私は仕事柄、所謂炎上プロジェクトの火消しや、前任PMが胃潰瘍で離脱して…といった「修羅場」をなんとか制御してクローズまで持っていくといった役割を担うことが多くあります。
ここで質問です、プロジェクトを成功させるには
- 炎上プロジェクトを鎮火する技術
- プロジェクトを炎上させないようにする技術
どちらが大切だと思いますか?
1は火消しの技術が求められ、燃えている事や人を助けて、どうにかこうにかプロジェクトを纏めあげるテクニック。対して2はそもそもプロジェクトが炎上しないように先手を打ってコントロールするテクニックです。
炎上案件には社内の関心が集まり、立て直しがフォーカスされ、エース級やカネも投入、うまく鎮火されたなら盛り上がりもする「目立つ」プロジェクトです。他方、比較的スムーズに進むプロジェクトは目立たない存在です。要求事項を整理し、QCDを守って予算通りに納品しても「はい、OK」となって、大きな事象を発生させなかった、という功績はクローズアップされません。ですが、本当に現場に求められ、プロジェクトが成功したと言えるのは2です。
火消しは派手で目立ちますし、高難度で重要なテクニックです。同じように、火を起こさないように見守っては火種を消してゴールすることは、往々にして目立たず疎かにされがちですが、その実践には多様なテクニックと理論・工夫が散りばめられています。
本連載ではプロジェクトマネジメントの全体像とプロジェクトを成功させる上で最低限抑えるべき知識と技術はもちろん、プロジェクトを炎上させないための技術やコツをお伝えしたいと思っています。みなさんのプロジェクトが今以上に充実し、笑顔でプロジェクト終結を迎えられるよう一緒に学んでいきましょう。
<参考と準拠>
本連載はプロジェクトマネジメントの国際規格であるISO21500:2012及びプロジェクトマネジメントの業界標準資格であるPMP® (Project Management Professional)に準拠しながら、筆者の整理を加えた内容で記載しています。加えて、プロジェクトマネジメント講師としての経験や、プロジェクト現場で実行支援を行う中で得られた「実践的」なノウハウを盛り込んでいきたいと考えています。
<プロジェクトマネジメント成功の技術 連載一覧>※クリックで開きます
【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]
プロジェクトとは、プロジェクトマネジメントとは
プロジェクトの語源
「プロジェクト」の語源はラテン語で、PRO=前方に(未来)、JECT=投じる、投げるという意味があります。仕事でいえば、まさに前にある未来の目標に向かってアクションを投じていく姿そのものがPROJECTという単語のありようになります。
プロジェクトとは
プロジェクトは「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する、有期性のある業務」と定義され、特に有期性・独自性という点がプロジェクトの特徴と言えます。
独自性とは「新しい要素(過去に経験したことがない要素)が含まれる目的や目標」を指しますが、なにもまったく初めて!という大層なものである必要はありません。有期性とは「開始日と終了日が明確になっていること」であり、その期間において成果物を生み出す活動を行います。この2つの要素が入っていれば、たとえ「XXプロジェクト」と銘打たれていなくてもプロジェクトの性質を持ち、当然プロジェクトマネジメントの知識や技術を適用させることができます。プロジェクトと聞くと大規模インフラ事業やIT業界を想像することが多いですが、日々の業務或いはプライベートの活動の中にもプロジェクトは存在しています。例えば旅行の計画や引越し、就職活動なども独自の目的と期限を持つプロジェクトと言えるでしょう。また近年、企業や組織はその厳しい環境変化から絶えず独自性が求められるようになっており、規模や業界に関わらず様々な業務がプロジェクト化しています。
プロジェクトマネジメントとは
だれもが日常的にプロジェクトの参加者であるならば「改めてプロジェクトマネジメントを知る必要なんてあるのか?」「なんとなくできるから(できそうだから)大丈夫」というとそうではありません。プロジェクトを「マネジメント」することは、プロジェクトを「その技術や経験を適用しながら、適切にヤリクリ(マネジメント)」する必要があるからです。
プロジェクトマネジメントとは「プロジェクトの要求事項を満足させるために方法、知識、スキル、ツールと技法をプロジェクト活動へ適用すること」と定義されます。つまり、プロジェクトをどのように遂行するか計画を立て、プロジェクトの目的を達成できるようにコントロールしていくことです。またプロジェクト目標は未来にあるため、常に「不確実性」が存在します。その不確実性の中でいかに「目的・目標の達成確度を高める」か、その準備をしておきましょう。何のマネジメントもしなければ、プロジェクトは100%失敗します。
またプロジェクト実行時に適切な手法や方法を用いず実現可能性の低い目標設定を行う、適切な計画ができないということも起こりえるでしょう。適切なプロジェクト実行に関する技術や技法は、プロジェクトの円滑な活動の必須要素です。
プロジェクトやマネジメントの実務経験がある方でも、さらにその活動精度を高めるために、引き続き意識してそのプロジェクトマネジメントスキルを高めていっていただきたいと願っています。
プロジェクトマネジメントと定常業務マネジメント
プロジェクトは「期限」を持つ有期的な活動です。その対の関係にあるのは定常的な業務、つまり無期的な活動です。
企業はこの有期的な活動と無期的な活動、2つの活動の組み合わせにより価値を生み出しながら事業運営を行なっています。
