現役PMが徹底解説。プロジェクトマネジメント成功の技術

本連載ではプロジェクトマネジメントの全体像と、プロジェクトを成功させる上で最低限抑えるべき知識と技術はもちろん、プロジェクトを炎上させないための技術やコツをお伝えしたいと思っています。

みなさんのプロジェクトが今以上に充実し、笑顔でプロジェクト終結を迎えられるよう一緒に学んでいきましょう。

第8回となる今回のテーマは「コストマネジメント」です。
限られた財源を意識してプロジェクト内で追加コストが発生しないように管理し、プロジェクトの目的・目標を達成することはとても重要です。

しっかりとしたコスト計画方法を知り、コストをマネジメントを適用することで、プロジェクトにとってコストは「管理するだけではない、変化に対応する武器」になるはずです。

プロジェクトマネジメント成功の技術 連載一覧>※クリックで開きます

【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]

コストマネジメントとは

コストマネジメントとは、プロジェクト予算内で遂行するための必要コストの見積もりや予算策定、それらをコントロールする活動を指します。

プロジェクトを行うには、当然ですが人件費や開発費用といったコストが発生します。プロジェクトにおける「鉄の三角形」であるQCDに「C:COST」があるように、コストをしっかりと管理していないと、プロジェクトを終えられたとしても赤字になるなどして、プロジェクトが失敗したという評価になる可能性があります。また、予算超過が原因でプロジェクトが停止してしまうこともあります。しっかりとコスト計画とマネジメントを行っていきましょう。

PMBOKではコストマネジメントを以下7つのステップ(プロセス)で行うとしています。※1

■ QCD
「QCD」とは、Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)の頭文字。

コストマネジメントのはじめかた

1) 「コスト管理表」を準備し、継続した「管理」を開始する

プロジェクトにおけるコストマネジメントはコストが「いつ」「どれぐらい」必要か、その利用実態は「どうなっているか」を把握し、コントロールしていくことです。
よくあるのが「プロジェクト開始時にコス予算は検討したけど、その後全く管理せず途中で予算が足りなくなった」「予算超過するのが嫌で多めに見積もったら指摘された」といったものです。

以下コストの見積もりにもあるように、まずは「どれぐらい必要か」を正しく検討し「足りない/多い」のブレを狭めていくこと、そしてちゃんと「予備」は別のおさいふで分けて管理することです。その結果どうしても過不足が発生することは、プロジェクトの中では起こりうるものと考えましょう。何よりコスト管理表を作成することで気をつけたいのは、プロジェクト実行中にそれらの検討/計画したコストが適切に使われず消化しきれないなどして「プロジェクトが上手く機能していない」ことに気づくことです。

例えば
ーあれ?5月に人員を新規で立ててA機能を作るはずだったのに、その月に消化されていない? → 人員発注し忘れていたなど
ー通常5月にXX万円かかるはずが思いのほか消化が少ない? →  タスク実施が未着手、全体のスケジュールに遅延を及ぼしそうだ
ということに、コスト管理表から気づくことができますし、早めに手当をすることができます。
お金の出入りを記録するだけでなく、そこから「プロジェクトの動きがどうなっているか?」や「どのように手当すべきか」を見極めアクションを取れるようにコスト管理表を使っていきましょう!

2) コスト計画や管理表記載時の注意点

コスト計画や管理表に記載する際は、管理する資源ごとの単位を規定しましょう(例:時間を測定する場合は、労働時間や日数、通貨など)。記載の精密さのレベルや正確さのレベル設定も併せて必要です(例:見積りの正確さの許容範囲を±10%とする、といったレベルを設定するなど)。

また計画したコストの値からどれぐらい変動があったら手当をしなければならない、といった「閾値」を設けておかないと、Aさんは「これくらいのコスト変動(予実差)は許容できるだろう」と思っていても、Bさんは「すぐに処置が必要だ」と感じるかもしれません。そのような感覚に左右されないコスト監視やコントロールができるよう事前に計画、準備記載しておきましょう。

コストの見積もり

1) 見積もり精度のブレは結構大きい(最初から正確を求めない)️️

プロジェクトの見積もり精度はプロジェクト活動が進むにつれて向上します、つまりプロジェクト初期(立ち上げフェーズ)はどうしてもその精度は十分ではありません。最初から正確で変更/修正が発生しない見積もりを作成することはできませんし、その必要もありません。その時点でわかっている情報を整理すること、そして「最適なコスト」にするために検討を継続することが何より重要です。
またPMBOKの指標ではありませんが、一般的に「超概算」と呼ばれる見積もりは-50~+100%、予算化するタイミングでの概算は-10%~+25%とされています。

2) 見積もり方法※3

コストの見積もりは、人件費(単価)、材料費、インフレーション、リスク要因など数多くの変数の影響を受けます。ですので、PM一人や限られたメンバで作成するのは避け、専門家や社内外にある経験や知識を集積して見積もるようにしましょう。

  • 過去の類似プロジェクトの見積もり
  • 業界、領域、専門分野の情報 
  • 成果物の内製化や外製化の検討 (代替案分析) など

何もないところからの検討はやりにくいので、WBSやGANTTチャートの活動ごとやプロダクトごとにフォーカスした検討や、過去の類似プロジェクトではこれぐらいだったが今回はどうか?というように差分や変化を確認するような導き方がおすすめです!

