
本連載ではプロジェクトマネジメントの全体像と、プロジェクトを成功させる上で最低限抑えるべき知識と技術はもちろん、プロジェクトを炎上させないための技術やコツをお伝えしたいと思っています。
みなさんのプロジェクトが今以上に充実し、笑顔でプロジェクト終結を迎えられるよう一緒に学んでいきましょう。
<プロジェクトマネジメント成功の技術 連載一覧>※クリックで開きます
【第1回】プロジェクトマネジメントとは何か? [全文公開中]
【第2回】プロジェクトマネージャーの役割とは?
【第3回】ステークホルダーマネジメントの重要性と進め方
【第4回】プロジェクトの統合マネジメント、7つのプロセス
【第5回】プロジェクトにおけるスコープマネジメント、6つのステップ
【第6回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[前編]
【第7回】WBSだけでスケジュールはできない!正しいスケジュールの導き方[後編]
【第8回】コストをプロジェクトの武器にする!
【第9回】目に見えにくいプロセス管理こそ品質達成の鍵
【第10回】プロジェクトのリスクマネジメント[前編]リスクを徹底的に洗い出す
【第11回】プロジェクトのリスクマネジメント[後編]リスク分析とコンティンジェンシープラン
【第12回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[前編]
【第13回】人がプロジェクトの源泉!チームは育てて強くする[後編]
【第14回】コミュニケーションの本質を知り、使いこなそう!
【第15回】笑顔で終わるプロジェクトはここが違う!プロジェクトクロージングのTODO [全文公開中]
プロジェクトマネジメントを勉強する人やPMが必ず出会う言葉に「PMの仕事のXX%はコミュニケーションである」というものがあります。PMP試験やその他のプロジェクトマネジメント(PM)試験において、「コミュニケーション活動」が占めるのは、一般的に90%に達すると言われています。これはPMが行う業務の大部分が、関係者とのコミュニケーションに関連しているという考えに基づいているからです。とはいえ実際に90%やそれに近い数字かは別として、コミュニケーションがプロジェクトとPMにとって大変重要なのは間違いありません。
しかし、よくよく考えてみるとこの「コミュニケーション」というのが曲者です。単純に対話するだけでなく、聞く、公式・非公式の伝達、相手への説得、メディアの活用などあらゆる場面でコミュニケーションという言葉が使われ、とても複雑で曖昧な要素を含むからです。
プロジェクトをマネージメントするにあたりコミュニケーションやスキルが大切だ、と言われ否定する人は少ないでしょう。だからこそ、この「漠然としたコミュニケーション」を「使いこなす」ために、「具体的にどのような活動が必要なのか」を分解・整理していきましょう!
プロジェクトにおけるコミュニケーションとは
1) 概念
PMは異なる文化・組織的背景を持つステークホルダーの橋渡し役を務め、プロジェクト活動に必要な「情報交換(送受信)」を円滑に行う必要があります。プロジェクト情報の収集、配布、保管、マネジメント、監視、最終的な廃棄などを適切且つ確実に行うために、以下のようなステップでコミュニケーションマネジメントの計画を立て、実際にマネジメントし、計画が想定通りに進んでいるか監視します。

2) 情報交換のメカニズム
情報交換におけるメカニズムや種類は目的や状況に応じて使い分けなければなりません。情報交換の効率や効果を高めるために、これらの要素を理解し適切に活用していきましょう。また必ずしも同じ情報交換方式を使い続ける必要はありません。その時々に適した方法を「意識的に選択し、活用できているか」に気をつけてみましょう。PMBOKでは「情報が交換される仕組み」について以下のように整理しています。※1
- 伝達手法 :書面、物理的または電子的
- 口頭方法 :対面またはリモート
- 正式または略式:正式な書類またはソーシャルメディアなど
- 非言語 :口調や顔の表情、ボディーランゲージ
- メディア :写真、行動、簡潔な言葉の選択
- 言葉の選択 :複数の表現可能な言葉の中で、適した表現を用いる
3) コミュニケーションの活動対象とその側面例
プロジェクト内に存在する様々なステークホルダーに対しても、それぞれの関係や背景に応じた意識的な関わり方が必要です。PMBOKでは「コミュニケーションの活動対象とその側面」について以下のように整理しています。※2
- 内部 :プロジェクト内および組織内のステークホルダー
- 外部 :顧客、ベンダー、その他のプロジェクトや外部のステークホルダー
- 正式 :正式な会議(定例および臨時)、会議の議題と議事録、プレゼンテーションなど
- 略式 :電子メール、SNS、チャットツールなど簡略的なコミュニケーション活動
- 書面と口頭:口頭(言葉と声の抑揚)と非言語(ボディランゲージ)、ソーシャルメディアやWebサイトなど
- 公式 :年次報告書、規制当局や政府機関への報告書
- 上方 :上級経営層のステークホルダーに向けたもの
- 下方 :プロジェクトの作業に貢献するチームなどへ向けたもの
- 水平 :プロジェクト管理者やチームの同僚へ向けたもの
4) コミュニケーションスキルというものの実態
ひとつの例として、プロジェクトのスケジュールを承認・合意するまでのシーンで考えてみましょう。

