現役PMが徹底解説。プロジェクトマネジメント成功の技術

本連載ではプロジェクトマネジメントの全体像と、プロジェクトを成功させる上で最低限抑えるべき知識と技術はもちろん、プロジェクトを炎上させないための技術やコツをお伝えしたいと思っています。

みなさんのプロジェクトが今以上に充実し、笑顔でプロジェクト終結を迎えられるよう一緒に学んでいきましょう。

第10回となる今回は「リスクマネジメント前編」です。
前編と後編の二回に分けて、プロジェクトマネジメントにおけるリスクの考え方と具体的なリスク分析方法、対応策の立て方について一緒に学んでいきましょう。

プロジェクトマネジメント成功の技術 連載一覧>※クリックで開きます

【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]

リスクとは「挑戦すること」

1) リスクの語源

リスク(risk)の語源は諸説ありますがラテン語のrisicare(リズカーレ)とされています。risicareはもともとイタリアの東方貿易で危険を顧みず一攫千金を狙う船乗り達を指していた言葉が転じて「悪い事象が起こる可能性を覚悟の上で、勇気をもって試みる」という意味で使われ始めたようです。単純に「危険・危ない」のではなく、危険を承知で挑戦することで<得られるもの>があると捉えると、リスクは「避けるのではなく挑むべきもの」だと感じますね。

2) プロジェクトにおけるリスクは?

日本語のニュアンスではやはり「危険」「悪い事」といったネガティブなイメージを持つリスクという言葉ですが、プロジェクトマネジメントはこのネガティブなリスクと共に「ポジティブなリスク」が存在します。この2種類のリスクをしっかりマネジメントして「目標設定への影響をコントロール」していくことがリスクマネジメントの極意です。

3) 2種類のリスク

プロジェクト目標は未来にあるため、常に「不確実性」が存在します。まさにリスクがこの「不確実性」にあたります。
まずみなさんが思い浮かべるリスクには「悪いことが起こる」「起こってほしくないことが起こる」といったリスク、つまりネガティブリスクがあるでしょう。そして同じように「良いことが起こる」「思いの外良い結果がでた」といったリスク、つまりポジティブリスクも存在します。

計画を基準として考えたとき、計画に対してマイナスに作用するものをネガティブ、プラスに作用するものをポジティブと捉えます。プロジェクトや環境によって悪い/良い事象は異なりますが、どのようなプロジェクトでも必ず<リスクは目標達成に影響を与え>ます。ですからプロジェクト成功に向けて人材が揃わない、顧客とのトラブルや法令の変更、為替変動や急激な原価高騰といった未来に起こりうる様々な「事象・リスク」を想像して適切にマネジメントしなければなりません。

4) ポジティブリスクへの接し方

とはいえ筆者の経験からも、大規模なプロジェクトを除いてはネガティブリスクにフォーカスしてマネジメントすることがほとんどです。また限られたリスク検討時間の中では、ポジティブリスクの洗い出しに思いや時間が及ばないことも想像されます。
しかし、そのような場合でもPMの立場では「別プロジェクトの熟練人材が獲得できればXXアクティビティの納期を短縮できる可能性がある」といった期待やポジティブ事象の発現シーンを想定しておくことで、そのプラスのベネフィットをしっかり活用する判断ができるように準備しておきましょう。

リスクマネジメントのステップ

PMBOKではリスクマネジメントを以下7つのステップ(プロセス)で行うとしています。※1
計画(準備)するプロセスが多いことからもわかるように、基本的にプロジェクト計画時にリスク対策を策定して、その後プロジェクト内で発現しつづけるだろうリスクに対してマネジメントを適用していきます。

リスクを徹底的に洗い出す、まずはそこから

プロジェクトマネジメントの講義などで「リスク分析の仕方」「正しいリスク管理の方法」などについて質問を受けます。それはこの後触れていきますが、大切なのは「十分にリスクを洗い出してはじめて、リスク分析や管理ができる」ということです。

「ねえ、このプロジェクトのリスクってなにがあるかな?」
「まだ計画段階なので、具体的にリスクって言われても、スケジュール遅延ぐらいしか思い浮かばないな」
というように、リスクを洗い出そうとしても悶々とした時間になったり、せっかく出たリスクをおざなりにしてはいませんか?

