現役PMが徹底解説。プロジェクトマネジメント成功の技術

本連載ではプロジェクトマネジメントの全体像とプロジェクトを成功させる上で最低限抑えるべき知識と技術はもちろん、プロジェクトを炎上させないための技術やコツをお伝えしたいと思っています。

みなさんのプロジェクトが今以上に充実し、笑顔でプロジェクト終結を迎えられるよう一緒に学んでいきましょう。

第5回となる今回のテーマは「スコープマネジメント」です。

プロジェクトマネジメント成功の技術 連載一覧>※クリックで開きます

【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か?
 [連載初回全文公開中:Sqripts会員以外の方も全文お読みいただけます]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す

スコープマネジメントの目的とは何か?

プロジェクトの成功に不可欠な活動がこのスコープマネジメントです。同じ目的・目標に向かっているようで実は違う方向を向いていた、プロジェクト後に出来上がるシステム(成果物)に食い違いがあった、ということは日々のプロジェクトに少なくありません。視座を合わせる、同じ目的・目標に向かう、目的目標を達成してプロジェクトをゴールたらしめるための「地図」がスコープであり、地図に沿って進めていくことがスコープマネジメントです。

(1) 二つのスコープ

プロジェクトでは「プロダクトスコープ」と「プロジェクトスコープ」二つのスコープを明らかにします。

つまり私たちは何を作るのか?そして作るためにどんな準備や作業が必要か?を検討して、明確にしましょうということです。

例えば「フルーツを使った新作ラーメンを作りたい!」と考え、そのために先ず近隣のライバル店を調査しメニュー考案し、材料を揃え調理、試作や提供価格の決定などを経てお客様へ提供できるよね、という定義をします。どんなものを作りたいか?というゴールイメージであるプロダクトスコープがなくてはいつまでも成果物は作れませんし、当然そのために何をすればいいかも明確になりません。これら2つのスコープは常に対の関係で考え、整理していきましょう。

(2) プロジェクトスコープとは

スコープ(Scope)の語源は「見る・観察」を意味するラテン語の「scopium」で、「可視・適用・対象の範囲」を指します。プロジェクトマネジメントにおける「スコープ」も同じ意味の活動を意味します。

【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か?でも「独自の目標と期限を持つのがプロジェクトの特徴」であり、プロジェクトをマネジメントすることは、プロジェクトを「その技術や経験を適用しながら、適切にヤリクリ(マネジメント)」する必要があるとお伝えしました。そのように様々な制約の中でプロジェクトを成功させるには、目的を明確にすること、どこからどこまでを実行範囲とするかを定め、達成できるようにマネジメントすることがとても重要です。

また、今後みなさんがプロジェクトスコープを検討する時に忘れないでいただきたいのは「範囲はやることだけでなく、何をやらないか(範囲外か)も必ず決める」ということです。

  • 成果物ややるべきことは漏れなく決められているか?
  • 不要な成果物はなにか?作業はなにか?それらが含まれていないか?

(3) スコープクリープを回避する、転ばぬ先のスコープマネジメント

スコープクリープ(Scope Creep)という言葉をご存知でしょうか?
スコープクリープとは、プロジェクトで決めた/定義した成果物や範囲などが調整なしに逸脱・変更されてネガティブな事象を指します。プロジェクトにおいて変更は不可避だと言えますが、ここでいう変更は「調整のない・変更手順に則っていない」変更を指します。スコープクリープという言葉を使っていなくても「追加要求・変更・差し込み」と言えばみなさんの想像にも易く、いつでも誰にでも起こるというとがわかるでしょう。

PMI(Project Management Institute)の調査によるとプロジェクトの50%でスコープクリープが発生している(参考:PMIクリープ現象:クリープ(creep)は、物体に持続応力が作用すると、時間の経過とともに歪みが増大する現象
  • プロジェクト開始後に予期せぬ変更を要求された
  • チームが把握してない機能があった(追加された)
  • 追加の成果物を求められた
  • 成果物の納期を急に早められた

するとどうでしょうか、変更に伴い想定外のスケジュールやコストの増加調整が必要になったり、対応者の不足、チームから不満や不安の声も出るかも知れません。その影響度によっては、プロジェクトは一気に窮地に追い込まれます。

ではスコープクリープはなぜ起こるのでしょうか?

理由は様々で明確なトリガーがある訳ではありませんが、筆者の経験から元々のスコープ設定の甘さ、スコープの合意が曖昧だった、ステークホルダーが複雑だったり巻き込めていなかった、コミュニケーション不足、最終合意不足などが挙げられます。

プロジェクトの大きなリスクとなるスコープクリープを少しでも減らし、プロジェクトを成功に近づける為、適切なスコープマネジメントを行いましょう。そのためにも、次から6つのステップを意識して進めてみてください!

