
本連載ではプロジェクトマネジメントの全体像とプロジェクトを成功させる上で最低限抑えるべき知識と技術はもちろん、プロジェクトを炎上させないための技術やコツをお伝えしたいと思っています。
みなさんのプロジェクトが今以上に充実し、笑顔でプロジェクト終結を迎えられるよう一緒に学んでいきましょう。
第3回となる今回は、ステークホルダーとの関わり、ステークホルダーマネジメントの重要性についてお伝えします。
<プロジェクトマネジメント成功の技術 連載一覧>※クリックで開きます
【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]
ステークホルダーマネジメントの重要性とその高まり
PMBOK第5版(2012)から「ステークホルダーマネジメント」という項目が独立して記載され、その影響と管理の重要性が改めてフォーカスされました。PMBOKでは1996年以降マネジメント領域の新設は一度もなかったため、世界的にステークホルダーマネジメントに注目が高まっていることがわかります。
ステークホルダーとは
ステークホルダとは一般的に「利害関係者」と訳します。もともと「株主」を示す経営用語から、今では企業経営やプロジェクトを取り巻いて影響を与えあう意味での利害関係者(従業員から、取引先、PJ結果の影響を受ける個人など)を広域に指すようになりました。PMBOKでは「プロジェクト、プログラム、またはポートフォリオの意思決定、活動、もしくは成果に影響したり、影響されたり、あるいは自ら影響されると感じる個人、グループ、または組織」と定義しています。※1
プロジェクト活動においてさらにステークホルダの存在やマネジメントの必要性が増している理由として、
- プロジェクトが高速化している
- 多様化するプロジェクトで利害関係が複雑化している
こと等が挙げられます。プロジェクト憲章が承認され、PMの任命とチームが形成される「立ち上げ段階」で、いかに早くステークホルダーを特定して、後述する「エンゲージメント」のプロセスを準備/開始できるかがプロジェクト成功の鍵といえるでしょう。
「エンゲージメント」とは絆づくり
ステークホルダーマネジメントでは「エンゲージメント」という言葉が使われます。
エンゲージメントは「約束、婚約、社員の愛着心、ブランドと消費者の絆」など業界ごとに対訳が異なりますが、筆者は人事労務分野用語に近い「絆、望んで協力する愛着」といったイメージが近いと考えています。ステークホルダと絆を育んで、プロジェクトに愛着を持ってその成功に力を貸して貰えるよう、PMは活動を続けていかなくてはなりません。
ステークホルダーマネジメントの進め方
では、どのようにしてステークホルダーをマネジメントしていくのでしょうか?
ステップ①:プロジェクトのステークホルダーを特定し、分析する
ステップ②:どのようにステークホルダーとエンゲージメントするか(できるか)計画を立てる
ステップ③:ステークホルダーと継続的な関わり合いを開始し、エンゲージメントに努める
ステップ④:エンゲージメントの状態を確認し、その状態を維持したり向上させられるように対応する
プロジェクトにおいてステークホルダー対象者は多岐に渡ります。また当然各ステークホルダーの関心ごとは異なります。一元的にマネジメントしようとするのでは、ステークホルダーと絆を育み、プロジェクトへの愛着や支援を受けられる「エンゲージメント」状態にできるはずがありませんね。まずは「プロジェクトのステークホルダーは誰(何)だろう?」と考え、ステークホルダーの関心、関与、相互依存などプロジェクトの成功に対して「潜在的に影響する部分」の情報をしっかり収集/整理しましょう。次に整理した情報を元に「ステークホルダーにどう関われば(関わって貰えば)プロジェクトが成功に近づくか」計画を立てます。
ステップ③ではエンゲージメントの具体的な活動として、ステークホルダーとコミュニケーションを取り協業していきます。プロジェクトが進むにつれ、ステークホルダーの状態も変化すると考え、定期的にプロジェクトとステークホルダーとの状態を見直すことも忘れません。
ステップ①:テークホルダーを特定する
漏れなく行いたいステークホルダーの特定
ステークホルダーをマネジメントするためには、当然そのプロジェクトにおけるステークホルダーを特定(把握)しなければなりませんね。その際は、社内と社外の両方を考慮するようにしましょう。慣れない内は特定作業を難しく感じるかもしれません、そんな時は「事業構造、プロジェクト体制、顧客(ユーザー)中心」など検討の起点や枠組みを決めてから考え始めると良いでしょう。
- プロジェクトに影響を与える(持つ)人は誰だろう?
- プロジェクトが影響を与える人は誰だろう?
- プロジェクトを承認(拒否)できる権力者は誰だろう?
- コスト(等)を出してくれる人は誰だろう?
- プロジェクトに必要な知識(ナレッジ)を授けてくれるのは誰だろう?
ステークホルダーの特定は近視眼的にならないこと、つまり自分と直接関わる人や物事だけにフォーカスしないことが大切です。例えばプロジェクトが進んでリソースが枯渇した場合やシステムリリースが他のプロジェクトとコンフリクトしたしてしまった、という場合は他PJのPMやPMOとの連携/協力が欠かせないので、彼らもステークホルダーとなり得ますがその対象から漏れがちです。見落としがあって「後からステークホルダーが見つかる」場合、その対象者の持つ影響度によってはプロジェクトにマイナス(リスク)として作用する可能性がありますので注意しましょう。
ステークホルダーを分析する
ステップ①ではもう一つ大事なプロセスがあります、それは特定したステークホルダーを「分析」することです。分析といっても難しいことはなく、ステークホルダーマネジメントを計画、実施するための整理だと考えましょう。
ステークホルダー分析には以下のようなマッピングでステークホルダーを分類・分析する方法があります。※2 ここでは「権力と影響度」と「関心度」という軸、「高」と「低」というレベルを設けて2×2のマトリックスにステークホルダーを分類して表現します。この方法は比較的小規模なプロジェクトやあまり複雑でないコミュニティ関係を持つプロジェクトに適していると言われますが、まずはこの方法から初めてみることをお勧めします。
※この軸は影響×関心の2軸にしていますが、プロジェクトによってパターンや内容を変えてもいいと思います。何かしらの軸を持つことで個人の判断で恣意(しい)的に決めたのではないという合理性を持たせることが大切です。