上記はごく簡略した流れであり、また進め方はこの流れに限らないでしょう。しかし言えることは、コミュニケーションと呼ばれる活動は細かく分解でき、多彩なスキルで構成されているということです。冒頭にお伝えしたように複雑で曖昧な要素を持ち、あえて言えば「まとまった実態がない」のです。ですから、コミュニケーション能力がある・ない、必要だ、と漠然と語るのではなく、どのようなコミュニケーションスキルが不足していたのかを細かく考えたり、その結果に沿った対応することが必要ですね。
なぜプロジェクト内のコミュニケーションは上手くいかないのか
1) コミュニケーションはメンバーの数だけ煩雑になる(組織内の複雑さを測る場合)
PMは「コミュニケーション・チャネルの総数を意識せよ」と言われますが、どういうことでしょうか?
コミュニケーション・チャネルとはプロジェクト(あるいは組織)内のコミュケーション経路を指します。そしてチャネル数はコミュニケーションに関わる人の数です。
コミュニケーション・チャネル数の計算式は:n(n-1)/2 n=ステークホルダーの人数
ひとりの人から見たコミュニケーションの相手が5人だとすると、チーム6人全員の組み合わせは 6人×(6-1)=30、コミュニケーションは双方向であることから 30/2=15 がチャネル数なります。ここで直感的に感じるのは、人が増えれば増えるだけコミュニケーションは複雑化する、つまり誤解やコンフリクトの可能性が増えるということです。「一応XXさんに情報共有しておいて」「XXさんは直接活動しないけれど、体制にいれておく」といった安易なメンバー増幅はとても危険だということです。「適切に最小限のメンバーで活動すること」が、コスト面で考えたプロジェクトにもコミュニケーションマネジメントにも効果を発揮します。

2) 「ノイズ」を理解して、転ばぬ先のコミュニケーション
コミュニケーションは単純化すると以下のような送信者・受信者の関係(モデル)があります。

双方向のコミュニケーションはシンプルに見えて実はやっかいです。なぜならそこには常に「ノイズ」が発生し、必ずと言って良いほど自分が思うことはシンプルに相手に伝達されないからです。できることはそのノイズの存在を受け止めた上で「いかにノイズを小さくする工夫が(少なくともこちらから)できるか」に尽きます。
みなさんが伝えたいことは、他者が正しく理解できるようなテキスト、音声、媒体などで構成されていますか?
そのメッセージに合わせた媒体を選択しましたか?(口頭伝達が望ましいメッセージなのに、安易にメールを選択するなど)
ノイズを考慮した上で、メッセージが受け取られ且つ正しく理解されているか確認を怠りませんでしたか?
ノイズの例)
- 物理的ノイズ : 通信経路における物理的な干渉(例: 声の届きにくさ、通信機器の故障)
- 心理的ノイズ : 受信者の気分や状態による情報の受け取り方の変化(例: ストレスや集中力の欠如)
- 言語的ノイズ : 言葉の意味や用法に関する誤解(例: 専門用語の使い方)
3) その他の考慮しておきたい事項
考慮したいこととしては、コロナ禍以降増えたリモートワークを含め、チームメンバーの物理的な場所やグローバルチームであればメンバーのタイムゾーン、使用できるコミュニケーション方法/技術/ツールとコスト効率、チームの多様性に考慮した言語の適用やルール決め、チームの知識レベルに合わせたリポジトリの活用など様々です。プロジェクトにフィットしたコミュニケーション環境を注意して設定するようにしましょう。
ミスコミュニケーションは必ず起きる。誤解に対処し続けることが大切
コミュニケーションにおける誤解とは、情報の発信者と受信者における「解釈の齟齬」です。
どれだけ綿密に計画しコミュニケーションを図っても、誤解の発生をなくすことはできません。注意しながらもプロジェクト内に誤解や衝突が発生した際には、すぐにPMが解消に向けてアクションしましょう!コミュニケーション・マネジメントに簡単な近道はありません。
1) コミュニケーションの5Cを抑える
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