コーチング技術 〜 質問力を高めよう

ソフトウェア開発の世界では、アジャイル開発やスクラムが一般的になってきました。そのアジャイル開発のコアとも言えるのが、対話や協調です。この連載では、アジャイル開発におけるコミュニケーション・コラボレーションスキルを解説しながら、ファシリテーションスキルのレベルアップを目指します。

今回のテーマは「コーチング」。その中でも「質問」について深掘りしていきます。

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【最終回】さらなる成長のためのコミュニケーショントレーニング

前回のおさらい

前回はコーチングの主要技術を解説しました。

  1. 傾聴
  2. 質問
  3. 承認
  4. フィードバック

今回はこの中でも「質問」に注目して解説していく予定です。アジャイル開発の現場で友好的な質問とは、どういったものになるのでしょうか? ここでは以下の観点で質問を分類しながら解説を進めます。

コーチングの質問例
  1. 視点を変える
  2. 時間を変える
  3. リソースの確認
  4. オープン VS クローズド
  5. チャンクダウン VS チャンクアップ

視点を変える質問

まずは以下の会話をもとに、視点を変える質問を考えていきましょう。

「今回のこの問題は前にも発生したことがありますね」

「前回のふりかえりで対策をうったつもりでしたが、残念ながら再発してしまったみたいです」

「さすがに同じ問題を何回も起こしてしまうのはよくないので、今回は根本的な解決策を考えていきたいです」

「そうですね。前回はチェックリストを作ってミスを防ごうとしましたが、カバーできていない部分があったので、チェックリストを更新してみてはどうでしょうか?」

問題の再発防止策を考える会話のようです。同じ問題がまた起きてしまい、チームの雰囲気は最悪です。前回の改善策を今回さらに改善するようですが、ここに視点を変える質問を加えてみましょう。

「今回のこの問題は前にも発生したことがありますね」

「前回のふりかえりで対策をうったつもりでしたが、残念ながら再発してしまったみたいです」

「さすがに同じ問題を何回も起こしてしまうのはよくないので、今回は根本的な解決策を考えていきたいです」

「我々だけで考えるには限界があるかもしれない。たとえば、もしこの問題をお客さまの視点で考えるとしたら、何を対策してほしいと思うだろう?

「お客さまからみれば、今回のトラブルはケアレスミスでしかないので、こういった簡単な間違いを起こさない仕組みを期待するんじゃないでしょうか?簡単なミスばかりしていると信頼されなくなりますからね」

「信頼されるために何ができるんだろう? そもそもこの問題が絶対起こり得ない状況を作れないだろうか?」

視点を変える質問は、チームの閉塞感をうちやぶる力を秘めています。もしお客様だったら? 部長だったら? 上司だったら? 優れたチームだったら? スーパーエンジニアだったら? と考えることで、チームの思考の枠組みを壊して、新たな視点やアイデアを得ようとします。

時間を変える質問

次に、時間を変える質問を見てみましょう。先程の例に、時間を変える質問を加えてみます。

「今回のこの問題は前にも発生したことがありますね」

「前回のふりかえりで対策をうったつもりでしたが、残念ながら再発してしまったみたいです」

「さすがに同じ問題を何回も起こしてしまうのはよくないので、今回は根本的な解決策を考えていきたいです」

もし、タイムマシンで問題が起きた時間の前にもどれるなら、何をするだろうか?

「もう一度やり直せるなら、ミスの起こりやすいところをダブルチェックします」

「ダブルチェックがだんだん手間やミスにつながりやすそうだから、並行して手順を自動化したらいいんじゃないだろうか?」

トラブル対策やポストモーテム(トラブルのふりかえり手法)の現場において、この「タイムマシン」を使う質問はかなり有効です。もう一度やりなおすことはできないのですが、その時点、その場に戻ることで「もっとできたこと」を考えられるようになります。トラブルなどは、過去に戻ることで対策をイメージしやすくなります。

逆に未来に進むこともできます。

もし、この対策がうまくいったら、将来われわれはどういうふうに働いているだろうか

「そりゃ、この問題がなくなると時間もできるし、心にも余裕ができるので、より顧客が喜ぶ機能開発に集中できますよ」

過去への質問と未来への質問の違い

過去への質問は、過去の失敗や問題と向き合う質問になります。これはこれで悪くはないですが、問題が「誰か」になってしまったり、掘り下げるのが苦痛でうまくコミュニケーションが取れなくなったりする可能性が高まります。誰だって、過去の失敗を思い出したくなどないからです。