3) マネジメント予備、コンティンジェンシー予備

マネジメント予備(予備費)、コンティンジェンシー予備(予備費)という言葉を聞いたことがあるでしょうか?どちらもプロジェクトのコストとして予備的に計画/準備されるコストです。

コンティンジェンシー予備とは、主にリスク発生を鑑みて適応されるコストです。
例えば「成果物のどこかに手直しの発生が想定されるがどこであるか(手直しが発生するかも)わからない、もし発生した場合にかかるコストを予め用意しておこう」というものがこのコンティンジェンシー予備の使い先になります。一般的にはPMの裁量で使用することができます。

マネジメント予備は上記に対して「予期せぬ作業や事象に備えて用意」しておくコストです。例えば「プロジェクトの途中でクライアントから突発の追加要求が上がってきた」という「いざ」という事態に使うかもしれません。使用にあたってはプロジェクトスポンサー(PO)の承認が必要です。組織やプロジェクトによって「(見積予算 + コンティンジェンシー予備)× ○%」と一律規定、準備する場合もあります。

筆者の経験では、この予備費が適切に検討されずコストに組み込まれないことが多いなと感じています。とはいえ、プロジェクトの変化に耐えうるにはそれなりのコストが必要なのも事実です。そのような苦い経験を教訓にしてか、見積もり予算に「ましまし」の数字をつける(つけてくる、つけられた見積もりがメンバ等から上がってくる)状態になるのかもしれませんが、スケジュールと同様に適切な行動ではありません。必要なコストを見積もり続けること、それとは別に予備費を確保していざに備えること、これらを混同せずワンセットで行うようにしていきましょう。

4) 品質コストを盛り込もう

品質コスト(COQ:Cost Of Quality)の前提条件を盛り込む必要があります。品質コストとはその通り品質を確保するためのコストであり、予防コスト、評価コスト、不良コストなどが含まれます。

コストをマネジメントするために

コストコントロールの大部分は、コストの消費と当該支出の作業結果の関係を把握し分析することです。その時に単に「支出だけ」を追跡するのではコストコントロールの意味はぼやけます。必要なのは、達成した作業の本当の「価値」であり、それらを数値的に捉え「コントロール」することです。

「遅れています」「進んでいます」「月末までには完了すると思います」
こういった主観的な報告(説明)に対して、マネジメントする側として客観的に「ほんとうに?」という疑問や、「そうだよね」という納得を返せる助けになるのが、複数の指標をコストに換算して管理できるアーンド・バリュー・マネジメント(EVM:Earned Value Management)という手法です。※4
「計算」というと拒否反応があるかもしれませんがEVMは手で計算しなくてもツールやエクセルなどを使えば楽に算出できますので、EVMでなにができるか?を理解して、プロジェクトの進捗状況や将来の問題をコストコントロールをしながら察知できるようにしていきましょう。

1) EVMで実績と進捗を定量的に可視化

EVMを使用する最大のメリットは

  • コスト目線でのプロジェクト状態を「客観的に」測定することができる
  • 精度の高い将来予測(見積もり)ができるようになる

ことにあります。実際に、1960年代の米国でその膨大な国家赤字を見直すために、国防省でプロジェクトのパフォーマンス測定方法が見直されたことにEVMの起源があります。その後は米国産業界のガイドラインとして、政府調達のプロジェクトの前提条件となっています。

2) EVMで使う指標と分析

EVMとは現在の進捗状況や将来の問題を察知するプロジェクト管理の手法のひとつでEVMで最も利用されるアーンド·バリュー分析(Earned Value Analysis, EVA)は、プロジェクトのコストとスケジュールの進捗を統合的に評価する手法です。計画と実績を比較し、プロジェクトの健全性を定量的に把握します。使用される3つの指標は以下の通りです。※5

これらのPV、AC、EVの指標を使い、コストを縦軸、経過期間を横軸とするグラフを作成します。このグラフを基にこれまでのプロジェクトに費やされた作業量から推定し、プロジェクト完了にはどうなるか、という見積もりができるというわけです。EVMやそれら使った実績推移グラフからスケジュールの遅延やコストの超過が読み取れるなど、計画と実績の乖離が起きていたら即座に手を打つなど、問題が改善できるうちに対処するなどの予防を行いましょう。

