ソフトウェア開発の世界では、アジャイル開発やスクラムが一般的になってきました。そのアジャイル開発のコアとも言えるのが、対話や協調です。この連載では、アジャイル開発におけるコミュニケーション・コラボレーションスキルを解説しながら、ファシリテーションスキルのレベルアップを目指します。

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あなたの提案はなぜ受け入れられないのか?|ファシリテーション技術-1-
よりよい場を作るための9つのルール[前編]|ファシリテーション技術 -2-
よりよい場を作るための9つのルール[後編]|ファシリテーション技術 -3-
コーチング技術 〜 基本技術を学ぼう|コーチング技術 -1-
コーチング技術 〜 質問力を高めよう|コーチング技術 -2-
上級者が活用する質問例|コーチング技術 -3-
実践1on1[1] 〜 簡単だけど難しい1on1
実践1on1[2] 〜 コミュニケーションの方法を使い分けよう!
実践1on1[3] 〜 相手に合わせたコミュニケーション方法とは?
実践1on1[4] 〜 実例をもとに1on1をレベルアップ
【最終回】さらなる成長のためのコミュニケーショントレーニング

第3回目のテーマは前回と同じく「ファシリテーション」です。よりよい場作りをするためにつかえる9つのルールを見ていきます。

前回のおさらい

前回は、ファシリテーションが機能する現場を解説しました。ファシリテーションが機能している理想の現場をイメージすることで、進むべき方向性が定まるはずです。

また、MTGでありがちな、誰かの提案がチームの自分ごとになりにくい理由も解説しました。そのため、ファシリテーション技術などを使って、改善活動のアクションが自分ごとになり、チーム一丸で突き進める状態を目指す必要があります。

今回は理想の場や、アイデアが自分ごとになるために、ファシリテーションでどういった支援ができるかを具体例を元に考えていきます。

相互学習する現場のための9つの基礎ルール

相互学習する現場のための基礎ルール

相互学習する現場のための基礎ルールは以下の9つになります。

  1. 想定や推察を確認する
  2. 曖昧な言葉を確認する
  3. タブーを話し合う
  4. すべての情報を共有する
  5. 理由と意図を説明する
  6. 自分の「関心」を伝える
  7. 提案と質問を組み合わせる
  8. 次のステップを一緒に作る
  9. アクションを自分ごとにする

「相互学習する現場」は、参加者がお互い学び合うファシリテーションが機能している現場です。これらを実現するためのルールが上記になります。これらのルールは書籍『ファシリテーター完全教本』でまとめられていたものを、トレーニング用に筆者が整理したものになります。それぞれ見ていきましょう。

1. 想定や推察を確認する

ファシリテーターは以下のような発言に注意をはらう必要があります。

「◯◯さんが〜〜と言っていたらしいよ」

「部長なら絶対〜〜って言うと思うよ」

「お客さんはかなり嫌がっているように感じる」

これらの発言は、想定や推察が混ざっており、事実確認ができていない情報です。このあいまいな情報をもとに、大切な意思決定をするのはとても難易度が高い行為です。

よって、こういった発言が出てきたら、ファシリテーターはすぐに内容を確認する必要があります。

「◯◯さんが言っていたということですが、それは確かですか? 」

「お客さんが嫌がっているというのは、どういった状況を通してそう思ったのですか?」

その場にいない人の話が出てきたときは、その内容の事実確認が必要です。

我々はエスパーではないので、相手の考えていることを100%理解することはできません。理解しようとする努力は必要でしょうが、すべてを理解するには限界があります。お客さんが嫌がっているという意見があれば、状況を確認するのと同時に、本当に嫌がっているのだろうか? 疑う必要があります。必要であれば、お客さんに直接会いに行って真意を確かめるのも手です。

このようにして、ファシリテーターは想定や推察を確かな情報に変えていきます。

2. 曖昧な言葉を確認する

MTGに参加したメンバーの次の発言を見てみましょう。

「前回のトラブルはすごく大きな問題です」

「めちゃくちゃ忙しいので、なかなか難しそうです」

「このタスクは時間がかかります」

我々は自分でも知らない間に、曖昧な言葉を使ってしまいがちです。本人は内容を正確に理解できているかもしれませんが、我々はエスパーではないので、同じ理解をすぐに持つのは難しいものです。

「大きな問題」はどれぐらい大きな問題なのでしょうか? 「めちゃくちゃ忙しい」というのはどれぐらい忙しいのでしょう? 「なかなか難しい」というのはどれぐらい難しいのでしょう? 「時間がかかる」というのはどれぐらいかかりそうなのでしょうか?