例えば、、、
プロジェクトスポンサーの田中さんはプロジェクトへの権限を持っていて影響がある、そしてプロジェクトへの興味関心も高いので影響度高×関心度高に配置してみよう。財務部はプロジェクトに対する権限こそないが、あまりコストをかけて欲しくないことからプロジェクトへの興味はありそうだ、もしかすると後半になって何かコスト的な指摘がはいるかも知れないな、と分析し影響度低×関心度高に配置しよう。と、このように分析/可視化することで、今後プロジェクトとして各ステークホルダーへの接し方や対応優先順位を明確にしていくことができますね。
マトリックスに対する標準的な対応方針
マトリックス上で可視化されたステークホルダー分析に対して、標準的に以下のような対応をとります。また、全てのステークホルダーに対して満遍なく対応することは難しく、PMは①→②→③→④の「逆ゼット(Z)」順(枠)で見るのがよいと言われます。

ステークホルダーと分析結果を記録する
ステークホルダーの特定とマトリックスで整理された分析結果を一覧化したものが「ステークホルダー登録簿※3」です。ステークホルダー登録簿へ明文化することで今後の「計画」やエンゲージメントによる変化をモニターすることを可能にします。

名前など基本情報を明確にした上で「マトリックス」で検討した情報を記載します。また対応内容には分析で得られた方針を元に「どのような態度・対応をとっていくのか(その必要があるか)」といったステークホルダーへの対応を整理して記載します。
ここで注意したいのがステークホルダー登録簿の管理です。ステークホルダーマネジメントに伴う分析や整理はプロジェクトに必要の営みですが、例えば「XX部長はXXに関心がないので、もうすこし関心度を高めてもらうようにXXX」という記述を見たらどうでしょうか?例えそれが確からしい分析や情報であったとしても、見る人によっては少し思うところがでるかもしれません。ステークホルダー分析結果や登録簿に記載された内容の中で基本情報以外、つまり「分析結果」はその取り扱いには注意が必要です。基本的にはPMのみが管理(アクセスできる場所への保管を含む)することをお勧めします。
ステップ②:計画する
ステップ①で行ったステークホルダーの特定、分析、整理記載をベースに、ステークホルダーへのより具体的な対応を計画します。ステークホルダーとの効果的な対話と関与を促す方法を考えます。
例えば財務部の吉田さんは、、、
- 現在関心度は高いが財務部としての関心であり、プロジェクトの後半で費用の締め付けや指摘などがあるかもしれない
- 開発予算がXXに収まることがわかれば安心してもらえそうだ
- 次フェーズ開発コストの獲得を行う際、吉田さんの発言力は高いが今フェーズの予算消化が物をいいそうだ
→なんとか吉田さんとの関係性を高め、関心度をより高めてプロジェクト支援者になってもらえないだろうか?
→XX役員に後ろ盾になってもらうことで解決できないだろうか?
といったように、ステークホルダーとの関係性を変化させることでよい影響がもたらすことができないか「仮説」をシュミレーションすることからはじめます。分析からステークホルダーのニーズと視点、考え方を理解し、プロジェクトの成功に近づけるためにどんなアクションが取れるかを計画することはPMの役割です。ステークホルダーの立場に立って考えてみましょう。
ステップ③④:ステークホルダーエンゲージメントの実行と定期的な見直し
各ステークホルダーをプロジェクトに巻き込み、プロジェクトの成功に向けて継続的に関わって貰うには、交渉やコミュニケーションを通じて期待をマネジメントすることが必要です。
ステークホルダーと常に情報共有すること、プロジェクト中に発生する変更や進捗情報を知らせるようにしましょう。また適切なレポーティングは可視性が高まるだけではなく、誤解が発生するリスクも減らせます。すべてのステークホルダーに満遍なくは対応できず、またその必要がないことはステップ①でもお伝えしました。完璧なコミュニケーション補完とソリューションはありませんので、力のかけ具合や対応頻度を事前に決めておくことが大切です。またプロジェクトが進むにつれ、プロジェクトと同様にステークホルダーの状況(対象者、興味関心、影響度など)は変わります。定期的な棚卸しを忘れずに。
さいごに
ステークホルダーを意識し、マネジメントすることはプロジェクトをハンドリングするPMにとって非常に重要な活動ですが、実態として時間的制限から行われない(おざなりになる)、苦手意識があるといった課題を耳にします。どうしても必須の対応になりにくいステークホルダーマネジメントの大切さと効果をぜひみなさんには理解し実施していただきたく、本連載ではあえてQCDマネジメントやリスクマネジメントといったパートより先にお話ししてみました。
次回は、プロジェクトを始動させる際に必要なプロジェクト憲章やマネジメント計画書の作成とその方法についてお話ししていきます。
<参考・引用>
- ※1:PMBOKガイド第6版.P729.プロジェクト・ステークホルダー・マネジメント
- ※2:PMBOKガイド第6版.P512.権力と関心度のグリッド、権力と関与度のグリッド、または影響度と関与度のグリッド
- ※3:PMBOKガイド第6版.P514.ステークホルダー登録簿
連載一覧
【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]