3) EVMを使わないプロジェクト規模

EVMの他にも複数のコスト分析方法がありますが、まずはEVMをコストマネジメントに取り入れられれば十分です。むしろ、誤解を恐れずに言えば多くのプロジェクトで十分にEVMが使われていません。小規模プロジェクトではコスト管理のためのコストをかけることで、プロジェクト自体がショートすることになりかねないからです。筆者の感覚では最低5000万円以下のプロジェクト規模であれば、EVM以外のコスト管理をおすすめします。

コストが溢れそうだ!その時は。

プロジェクトは段取り(準備)が肝であり、コストもいかに計画、計算、想定しておけるか(計画の上で実行できるか)が、その後のプロジェクト成功の鍵です。残念ながら、どれだけ計画しても「まったく計画通り」に進むことは少ないですが、少なくともそれらの「事態」に予備費を準備したりするなど備えをしてきましたね?

みなさんがコストに対して、最も注力して対処するタイミングは「計画時」です。
コスト計画時に

  • プロジェクトオーナーから指示された予算よりオーバーしてしまいそうだ
  • 明らかにプロジェクト憲章に記載した予算と乖離があるぞ

とわかったらしめたものです。計画時には2つの方法で予算とコストをポジティブに調整していきましょう!

1) 基本的なコスト修正対応(1)

成果物の機能を簡易的な内容に調整したり、予定していた活動やタスクを見直す=(今回は)やめる/スコープから切り離すなどしてコスト調整する「ECRS(イクルス)」を試しましょう。

ECRS(イクルス)とはEliminate(排除:取り除く)、Combine(結合:つなげる)、Rearrange(交換:組み替える)、Simplify(簡素化:単純にする)の頭文字で、元々は製造現場における的確な課題抽出と効果的な業務改善の手法として考えられたものですが、現在ではさまざまな業務改善に用いられています。

  • 排除(Eliminate):その業務をなくすことができないか?
  • 結合(Combine):その業務を他の業務などと一緒にまとめられないか?
  • 交換(Rearrange):その業務の順序や場所などを入れ替えることで、効率化できないか?
  • 簡素化(Simplify):その業務のやりかたをより簡単にできないか?

一般的にE→C→R→Sの順に改善効果が大きいと言われています。

2) 基本的なコスト修正対応(2)

予算自体を変更する(してもらう)交渉を恐れずに行いましょう。プロジェクトオーナーやクライアントなど、決裁者との会議や検討を設定し、予算自体適切に変更するための承認活動を行います。つまりプロジェクト憲章自体の予算を変更する、ということになります。いわずもがなですが、安易に予算変更(予算オーバー)承認を得るという考え方ではありませんので注意してくださいね。

多くの場合は、修正対応 (1)と(2)を組み合わせた検討と交渉/承認がスタンダードです。無理な計画、無理のあるコストでプロジェクトを実行しても、後々苦しくなります。プロジェクトの目的/目標の達成に必要な修正対応は早めに行いましょう。

おわりに

PMは「限りある予算と限りない要求という圧力」と常に共にあり、コストマネジメントは大変困難な仕事です。そしていかに計画・準備とマネジメント施しても、どうしてもオーバーランするものだと意識してください。ITプロジェクトでは規模が大きくなる程予算超過率も高く、超過しないプロジェクトの方が少ないでしょう。コストの適正さや課題を日頃からプロジェクトオーナーと共通認識をもっておくこと。最も情報が少ないプロジェクト初期がコストマネジメントの重要タイミングであることを忘れず、コストマネジメントを困難にする様々な要因に立ち向かっていきましょう!

次回のテーマは「プロジェクトの品質マネジメント」です。

<参考・引用>

※1:PMBOKガイド第6版.P231.プロジェクト·コスト·マネジメント.プロジェクト·コスト·マネジメント·プロセス
※2:PMBOKガイド第6版.P240.コストの見積り
※3:PMBOKガイド第6版.P243-245.コストの見積り:ツールと技法
※4:Wikipedia.アーンド・バリュー・マネジメント
※5:PMBOKガイド第6版.P261.データ分析.コストのコントロールに使用できるデータ分析技法
※6:PMBOKガイド第6版.P267.アーンド・バリューの計算一覧表を参考に図表化

連載一覧

【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
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SQRIPTER

西田 美香(にしだ みか)

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専門商社でマーケティングや海外事業会社の立ち上げなどを経験後、プロジェクト課題を抱える企業をより近くでサポートしたいという思いから、現在はプロジェクトマネジメントを専門に従事。戦略検討から実行フェーズまでプロジェクトの全段階にハンズオンで支援している。

PMP/CSM(認定スクラムマスター)/MBA(経営管理修士)/EMBA(経済学修士) 

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