一方で、未来への質問は、過去のネガティブではなく未来のポジティブに向き合えます。未来を照らし、理想の状態を考えることで、そうなりたいという希望が生まれるからです。未来が今の自分のモチベーションに繋がります。

筆者の場合、トラブルの原因究明以外は、未来を考える質問を繰り返すようにしています。原因究明は原因を特定しなければならないので、過去を掘り下げていくしかありません。

しかし、それ以外の課題であれば、未来を照らしてあるべき姿を探す方法が有効だと感じています。未来の話だけをするようになって数年立ちますが、今のところ大きな問題は起きていません。

リソースの確認となる質問

リソースとは資源を指します。チームや個人が持っている資源を有効活用するなら、リソースの確認となる質問が有効です。以下の例を見ると、この質問の効果がよく分かるはずです。

「今回発見したこの課題は、うちのチームで解決するのは難しそうだ」

「経験者がいないし、スキルセット的にもマッチしない課題ですからね」

でも、社内にこの技術を使っている部署はあるだろうから、その人達に相談してみてはどうだろう?

「たしかに。◯◯のチームが前に社内勉強会で事例発表していたから、早速聞いてみようか」

新しい技術など、職能横断的なチームでも対応できない状況は多くあります。本来は自分たちですべて解決できればいいですが、それが難しいなら、専門家に相談しましょう。その道に詳しい専門家を知っているだけでも、プロダクトやチームに貢献できます。

リソースには、人、環境(例:社内にeラーニングがある)、お金(例: 予算を持っている)、経験などがあります。目的を達成するために、使えるものはどんどん使い、使えそうなものはどんどん使えそうかを確認していきましょう。

オープン・クローズドな質問

ここまではいろんな種類の質問を紹介しましたが、オープンクエスチョンやクローズドクエスチョンといった、特性の異なる質問方法もあります。オープンクエスチョンやクローズドクエスチョンの例を以下にまとめます。

  1. オープンクエスチョン
    1. あなたはどう思いましたか?
    2. 今の我々にはどういった選択肢があるのでしょうか?
    3. 自由な発想をするなら、何が思い浮かびますか?
  2. クローズドクエスチョン
    1. AとBどちらにしましょうか?
    2. つまりこういうことでしょうか?
    3. これはあなたのタスクですね?

文字通り、オープンな質問は回答の幅が広いことがわかります。自由なアイデアを発想したいときはこちらがマッチします。相手の思考を刺激するコーチングでは、こちらの質問が多くなります。

一方で、クローズドクエスチョンは、選択肢が絞られてしまいます。しかし、議論を広げたいときには不向きですが、広げた議論を収束させたいときに使えます。また、要約してあげることで相手の思考が整理されるケースもあります。

チャンクダウン・チャンクアップ

チャンクは塊を意味します。チャンクダウンは大きな塊を小さくくだいていくプロセスで、チャンクアップは小さなものを大きく組み立てていくプロセスになります。

たとえば、「自然を守るには?」というテーマで議論する場合、テーマが大きすぎて次の一歩が踏み出しにくくなります。よって、チャンクダウンして、もう少し議論の幅を狭めてもいいかもしれません。

自然を守るには? > 自然だと広すぎるからテーマを森林に絞ろう > 森林の中でも大きな問題になっている山火事について話してはどうだろうか?

逆に細かすぎるテーマだとチャンクアップになります。

うちらのチームで起きているパフォーマンスの問題について話したい > そもそもパフォーマンス問題が起きているのが社内のクラウドインフラなので、我々だけの問題なのだろうか? > そういえば他チームでも似たような状況が増えてきたと聞いている > それなら一度、クラウドインフラのチームに相談してみようか。

今回は、コーチングの中でも質問について深掘りしました。さまざまな視点や形の質問ができることがわかると思います。こういった質問力を高め、引き出しにたくさんレパートリーを集めておくと、アジャイル開発の現場で柔軟にふるまえるようになります。

次回は質問技術の中でも、より上級者向けの「質問」について解説します。

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SQRIPTER

藤原 大(ふじはら だい)

スーパーアジャイルコーチ、株式会社せかい 代表取締役

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スーパーアジャイルコーチ、エンジニアリングマネージャ、『リーン開発の現場』の翻訳者のひとり。創造的、継続的、持続的なソフトウェア開発の実現に向けて奮闘中。週末に娘と息子とお昼寝しながら世界のビーチや離島を旅する夢を見る。

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