スコープマネジメント6つのステップ

(1) スコープマネジメントの計画

まず初めにスコープマネジメントをどう進めるか「計画」を立てることから始めます。簡単に言えば、6つのステップの2から6をどのようにして進めるかという計画です。

作成するドキュメント:

  • スコープマネジメント計画書
    プロジェクトのスコープをどのように定義、作成し、監視・コントロールし、その妥当性を確認するかといったことを記載する。
  • 要求事項マネジメント計画書
    要求事項の整理・分析、メンバーの具体的マネジメント方法などを記載する

(2) 要求事項の収集

先ずはプロジェクトに何が求められているのかを収集・整理する非常に重要なステップです。要求と要件の違いにも注意しましょう。

「やってほしいことを(やりたいことを)要求として整理すればいいんでしょ」「プロジェクト憲章やINPUT文書があるから十分」と考えては失敗の始まりです。確かに、プロジェクト憲章を元に作業範囲や成果物を定義しますが、ほとんどの場合は十分ではありません。プロジェクトの成功は、ニーズを発掘しプロジェクト(プロダクト)の要求事項に要素分解できて初めて実現されます。そのためにステークホルダーに積極的な関与を促すこと、ドキュメントの有無に関わらずステークホルダーへのヒアリングを行うことを省略せず、しっかりと要求事項を文書化し要求骨子として残すことが重要です。

作成されるドキュメント:

  • 要求事項文書(機能要求事項、非機能要求事項、プロジェクト要求事項、品質要求事項)
  • 要求事項トレーサビリティマトリックス
    クライアントからの要求事項をマッピング(Aという要求がどこの誰から出たものか、その詳細など)し、要求事項の達成状況や結果を追跡するのに役立つ

要求事項収集時のコツ:

  • まずはプロジェクトやその目的について理解してもらう(よく理解できていないプロジェクトに要求要望は言いにくいものです)
  • 大人数を対象としたブレインストーミングやアンケート、個別少人数のインタビューなどを使い分け網羅的に要望収集する
  • 要求事項の引き出しやヒアリングには必要な専門家をアサインする(品質要求・テスト要求のヒアリングはQAエンジニアが参加するなど)

(3) スコープの定義

ステップ(2)で収集した要求を元に、明確にスコープを定義し文書化します。要求はすでに文書化しているのになぜ改めてスコープを整理・定義するのか?それは要求事項が全てプロジェクト要求(スコープ)として含まれるとは限らないからです。要求を「整理・選別しその範囲(する・しない)を決める」のがこのプロセスです。またこの定義がこの段階でどれぐらい詳細化されているかが、プロジェクト成功に極めて重要です。

作成されるドキュメント:

  • プロジェクトスコープ記述書
    定義されたプロジェクトスコープの記述(段階的に詳細化)、成果物、受け入れ基準、プロジェクトからの除外事項を記述

(4) WBSを作成する

定義したスコープを実現するために、WBS(作業分解図:Work Breakdown Structure)を使って必要な要素を整理しましょう。
WBSとは、目標や作業範囲=スコープを要素に分解して、それらを達成し切ればプロジェクト目標を叶えられるように、作業を抜け漏れなく整理・管理するフレームワークです。またWBSとGANTT(工程表:ガント/ガントチャート)は異なりますが、混同して捉えているケースをよく見るので気をつけましょう。

要素分解のWBSと進捗管理のGANTT:

  • WBS:計画するために目標を細分化する
  • GANTT:活動の順番や影響力を整理する

※プロジェクトマネジメントツールの活用により、WBSを書かずに直接GANTTチャート上に要素分解するケースも増えています。

(5) スコープの妥当性確認

生成された成果物の妥当性確認、所謂「検証」を行うステップです。顧客やステークホルダーと共に成果物をレビューし、満足した形で成果物が完成していることを確認、成果物を公式に受け入れて「承認」されることで完了します。

いくら初期にスコープや成果物を定義しスポンサーと確実に合意していたとしても、時間の経過により忘れたり思い違いが発生することもあります。いよいよ成果物が完成したのに承認が受けられない!あるいは妥当性確認に時間がかかり長引く、などの事態を避けるために、プロジェクト工程ごとに分割して承認確認を取る、チェックリストを活用するなどの工夫もしてみましょう。

(6) スコープのコントロール

最後のステップはスコープコントロールです。
プロジェクト実行中に常に行いますが、プロジェクトのステータスをモニタリングし、スコープの変更を管理しましょう。「スコープクリープはプロジェクトで決めた/定義した成果物や範囲などが調整なしに逸脱・変更されること」とお話ししましたが、このスコープのコントロール過程で適切にプロジェクトに報告されたり、検討を踏まえて変更が決まったりしたものは「公式な変更」と言えますね。

さいごに

プロジェクトの目標・目的と同様にスコープも明確であればあるほどよいですが、時として「全てを詳らかにしてからスタートしなければならない」とこだわりすぎると時間がかかり、ビジネスのチャンスを失ってしまうことにもなりかねません。わからないことは後でといった「段階的詳細化」にするバランスが大事です。

次回のテーマは「スケジュールマネジメント」です。

連載一覧

【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [連載初回全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す

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西田 美香(にしだ みか)

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フリーランスのプロジェクトマネージャー/コンサルタント
専門商社でマーケティングや海外駐在を経験した後、プロジェクト課題を抱える企業をより近くで支援したいという思いから2017年に独立。全社的な変革課題と向き合い、戦略構築から実行フェーズまでプロジェクトの全段階にハンズオンで支援を行う。より実践的なプロジェクトマネジメントスキルを伝えるべく講師活動にも力を入れている。
オフは釣り・ソロ旅・家庭菜園を好み「一人時間」を満喫する自由人。
PMP/CSM(認定スクラムマスター)/PMO★★/MBA(経営管理修士)/EMBA(経済学修士) 

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