ファシリテーターは曖昧な言葉が出てきたらすぐに確認し、明確な情報に変えていきます。

3. タブーを話し合う

例となる会話を元に解説していきます。

「またトラブルが起きましたね。前回と同じく◯◯さんとの連携がうまくいかず、トラブルになってしまったようです」

「前にふりかえりもしたのに、同じ問題が起きてしまいましたね。こちらでやれることは限界があるので、◯◯さん側の部署でもう少し対策を考えてほしいものですが・・・」

「トラブルは現在も継続中みたいですよ」

この会話を見る限り、ここにいない人や部署の話をしているのが印象的です。そもそも、場に影響を与える人がこの場にいないのは不自然です。そこで、タブーかもしれないですが、以下のように話してもいいかもしれません。

「さっきから◯◯さんの話をしていますが、この場にいない人の話をする必要はありますか? あるなら◯◯さんをここに呼びませんか?」

相談しにくい人や部署、相性の悪い人たち、誰もが知っている昔からある会社の問題などなど、タブーとなっている情報で身動きが取れなくなるケースも多いです。

タブーに囲まれる当人たちの場合、気が付かないうちにタブーを避けて会話を進めたり、見て見ぬふりをしたりする傾向があるからです。

私の仕事はアジャイルコーチであり、外部からやってきた存在です。よって、タブーがわかりません。お客さまとの関係性、チーム間の心理的安全性、時と場合など、タブーに踏み込むタイミングを見計らう必要はありますが、ファシリテーターはどこかのタイミングでタブーが話し合える場にいざなっていきます。

なぜなら、制約や制限のなかで最大限の効果を考えるより、制約や制限を取り払って議論するほうが、劇的に状況がよくなるからです。

4. すべての情報を共有する

想定や推察を確認する、曖昧な言葉を確認する、タブーを話し合うことで、現場にある隠れた情報の輪郭が現れるはずです。これらのルールを適用しながら、今ある情報を洗い出し、オープンに共有していきます。そうすることで、的確な判断や議論ができるようになります。

情報共有なんて当たり前・・・といえるかもしれませんが、チームで議論をするときになかなか意見が出てこない場合も多いでしょう。特に、まだ立ち上がったばかりのチームだと、心理的安全性も構築できておらず、ディスカッションが盛り上がらないといったケースもあるはずです。

そういう場合に使えるテクニックをいくつか紹介します。

順番に話す

オンラインMTGは便利ですが、オフラインで対面で話すのと比べると間を取るのが難しくなります。この原因のひとつは、雰囲気やふるまい、しぐさなどがオンラインではわかりにくいためです。そういうときは、参加者に順番に話してもらうのも手です。

まず、考える時間を与えます。時間で言うなら1分ぐらいで十分でしょう。「1分じゃ考えられない」という人もいますが、今後のMTG効率を高めるために、短い時間で考える癖をつけるといいと思います。時間がないなら事前に準備をすればいいはずです。完璧な意見ではなく、たくさんの意見が集まる方法を身につけましょう。オフラインなら付箋に書いてもらったり、オンラインならMiroのようなオンラインホワイトボードツールを使うのもよいでしょう。

次に、画面に写っている順番でもなんでもいいので、ひとりひとりに自分が考えたことを話してもらいます。ファシリテーターは「一人1分で話してください」というように、誰か特定の人が話しすぎないように配慮するとよいでしょう。話しすぎる人がいれば、指摘するのではなく「2分話してますね」と事実だけを伝えます。事実を伝えるだけで相手は自分のふるまいに気がつくはずです。

この方法のデメリットは、時間がかかることです。全員に均等に時間配分するのは平等と言えますが、そのぶん時間がかかります。

発言者が次の発言者を指名する

最初に発言者を指名したあと、その人に次の人を指名してもらう作戦です。お互いがお互いを意識し合うようになるので、チームのメンバー同士のコミュニケーション活性化に使える方法と言えます。

次のように、発言者が感想を他の人に求めるのも手です。こうすれば、よりコミュニケーションが活性化され、相手の意見を聞きやすくなるはずです。

「Aさんから〜〜という意見が出ましたが、Bさんはどう思いますか?」

ファシリテーターがチームを触発する

ファシリテーターが発言者に集中してしまうと、ファシリテーターと発言者の1on1コミュニケーションになってしまいます(上図左)。ファシリテーターは、あくまでコミュニケーション活性化の媒体でしかないため、ファシリテーターの言葉に触発され、参加者間でコミュニケーションが活性化される形を意識します(上図右)。

今回は、相互学習する現場のための基礎ルールの1〜4までを解説しました。

次回も、この続きを解説していきます。

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SQRIPTER

藤原 大(ふじはら だい)

スーパーアジャイルコーチ、株式会社せかい 代表取締役

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スーパーアジャイルコーチ、エンジニアリングマネージャ、『リーン開発の現場』の翻訳者のひとり。創造的、継続的、持続的なソフトウェア開発の実現に向けて奮闘中。週末に娘と息子とお昼寝しながら世界のビーチや離島を旅する夢を見る。

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