1) プロジェクトのイベントとしてリスク検討をしてみる

確かに「XXというプロジェクトをはじめます」という情報だけでは未来に起こる事象・リスクを思い浮かべることは難しいですね。そんなときは、例えばこれまでに作成してきたWBSやガントチャート、計画書、見積書などの情報を元ネタにして洗い出しを進めてみましょう。プロジェクトメンバが決まっていればキックオフやMTGのテーマとしてリスク検討をしてみてもいいでしょう。またリスクという言葉自体に慣れていない場合もありますので「プロジェクトの目標達成に影響を与えそうなモノやコトはなんだろう」「起こってほしくない出来事はなんだろう」「過去の経験から似たような事象が起こりそうなコトってあるかな」というように、難しく考えずにいろんな<リスクアイデア>が出るように導いていきましょう。

2) プロンプト・リストを活用する

プロンプト・リスト(Prompt List)を使ったことはありますか?
プロンプトは即興のといった意味がありますが、プロンプト・リストというリスク区分が整理されたリストをあらかじめ準備することで、リスクアイデアを引き出したりリスクの漏れのない特定を助けたりすることができるという訳です。しかしながら、プロジェクトのリスクは固有のものですから、プロンプト・リストはそのアイデア出しの「きっかけ」として活用するという意識を忘れないようにしましょう。

<プロンプト・リストのフレームワーク>

  • PESTLE(政治、経済、社会、技術、法律、環境)
  • TECOP (技術、環境、商業、運用、政治)
  • VUCA (揮発性、不確実性、複雑さ、あいまいさ)

3) リスクの基本的な書き方

リスクを検討する大きな理由は、不安なままではプロジェクトが進み出せないこと、プロジェクトのリスクは後にQCDの複合的な問題を起こすことが挙げられます。そのため、まずは「不安を起点」に考えはじめ、「リスクとして正しく記載・管理」することが重要です。

リスクマネジメント残念例:

  • リスクアイデアを出したが、文書化されず、その後も管理されない
  • リスクの特徴が掴めず、リスクの持つ問題やリスク発生時の影響が考慮しにくい

書き方の良い例・悪い例:

悪い例)コンパイル処理のパフォーマンスが足りない → リスク条件(原因)が不明
良い例)要件定義フェーズでパフォーマンスに関する非機能要件合意ができていないので、コンパイル処理のパフォーマンスが不足

悪い例)計画不備によりスケジュール遅延が発生する → スケジュール遅延が結果となっている
良い例)計画リーダーが計画策定に関する知識に乏しく、必要となる工数を正しく見積もれない可能性がある

さいごに

リスクマネジメントは苦手意識を持たれがちですが、リスクを洗い出す段取りや分析方法を理解しておけば難しくはありません。
必要な準備をすることでその後のプロジェクト成功を助けるリスクマネジメント、後編では具体的な分析方法やリスク管理表の作り方に触れていきます。

次回は「リスクマネジメント後編」です。

<参考・引用>

※1:PMBOKガイド第6版.P395.プロジェクト・リスク・マネジメント

連載一覧

【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]

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SQRIPTER

西田 美香(にしだ みか)

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専門商社でマーケティングや海外事業会社の立ち上げなどを経験後、プロジェクト課題を抱える企業をより近くでサポートしたいという思いから、現在はプロジェクトマネジメントを専門に従事。戦略検討から実行フェーズまでプロジェクトの全段階にハンズオンで支援している。

PMP/CSM(認定スクラムマスター)/MBA(経営管理修士)/EMBA(経済学修士) 

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