![実践1on1[3] 〜 相手に合わせたコミュニケーション方法とは?](https://sqripts.com/wp-content/uploads/2024/10/fujihara_20241010_thumb_01-1024x538.png)
ソフトウェア開発の世界では、アジャイル開発やスクラムが一般的になってきました。そのアジャイル開発のコアとも言えるのが、対話や協調です。この連載では、アジャイル開発におけるコミュニケーション・コラボレーションスキルを解説しながら、ファシリテーションスキルのレベルアップを目指します。
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・実践1on1[2] 〜 コミュニケーションの方法を使い分けよう!
・実践1on1[3] 〜 相手に合わせたコミュニケーション方法とは?
・実践1on1[4] 〜 実例をもとに1on1をレベルアップ
・【最終回】さらなる成長のためのコミュニケーショントレーニング
第3回目のテーマは、1on1においてコミュニケーション方法を使い分けるために「コミュニケーションのタイプ」を学びます。
前回のおさらい
前回はコミュニケーションの方法について解説しました。
- コンサルティング
- ティーチング(トレーニング・メンタリング)
- カウンセリング
- ファシリテーション
- コーチング
- 1on1
それぞれ特徴があり、使い分けができることがわかりました。
今回はこれらの方法の使い分け方を解説します。
コミュニケーション相手別の使い分け
私はアジャイルコーチとして働いていますが、コーチングだけでなくコンサルティング(可能な限り現段階でのベストプラクティスを提供する仕事)も行っています。
たとえば、ITに詳しくない方や、新卒で社会人になったばかりの方に対しては、コンサルティングやティーチングが有効です。なぜなら、まだ知らないことが多いため、課題と解決策の間に大きなギャップがあり、なかなかゴールにたどり着けない状況になりがちだからです。
逆にCTOやエンジニアリングマネージャなど、相手のITスキルが高い方の場合はどうでしょうか? 彼らは私に負けない知識や経験を持っている可能性があります。下手をすれば私より詳しいかもしれません。あるいは、知識や経験がなくても、それを身につけるポテンシャルを持っているかもしれません。この場合、コンサルティングやティーチングによって、学べる機会を奪ってしまう可能性もあります。
そういった人たちに「コンサルティング」や「ティーチング」は有効に機能しません。
こういった問題を避けるために、相手や課題の領域によって、コミュニケーション方法を変えていく必要があります。

コミュニケーション方法の変化についてまとめたのが上記の図です。代表的な3つの方法をベースに解説します。
まず、コンサルティングは解決策を伝える方法なので、未経験者やすぐに解決策が欲しい人に対して有効な手段です。デメリットをあえてあげるなら、学ぶ機会が失われます。
次に、ティーチングやトレーニングは、新しい方法やスキルを学ぶ効果的な手段です。残念ながら、誰でも有効的に学びを得られるわけではなく、学べばスキルを身につけられる人にマッチする方法と言えます。参加するだけでは得られないことも多く、学ぶ姿勢や学びをのちに活用できるスキルが必要です。
最後のコーチングは、相手の中に答えがあるのが前提となるため、あくまで相手が答えを見つけるための支援を行う方法です。支援と入っても、助けるのではなく、一緒に答えを見つけていく伴走型の方法になります。よって、未経験者にコーチするよりも、経験者や自律して考えられる人に対して行うケースが多くなります。
このように、相手の経験やスキルによって、コミュニケーション方法を使い分けて対応していくのが効果的です。相手が求めるものに対して、適切な方法を選ぶのがプロフェッショナルなコミュニケーションの使い手と言えます。
余談ですが、前回でも解説した通り、1on1はコミュニケーション方法を、相手や状況に合わせて使い分けるコミュニケーション方法です。よって、最低限でも上記3つの方法を理解し使いこなせるようになる必要があり、相手や状況に合わせてうまく切り替えながら、クライアント(部下)に成果を出させなければなりません。
さまざまな方法を知るだけでなく、成果も出さなければならないのが1on1が難しい理由のひとつだと思います。
コミュニケーションタイプ別の使い分け
相手の経験やスキルによって、コミュニケーション方法を使い分ける必要性を解説しました。もうひとつ考えておきたいことがあります。それは、コミュニケーションのタイプです。
コミュニケーションのタイプについては、有名なもののひとつにDiSC理論(参考: DISC assessment ‐ Wikipedia)があります。これはアメリカの学者が提唱したコミュニケーション理論で、おおきく4つのタイプに分類しています。
支配タイプ(D: Dominance)は、問題を克服するために、積極的に力を利用するタイプです。いわゆる従来型のリーダータイプで、チャレンジ精神が旺盛で、成果を追い求める傾向があります。
感化タイプ(i: influence)は、問題を解決するために、人をうまく操るタイプです。持ち前の社交性を活用しながら場の雰囲気を読み取り、着地点をうまく見つけるスキルが高いタイプと言えます。
提案タイプ(S: Submission)は、問題解決のアイデアを受け入れ、決まったことに対しては従順に遂行していくタイプです。協調性が高いため、コミュニケーション相手の立場に立って物事を考えてくれるタイプと言えます。
