクション:優れたスクラムマスターが絶対に言わないこと【連載初回、全文公開中】
・あなたの提案はなぜ受け入れられないのか?|ファシリテーション技術-1-
・よりよい場を作るための9つのルール[前編]|ファシリテーション技術 -2-
・よりよい場を作るための9つのルール[後編]|ファシリテーション技術 -3-
・コーチング技術 〜 基本技術を学ぼう|コーチング技術 -1-
・コーチング技術 〜 質問力を高めよう|コーチング技術 -2-
・上級者が活用する質問例|コーチング技術 -3-
・実践1on1[1] 〜 簡単だけど難しい1on1
・実践1on1[2] 〜 コミュニケーションの方法を使い分けよう!
・実践1on1[3] 〜 相手に合わせたコミュニケーション方法とは?
・実践1on1[4] 〜 実例をもとに1on1をレベルアップ
・【最終回】さらなる成長のためのコミュニケーショントレーニング