プロジェクト完了後はその活動から生み出したものを「定常業務化」つまり安定的に運用できるように受け渡します。「プロジェクトが終了したけれど、ずるずるタスクが残っている」「定常業務化したはずがうまく回らない」といことをよく耳にしますが、これらの受け渡しがが上手くいっていないケースです。プロジェクト→定常業務という流れと定着化を意識して各活動を進めましょう。
プロジェクトにおける制約と不確実性
プロジェクトは独自であるが故に情報や経験が十分でないにも関わらず、期限までに約束した成果物等を完成させなければなりません。プロジェクトが向き合う「敵」とも言えるのはこの不確実性であり、プロジェクトマネジメントの本質は「不確実性の中で活動をヤリクリすること」と言えます。
プロジェクトには多くの制約条件がありますが、中でもQCDが三大制約条件と言えます。この制約条件をマネジメントすることがプロジェクト成功の鍵です。また不確実性も確率論的な不確実性、曖昧さによる不確実性、複雑さによるものなど様々です。残念なことにこの不確実性の検討(洗い出し)や対処が後回しや、行われないことが少なくありません。不確実性の検討は容易な作業ではありませんが、それ以上に「もしこんなことが起きたら大変だ」と想像力を働かせ「正しいマイナス思考」を受け入れる体制が必要です。
プロジェクトでは制約や不確実性に対応する「完全な正解やマニュアル」は持っていません。プロジェクトの開始前から制約条件に優先度を付けたり準備することや、時には「実現不可能なプロジェクトを開始しない」という判断も必要になることを覚えておいてください。また、不確実性への対処は「リスクマネジメント」の回で触れていきます。
プロジェクトマネジメントのライフサイクル
プロジェクトマネジメントの手法として代表的なのものが予測型ライフサイクルと呼ばれるウォーターフォール型(WF)適応型ライフサイクルと呼ばれるアジャイル型の2つです。そのほかに反復型・斬新型・ハイブリット型などがあります。
ウォーターフォール型は、プロセスやタスクを初期に計画した順番で完了させ、成果物を生み出す手法です。比較的長期のプロジェクトや明確な成果物がある場合に使われます。
アジャイル型は、優先的な機能や成果物を選択しながら2-4週間の短い期間で完成、その繰り返しで成果物を生み出す手法です。日本全体ではまだウォーターフォール型開発がマジョリティとして使われており、「これから」プロジェクトマネジメントを学ぶという方はこれらウォーターフォール型から習得するとよいでしょう。
プロジェクトの環境(組織のプロジェクトマネジメント)
複数のプロジェクトを運営して様々な経営課題の対処や戦略実現を目指す際に、それらを効率的にマネジメントする体制として「プログラム」や「ポートフォリオ」があります。
プログラムとは複数の関連するプロジェクトや活動のグループです。ポートフォリオとは一般的に複数のプログラムやプロジェクト、活動のグループを指します。これらのグルーブにおけるマネジメントをそれぞれ「プログラムマネジメント」「ポートフォリオマネジメント」と呼びます。それぞれの効率的なマネジメントとなるように、プロジェクトやプログラム、その他の活動は組織戦略と整合が取れているか、プロジェクトやプロジェクトの成果は戦略目標達成に貢献しているか、作業状態の確認、限られたリソースの状況下でプロジェクトの優先順位を明確にし、整合のとれたリソース配分などを行います。
プログラムの性質
プロジェクトマネジメントが普及する中で、さらに複雑な概念であるプログラムが注目されています。プログラムとは複数の関連するプロジェクトや活動のグループとお伝えしたように、プロジェクトとプログラムは共通点がありますが異なる特徴も持っています。例えば
- 反復型の活動が含まれる場合があり定常業務に近い性質を持つ
- プロジェクトは目的の成果物を生み出したらその使命を終え解散するのが原則だが、プログラムはかならずしもそうではない
などです。プログラムが解散するのはいつかとういうと、持っている戦略的な部分、目標自体が新しい目標に上書きされてプログラム自体の使命を終えた場合か、目標を達成する仕組みが完全に社会や市場、システムに定着して、これ以上の監視が必要なくなったような場合です。このように成果の実現だけでなく、その維持・管理にも使命を負うというのがプログラムの特徴の一つといえます。またそもそもプログラムには有期性が怪しいものがあります。プログラムでも通常は目標達成時期が決められていますが、プロジェクトと比較すると大変緩やかで「期限」と呼べるほど強い制約事項ではないケースが殆どです。
担当するプロジェクトの環境を確認した時、どのプログラムやポートフォリオに属しているか、あるいは属していないか、属している場合はプログラムマネージャーやポートフォリオマネージャーとの連携を図りながらプロジェクト活動を推進することが必要です。
さいごに
今後はリモート環境でのプロジェクトがスタンダードとなりグローバルプロジェクトの割合も増えていく中で、プロジェクトマネジメントという「共通言語としてのフレームワークや方法論」の重要性はより高まります。当然市場や社会情勢の変化の激しさに合わせて、プロジェクトマネジメントの方法論もアップデートが続いていくでしょう。まずは基本を押さえて、日々のプロジェクト、プロジェクトマネジメント活動へ適用しましょう。
今回は初回として、プロジェクトマネジメントとは何か?という大枠をみなさんと共有しました。
次回は、「PMの役割や必要な準備」についてお話しします。
連載一覧
【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]