コンプライアンスタイプ(C: Compliance)は、ロジカルに物事を考えるタイプです。計画を重視し、法令や規則、ルールを厳守します。少し堅いイメージがありますが、慎重に物事を進めてくれる安心感があるタイプと言えます。
血液型占いと同じく、すべての人類が4つのタイプに分けられるわけではないですが、大きく分類することで、それぞれの特徴に合わせたコミュニケーション方法を考えられます。それぞれのタイプ別のコミュニケーションを見てみましょう。
支配タイプへのコミュニケーション
支配タイプは、ぐいぐい進むリーダータイプです。遠回しな表現よりも、単刀直入なコミュニケーションを好む傾向があります。
支配タイプは、細かい点を気にしないので、アクションをゼロから考えるよりも、選択肢をいくつか提示して議論したほうが物事が進みやすくなります。内容が曖昧だと「つまりどういうこと?」となりがちなので、解像度の低いものを持ち込むより、精度が高めのものを持ち込む方が良いでしょう。
支配タイプに何かを伝えたいときはどうするのがよいのでしょうか? たとえば、細かい点を気にしないので、要点だけを伝える方法があると思います。また、誰かに指示されるよりも自分でリードしたいため、「まかせる」と裁量を大きく与えるのもひとつの手でしょう。
感化タイプへのコミュニケーション
社交性の高い感化タイプは、時代や流行にも敏感で、アイデアをどんどん出していくコミュニケーションを得意としています。よって、相手が出してくる情報をどんどん承認すると(頷いたり関心を持つ)、パフォーマンスが上がっていく可能性があります。
何事もポジティブに受け止めてくれる感化タイプですが、逆に細かい点が苦手なので、支配型から見ると「よくしゃべるけど、結局何がしたいの?」となりがちです。また、細かい点を議論するより、広い視点での議論のほうが盛り上がります。
感化タイプに何かを伝えたいときはどうするのがよいのでしょうか? 影響力を気にするタイプなので、先にも書きましたが承認を多く行うことが効果的です。いわゆる褒めて伸びるタイプと言えます。逆に、人前で怒られるのが苦手なので、悪いフィードバックは個別に伝え、今後への期待も添えて伝えるといいでしょう。
提案タイプへのコミュニケーション
協調性の高い提案タイプは、衝突をできるだけ避けて物事をすすめるのが得意です。聞くのが上手なので、感化タイプとの相性はとても良いでしょう。
物事を平穏に進めるスキルは高いと言えますが、ディスカッションやディベートといった議論をぶつけるやりとりが苦手です。安定性を求める傾向があるので、チャレンジングな支配タイプが苦手になるかもしれません。
提案タイプに何かを伝えたいときはどうするのがよいのでしょうか? 協調性の高さから自分の意見が言えていない可能性があるので、何かを決める場合、じっくり何回も確認するのが良いでしょう。相手のことを感じ取る能力に優れているため、こちらからも積極的に言葉をかけたり、しっかり反応したりするふるまいがマッチします。
コンプライアンスタイプへのコミュニケーション
コンプライアンスタイプは、計画性が高く、正確に物事を進めるのが得意です。じっくり作戦を練り、確実に成功する方法を選ぼうとします。
逆に言うと変化に弱いと言えます。頭で理解できないと前に進めない傾向もあり、チャレンジングに進めようとする支配タイプとの相性は悪いかもしれません。
コンプライアンスタイプに何かを伝えたいときはどうするのがよいのでしょうか? 曖昧な言葉を使うより、具体的な言葉を使ったほうが伝わるでしょう。感覚に任せて話すより、ロジカルにロジックを積み上げるほうが共感されます。すぐに結論を出すのが苦手なので、関連するデータや事例を集めて提示するほうが納得感を持ってくれるでしょう。
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今回は、具体的なコミュニケーションの使い分け方法を解説しました。経験やスキルに合わせて方法を変えたり、相手のタイプによって使い分ける方法を紹介しました。
コミュニケーションタイプの分類は、今回紹介したDiSC理論だけでなく、いろんなものが存在します。
- 【図解】「タイプ分け™」とは 〜あなたはどのタイプ?タイプ分けで上手くいくコミュニケーション – HELLO, Coaching!
- あなたは何タイプ?コミュニケーション上手になるための4タイプ診断法 – リクナビNEXTジャーナル
相手だけでなく自分のタイプを見分けることにも利用できます。自分のタイプが分かると、苦手なタイプが分かり、対策を打ちやすくなるからです。
次回は実践例を参考に1on1のレベルを高めていきましょう。
連載一覧
・#イントロダクション:優れたスクラムマスターが絶対に言わないこと【連載初回、全文公開中】
・あなたの提案はなぜ受け入れられないのか?|ファシリテーション技術-1-
・よりよい場を作るための9つのルール[前編]|ファシリテーション技術 -2-
・よりよい場を作るための9つのルール[後編]|ファシリテーション技術 -3-
・コーチング技術 〜 基本技術を学ぼう|コーチング技術 -1-
・コーチング技術 〜 質問力を高めよう|コーチング技術 -2-
・上級者が活用する質問例|コーチング技術 -3-
・実践1on1[1] 〜 簡単だけど難しい1on1
・実践1on1[2] 〜 コミュニケーションの方法を使い分けよう!
・実践1on1[3] 〜 相手に合わせたコミュニケーション方法とは?
・実践1on1[4] 〜 実例をもとに1on1をレベルアップ
・【最終回】さらなる成長のためのコミュニケーショントレーニング

