ソフトウェア開発の世界では、アジャイル開発やスクラムが一般的になってきました。そのアジャイル開発のコアとも言えるのが、対話や協調です。この連載では、アジャイル開発におけるコミュニケーション・コラボレーションスキルを解説しながら、ファシリテーションスキルのレベルアップを目指します。

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あなたの提案はなぜ受け入れられないのか?|ファシリテーション技術-1-
よりよい場を作るための9つのルール[前編]|ファシリテーション技術 -2-
よりよい場を作るための9つのルール[後編]|ファシリテーション技術 -3-
コーチング技術 〜 基本技術を学ぼう|コーチング技術 -1-
コーチング技術 〜 質問力を高めよう|コーチング技術 -2-
上級者が活用する質問例|コーチング技術 -3-
実践1on1[1] 〜 簡単だけど難しい1on1
実践1on1[2] 〜 コミュニケーションの方法を使い分けよう!
実践1on1[3] 〜 相手に合わせたコミュニケーション方法とは?
実践1on1[4] 〜 実例をもとに1on1をレベルアップ
【最終回】さらなる成長のためのコミュニケーショントレーニング

第4回目のテーマは前回と同じく「ファシリテーション」でよりよい場を作る9つのルールの後半部分を見ていきます。

前回のおさらい

相互学習する現場のための基礎ルール

前回は、

  1. 想定や推察を確認する
  2. 曖昧な言葉を確認する
  3. タブーを話し合う
  4. すべての情報を共有する

と、会話の解像度を上げていくためのルールを解説していきました。今回は、ファシリテータのふるまいに注目したルールを解説していきます。

相互学習する現場のための9つの基礎ルール

5. 理由と意図を説明する

あなたは、以下の会話から何を感じるでしょうか?

「◯◯さん、あなた、あの時間何をしていましたか?」

「刑事さん・・・私を疑っているんですか!?」

「いえ、そんなことはないです。繰り返しますがあの時間何をしていたんですか?」

ミステリーでありがちな会話ですが、ファシリテーションの観点からみると、刑事さんや探偵さんの質問方法は最悪です。まず、質問の答えを得たいはずなのに、相手は警戒しています。これだと相手は信頼して話をしてくれないかもしれません。

ファシリテーターは、質問の理由や意図を明確に伝えます。相手が不必要な警戒をしなくていいように、相手が質問に回答しやすいように質問します。会話をしているときに、もしあなたが、「なんでこんな話をしたかと言うと」や「何を言いたいかと言うと」と発言したなら、理由と意図を事前にうまく説明できていないかもしれません

それでは、上記の会話を理由と意図を明確にした質問に書き換えてみましょう。

「私はここにいる全員が犯人の可能性があるので、ひとりひとりにアリバイを確認していきたいと考えています。◯◯さんは、あの時間何をしていましたか?」

ミステリー小説だとありえない台詞回しですが(笑)、ファシリテーターが何をしたいか? 何を期待しているか?は伝わるはずです。

ファシリテーターは「犯人はあなただ!」と驚かせたいわけではありません。自由に適切な会話ができるように支援をしたいのです。理由と意図を説明することで、コミュニケーションがシンプルでわかりやすくなるはずです。

6. 自分の「関心」を伝える

繰り返しになりますが、ファシリテーションとは、チームの能力を高める技術です。さまざまな「違い」がある中で、適切に対立し、オープンかつ建設的に話し合い、物事を進めるための方法と言えます。

ファシリテーションが求める方向性について、異論のある方はほとんどいないと思います。ファシリテーターは、この方向性を会話の中でなんども繰り返し伝えていきます。

「自分の関心を伝える」は、ファシリテーションやチームの方向性を再確認するのに適した方法です。たとえば、議論がヒートアップした場合に、自分の今の関心事を伝えるだけで、一気に場が締まります。

「みなさんがいろいろな意見をお持ちなのはよくわかりました。白熱した議論になっているのも理解しています。ですが、我々はこの1時間で意思決定を行い、アクションまで決める必要があります。私はそのための支援を全力で行いたいと思っています。さて、残りの時間をどう使いましょうか?」

場合によっては自由な発言、建設的な議論が必要です。しかし、時間は有限なので、その時間をどう効率的に使うかは、参加者全員が頭の隅に入れておくべきテーマと言えます。そのため、ファシリテーターは定期的に「自分たちはこの時間を有効活用できているか?」「ちゃんと当初のゴールに向かっているか?」を確認しながらすすめるとよいでしょう。

ファシリテーターや参加者の関心といえば、「時間内で結果を出す」のはず。それをどんどん伝えていくだけで、チームは自分で考えて行動してくれるはずです。

7. 提案と質問を組み合わせる

提案を受け入れやすくするための流れ

提案やアドバイスはとてもありがたいことですが、なかなか自分ごとにならないのが課題としてあります。アジャイルコーチとしてさまざまなMTGに参加してきましたが、提案やアドバイスのほとんどは実行されません。

たとえば、提案やアドバイスは、相手に対して一方通行になりがちです(上図左)。一方的な言葉の流れを変えるために、提案と質問を組み合わせます。提案と質問を組み合わせた会話は以下のようになります(上図右)。

  1. もしよければですが、私の過去の経験を元にアドバイスしてもよいでしょうか?(確認)
  2. 相手は受け入れるかどうかを選べる(受け入れる場合は次に進む)
  3. 過去に似たようなことがあったときに〜〜をしたら解決に進んだことがあります(提案)。今の話を聞いてどう思いましたか?(質問)
  4. 相手は自分が受け止めたことを感想として話す

