実践1on1 〜 簡単だけど難しい1on1

ソフトウェア開発の世界では、アジャイル開発やスクラムが一般的になってきました。そのアジャイル開発のコアとも言えるのが、対話や協調です。この連載では、アジャイル開発におけるコミュニケーション・コラボレーションスキルを解説しながら、ファシリテーションスキルのレベルアップを目指します。

第8回目のテーマは「1on1」です。

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実践1on1[1] 〜 簡単だけど難しい1on1
実践1on1[2] 〜 コミュニケーションの方法を使い分けよう!

前回のおさらい

前回までは、ファシリテーション、コーチングと解説してきました。この連載で紹介する最後のコミュニケーション方法は「1on1」です。

1on1は、今ではよく使われる方法ですが、学びにくい方法とも言えます。そういった理由と学び方、使い方をここでは解説したいと考えています。

心理的安全性のための対話

心理的安全性を生み出すための対話
心理的安全性を生み出すための対話

我々は会話だけでなく、討論、議論、対話とさまざまな方法で相手と情報交換します(参考: 誤解されがちな議論と対話の違い|CULTIBASE Radio|Management #6)。

会話や雑談は、お互いの印象を良くする効果があります。特に理由なく「天気がいいですね」なんて言いません。なにかしらのつながりを求めて会話を行っているはずです。

討論はどの主張が正しいかを決めるもので、議論は意思決定を行うためのものです。どちらも結論を求めるので、勝負をつけるためのコミュニケーションと言えます。

ファシリテーションの回でも解説しましたが、現在は多様な個性が集まるため、正解のない世界が広がりつつあります。この世界ではなかなか白黒つけられません。しかし前に進まなければならない現実もあります。

このときに役立つのが対話です。

対話によってお互いの主張や考えを明確にして、心理的安全性を高めていきます。

対話とは何か?

対話はお互いをわかり合うためのツールです。簡単にまとめると

  1. 私はこういう考え方をしています。
  2. あなたはこういう考え方をしています。
  3. お互いの考え方には違いがあります。

という情報交換になります。お互いの情報を交換し、その違いを理解するだけですが、交換により新しい情報を双方が得ます。これによって、相手の理解が深まり、選択肢が広がり、勝ち負けでは決められない物事を前に進める準備ができます。

そして、我々はこの状況を踏まえて、結論を出さなければなりません。お互いのことを理解した状態を作り、それを踏まえた上でどうするかを決める必要があるのです

このあたりはリーダーシップの話にも通じるため、ここでは深く説明しませんが、対話によって対話後の議論が少しスムーズになります。対話の実践例を以下に紹介します。ここでは「関係性がうまくいっていない二人」に対して対話を促しています。

Aさん「私はあなたの◯◯がとても嫌だと思っている」

Bさん「私こそあなたの□□を不愉快に感じています」

私「お互いにそう思っていることがわかりましたね。では、このわかった情報をふまえて、もう一度相手のことをどう感じるか教えてください」

Aさん「・・・。相手もそう思っているとは思わなかった」

Bさん「こちらも相手が同じように思っているように思わなかった」

私「また理解が進みましたね。では繰り返し、この情報を踏まえて・・・(繰り返していく)」

お互いがお互いを100%理解するのは不可能です。なのに、我々は「理解したつもり」になりやすい。はじめのうち、それは小さなすれ違いでしかないかもしれませんが、のちに大きな間違いを生み出していきます。よって、このような対話を活用し、お互いが歩み寄り、解決策への協力体制を築いていきます。

1on1と対話

1on1は、対話を中心に相手の成長を支援する方法です。主に人材育成の手段として使われ、企業内だと上司部下の関係性の中で成果を追求していく方法と言えます。

上司と部下という特性上、コーチングのようなパートナーシップを作るのは難しいですが、リーダーやマネジメントのあり方が変化している時代にあわせて、マネジメントとメンバー間に対等な関係性を作ろうとする企業も多くなってきました。「マネージャ = 管理・偉い」 といった価値観も「マネージャ = 支援・対等」へと変わろうとしています。

対等な関係性を意識するため、1on1は基本的に部下が話したいことを話す時間になります。ただ、1on1の特性上、成果を求めるものになるので、1on1をやる意味や、期待する成果や効果は、1on1をはじめるまえに合意しておきます。そうすることで、1on1がただの雑談になるのを防ぎ、期待する成果を出すための場に変わります。

1on1で話す内容は守秘義務によって守られています。安心安全な場を作るために、1on1で話した内容はお互いに他言すべきではありません。中には共有した方がいい情報も出てきます。そういった場合は、双方合意の上で共有します。

くりかえしになりますが、1on1は対話によってお互いの理解を深めていきます。しかし、上司として、時にはコンサルタントとしてアイデアを提供したり、ティーチャーとして解説したり、コーチとして支援したりと、さまざまな帽子をかぶり、かぶりなおしながら対応していくケースも多いでしょう。

そのためには、さまざまなコミュニケーション方法の理解が必要です。理解だけでなく、実践経験も積まなければなりません。1on1は簡単にはじめられるツールですが、扱うのが難しいツールとも言えるのには、こういった理由があります。

1on1のフォーマット例

スクラムマスターだとあまりないかもしれませんが、アジャイルコーチだとスクラムマスターやアジャイルチームを育成する場合があります。筆者の場合、そういった育成に1on1を活用しています。

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SQRIPTER

藤原 大(ふじはら だい)

スーパーアジャイルコーチ、株式会社せかい 代表取締役

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スーパーアジャイルコーチ、エンジニアリングマネージャ、『リーン開発の現場』の翻訳者のひとり。創造的、継続的、持続的なソフトウェア開発の実現に向けて奮闘中。週末に娘と息子とお昼寝しながら世界のビーチや離島を旅する夢を見る。

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