この方法では、一方的な提案やアドバイスではなく、最初に受け入れるかどうかの確認を相手に委ねています。さらに、最後に提案したアイデアの感想を質問することで、どう受け止められたのかを確認しています。上の図を見るとわかるように、コミュニケーションのやり取りの量が大きく違うのがわかります。

アイデアがアクションの選択肢に加われば幸いですが、そうでなくとも「何が違ったのか?」を確認できます。確認できたら軌道修正して、相手の求めるものに近づいていきます。このあたりはアジャイル開発の本質とも言える、フィードバックサイクルの構築に近い流れです。

また、提案するときに以下のように聞いてもいいでしょう。

「この提案をあなたは受け入れても、拒否しても、ちょっと取り入れてもOKです」

提案を拒否されてもがっかりしないことをきちんと伝えておきましょう。外部からの意見は、あくまで選択肢でしかないのです。

8・9. 次のステップを一緒に作る、アクションを自分ごとにする

「8. 次のステップを一緒に作る」と「9. アクションを自分ごとにする」は、MTGで決まったことやアクションを整理するプロセスです。ふりかえりなどでよくあるケースなので、問題を深掘りし、アクションを作っていく過程を見ていきましょう。

問題を深掘りする例

ここでは「スプリント内で仕事が終わらない」という問題があるとします。今回は以下の流れで問題を深掘りしていきます。

  1. 今、何が起きているのか?
  2. 将来、その結果どうなるのか?
  3. 理想はなにか?
  4. 何にチャレンジ・アクションするのか?
ステップ1 何が起きているかを明確にする

まず、今何が起きているかを上方向に整理していきます。スプリント内で仕事が終わらないため、PRが溜まって仕事が進まなかったり、テストが終わらなかったり、さまざまな問題が発生していることがわかりました。

問題は、見る人によって違う形に変化します。ここでは、チームメンバーの様々な視点で問題を眺めてみましょう。私の場合「問題を誰かに持たせず、テーブルの上に問題を置いて、みんなで眺めてみましょう」と声掛けしたりします。問題を誰かが持ってしまうと、その人自身が問題になってしまいがちだからです。

ステップ2 その結果どうなるか?

次に、問題がこのまま起こり続けたらどうなるかを想像します。ユーザに価値が届かない、予定が狂うなど、かなり影響が大きい問題のようです。もし、将来起こり得る問題が小さいのであれば、この問題は捨てて、違う問題や課題を扱っても良いでしょう。

将来の問題が大きければ大きいほど、チームは危機感を持って取り組めるようになります。開発に大きな影響を与えるのであれば、他人事ではなくなるからです。

ステップ3 理想はなにか?

そして、理想の状態をイメージして少し下側に置きます。なぜなぜと根本原因をさぐることもできますが、その方法はほろ苦い過去を探るつらい旅になりがちです。未来に進む推進力をつけるため、ここでは過去ではなく将来を考えています。

ステップ4 何をチャレンジするか?

理想の状態がイメージできれば、現在と理想の間にあるギャップを洗い出します。そのギャップを埋めるものが、アクションやチャレンジになります。今回の例だとベロシティを考慮したり、見積もりを改善したり、完了の定義を見直しています。

全体図

これまで深掘りしてきた内容の全体像を見ると上記のようになります。

課題の深掘りボードサンプル(こちらからサンプルを確認できます)

ここまでの問題解決の流れをMiroに落とし込むと、上記のようなボードになります。ふりかえりなどでまずはこの形で進めていき、慣れてきたら自分たちに合わせてカスタマイズしていくこともできます。

今回の例では現状を掘り下げ、理想の状態を考え、現状とのギャップをアクションとして埋めました。注意したいのは、誰がやっても同じ結論になるとは限らないということです。つまり、その場の状況や会話、質問によっては違う結論に行く場合もあります。複数の結論が出てきて選択を迫られる(あるいはどちらもやる)場合もあるでしょう。

また、結論が同じでも、そこに行き着くまでの過程が変わる可能性もあります。効率的に結論にたどり着く場合もありますが、非効率であっても議論が深まる場合もあります。

ファシリテーターはその現場の会話の流れを汲み取りながら、最適な方法を模索し、良い方向にチームをいざなっていきます。

今回は、相互学習する現場のための基礎ルールの5〜9までを解説しました。実際の会話例をもとにひとつずつみていきましたが、ファシリテーターの言葉の使い方やふるまい方のイメージが持てたのではないかと思います。

次回はファシリテーションと双璧をなす重要技術「コーチング」について解説します。

連載一覧

#イントロダクション:優れたスクラムマスターが絶対に言わないこと【連載初回、全文公開中】
あなたの提案はなぜ受け入れられないのか?|ファシリテーション技術-1-
よりよい場を作るための9つのルール[前編]|ファシリテーション技術 -2-
よりよい場を作るための9つのルール[後編]|ファシリテーション技術 -3-
コーチング技術 〜 基本技術を学ぼう|コーチング技術 -1-
コーチング技術 〜 質問力を高めよう|コーチング技術 -2-
上級者が活用する質問例|コーチング技術 -3-
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SQRIPTER

藤原 大(ふじはら だい)

スーパーアジャイルコーチ、株式会社せかい 代表取締役

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スーパーアジャイルコーチ、エンジニアリングマネージャ、『リーン開発の現場』の翻訳者のひとり。創造的、継続的、持続的なソフトウェア開発の実現に向けて奮闘中。週末に娘と息子とお昼寝しながら世界のビーチや離島を旅する夢を見る。

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